続・軍務尚書の戯言

国際情勢や医学ニュースに関して日々感じたことを残すブログです。

第三の敗戦を繰り返さないために~其の四:誤った民族主義への警鐘~

2005-06-25 03:49:53 | 論文・考察
沖縄は23日、日本軍の組織的抵抗が終了したとされる日である60回目の「慰霊の日」を迎えた。
1945年4/1にアメリカ軍の沖縄上陸によって始まった沖縄戦は,牛島満司令官に指揮された日本軍の強固な抵抗により泥沼の地上戦に突入し,民間人を巻き込んでまさに地獄絵図となった。
アメリカ軍は54万人の大兵力を動員し圧倒的な物量を誇ったにもかかわらず、沖縄攻略に三か月近い日数と7万5千人にのぼる死傷者を出し、太平洋戦争で最も被害をうけた戦闘となった。
一方,十分な装備や食料もないまま「死守命令」を受けた7万5千人の日本軍と多数の沖縄県民は、絶望的な戦いと「捕虜となる辱めを受けず」と言う皇国教育にもとずく集団自決であわせて20万人以上の犠牲者を出して壊滅し、1945年6/23牛島司令官は自決し日本軍の指揮系統は完全に消失,この日を沖縄戦における組織的抵抗が終了した慰霊の日と定めているのである。

沖縄戦をはじめとする第二次世界大戦末期の歴史上類を見ない日本軍の玉砕戦は、良い意味でも悪い意味でも我々の心を強く打たずにはおられない。
特に神風特別攻撃隊として戦場に若い命を散らした兵士の遺言書や家族に宛てた手紙を読んだ時,彼等が崇高な理想と高度な知識を持ちながら迫り来る極めて理不尽で確実な「死」をなんと淡々と受け入れているかに驚き、その文章からにじみ出る憂国の情,母なる国・日本への思い,そして家族を守るという強い意志と崇高な自己犠牲の精神を知り、同じ日本人として涙せずにはいられないのである。
これは我々日本人だけでなく実際に日本軍と戦ったアメリカ軍兵士にも感じられた様で,彼等には考えられないような悪条件の中で強固に抵抗し最後の一兵となるまで戦闘を続けた日本軍兵士や、自らを爆弾の一部として戦艦に特攻してくる神風特別攻撃隊の操縦士を単に「クレイジー・モンキー」と吐き捨てるものばかりではなかった。
アメリカ太平洋艦隊司令長官ニミッツ提督は,ペリュリュー島の日本軍1万2千人がアメリカ軍の猛攻に最後の一兵となるまで強固に抵抗し、司令部全員が割腹自殺するという壮絶な玉砕を遂げたことに強く感銘を受けた一人であり,彼が建立した石碑にはこう書かれている。

諸国からこの島を訪ねる旅人たちよ
どうか伝えてほしい
この島を守るために日本軍人は
勇敢な愛国心をもって戦い
そして全員玉砕したということを

人類の歴史上「壮大かつ最も愚かな社会実験」であったソビエト連邦の崩壊とこれによる共産主義圏の消失は、今まで隠蔽されてきた共産主義による多くのグロテスクな現実を白日の下にさらけ出し,長年左翼系教師のもとで反日偏向教育を受けてきた日本人の心に大きな変化をもたらした。
今までは絶対的タブーであった憲法改正や自衛隊の合法化が公に議論されるようになっただけでなく,第二次世界大戦における日本の果たした役割やその意義について考えるとともに,いままでは「加害者」として常態化していた東アジア諸国に対する土下座外交を改める機運すら生まれるようになった。
反日偏向教育の象徴であった教科書に関しても,今までの左翼的自虐史観に疑問を投げかけ独自の視点から日本史を見つめ直すことを目的とした教科書が検定を通過し、教育現場で使用可能となった。
また次世代を担う若者に小林よしのり氏をはじめとする新世代民族主義に強く賛同する人々が現れ,左翼系の人が呼ぶ「ネット右翼」「ネチズン」と呼ばれる集団を形成しているのは周知の事実である。
こうした近年の流れは,偏向した左翼的自虐教育と左翼系マスコミによる情報操作から人々が解放され,第二次世界大戦を再度自分の目で見直すことでこれまで否定されてきた日本人的価値観を取り戻そうとする動きであり非常に喜ばしいもののはずなのだが,残念ながら小生はこの流れの中に非常に危惧すべき点があると考えている。

それは左翼的価値観からの急速な反動の結果,日本人が再び自己中心的で独善的な民族主義に陥る危険性だ。

小林よしのり氏をはじめとする新世代民族主義の人々は,彼の著書「戦争論」にも記されているように、左翼系教育者や左翼系マスコミが封殺してきた第二次世界大戦における日本の果たした正の側面に焦点を当てることで人々に訴え,共感を得ることに成功している。
すなわち、

