続・軍務尚書の戯言

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小泉首相という人物~その歴史的意義~

2005-07-12 06:51:13 | 論文・考察
先日の郵政法案のきわどい衆議院通過は、小泉首相の求心力の低下と政治手法の限界を露呈し一気に政局を流動化させている。
現在の参議院における議論でも,小泉首相と政府は伝家の宝刀である衆議院解散権を楯に反対派を恫喝する一方で参議院での修正を匂わすなど、まさに「飴とムチ」を使ったなりふり構わない戦術でなんとかこの法案を成立させようと必死だが、以前とは異なり党や派閥による議員のコントロールが効かなくなりつつある現在の自民党では、こうした戦術がどこまで効果があるか疑問であり,特に解散がなく特定郵便局組合の影響力の強い参議院では郵政法案の否決は避けられないと思われる。
小泉首相は以前から自分の任期は2006年秋までと公言しており総裁職にこだわりがないことは明白だし、郵政民営化が最大の政治目標であると再三主張していることからも,参議院で否決されれば衆議院解散は確実に実行され,結果自民党は分裂して政権を離脱、彼の公約の目玉であった「自民党をぶっつぶす」という事態が図らずも実現する訳だ。
残り少ない彼が日本の首相である日々に、彼の歴史的役割を再度検討することは今後の日本の政治や将来を考える上で大変重要なことだと思う。

彼の歴史的意義の第一は,「政治は国民によって変化しうる」という当たり前だが日本人の多くが忘れていた事実を国民