1. 第二次世界大戦以前の帝国主義時代において,日本はアジアで唯一の独立国であり,欧米列強の侵略から日本を防衛するためには帝国主義的政策をとる必要があったこと。
2. 太平洋戦争の開戦は,アメリカの貿易封鎖とハル・ノートによる最後通牒により,やむにやまれぬ決断であったこと。
3. 黄色人種が白色人種と対当もしくはそれ以上に戦えると言う事実を世界中に知らしめ、多くのアジア民衆が日本の勝利に喝采を送ったこと。
4. 第二次世界大戦中の占領地で日本軍により教育を受けた人々の多くが第二次世界大戦後独立運動の指導者となり,帝国主義時代の終焉をもたらしたこと。
5. 左翼的偏向教育とは異なり,神風特別攻撃隊をはじめとする多くの日本軍兵士が崇高な理想と母国防衛の情熱に燃えた勇敢な戦士であったこと。
6. 日本軍の神風特攻や玉砕を辞さない凄まじい抵抗がアメリカ軍の本土上陸を躊躇させ,結果戦後の国体および天皇制の維持につながり,現在の日本繁栄の礎となったこと。

以上の主張に関しては小生は諸手を挙げて同意する。
第二時世界大戦は、我々が偏向教育の中で押し付けられた様に「帝国主義に狂った日本政府と軍部がアジアを侵略して非道の限りを尽くした挙げ句、多くの日本人とアジア人を犠牲にして正義の国アメリカと中国に敗北した」戦争ではない。

しかしこうした主張の問題点は,反動のあまり客観的な視点が欠落し、左翼系教育者の場合と同じく歴史の持つ違った側面や事実を無視してしまっている点だ。
確かに日本軍兵士の多くは「大東亜共栄圏」という理想を持った勇敢な兵士であったが,その理想の高さ故に独善的となりアジアの民衆を蔑視し,戦況の悪化により多くの残虐な行為や虐殺,捕虜の虐待を行ったのは事実である。
また玉砕攻撃や神風特別攻撃隊に代表される兵士の気高い自己犠牲精神と日本防衛の情熱とは裏腹に,「第三の敗戦を繰り返さないために~其の二:責任の明確化~」でも述べた様に、兵士を指揮する軍指導部では統帥権を楯に無謀な作戦を連発する辻政信のような参謀や、インパール作戦を強行した上に失敗の責任を部下に押し付け自分は娼婦と戯れていた牟田口廉也のような将軍が権力をほしいままにしていたのだ。
彼等の兵士の生命を軽視する姿勢・自己の権力と体面の維持・統帥権を楯にした専横が、補給を軽視した無謀な作戦の乱発や戦略的に無意味な死守命令を招き,結果日本軍は各地で補給もなく分散したまま圧倒的なアメリカ軍に各個撃破され民間人を巻き込んで玉砕するという悲惨な敗北を繰り返したのである。

遺書にもあるように非常に高い教養と理想を持ち日本防衛の情熱に燃えていた若い兵士たちを,提案した司令官大西瀧治郎中将自らが「邪道の作戦」と呼びその成功率も通常攻撃と比し高くはなかった神風特別攻撃隊として使用したこと,日本軍兵士の死因の多くは実際の戦闘による戦死ではなく補給の軽視から招いた食料の不足による餓死・病死であったこと、沖縄戦では住民を巻き込んだ地上戦の狂気の中、日本軍による虐殺や自決強要により10万人以上の沖縄県民が犠牲となったことは、目を背けてはならない歴然とした事実である。

第二次世界大戦では、欧米列強からアジアと日本を守るため日本は高い理想をかかげて勇敢に戦い、多くの兵士は祖国と家族のためその尊い命を犠牲にした。
だからこそ、第二次世界大戦を単に賛美・美化するのではなく,彼等を現地で略奪をせざる得ないような状況に追い込み,無謀な作戦で戦略的に無意味な死守命令のもと多くの兵士を玉砕させた軍指導部の無能さと卑劣さをしっかりと認識しなくてはならない。

神風特別攻撃隊の提案者・大西瀧治郎中将は常に自分の実施した作戦に苦悩し、多くの若い命を空に散らせたことに責任を取って「吾死を以て旧部下の英霊とその遺族に謝せんとす」との遺書を残して敗戦翌日割腹自殺した。
しかし他方では多くの兵士を無駄死にさせ悲惨な敗戦を招いた張本人である辻政信参謀と牟田口廉也司令官は、ともに責任を取ることなく戦後長寿を保ち自己の正当性を声高に叫び続けたのである。

人は聞きたいことしか聞かず見たいものしか見ない傾向があり,われわれの祖父たちが「残虐な日本兵」であるとするより「勇敢な兵士」であるとするほうが受け入れやすい。
第二時世界大戦の意義を見直し、日本と家族のために勇敢に戦い死亡した兵士たちの失われた尊厳を取り戻すのはすばらしいことだ。
しかし同時に日本軍指導部の愚かさ、唾棄すべき人々の存在、日本軍が行った残虐な行為を正当化することがあっては決してならないのである。

現代に生きる我々は,崇高な理想のもとで戦った多くの兵士の死を無駄にしないために,偏狭で独善的な民族主義に陥ることなく、客観的に歴史を見つめ,反省すべきは反省し,それをこれからの日本に役立てて行かねばならない。

今日の箴言
「諫言は耳に痛く,良薬は口に苦し」

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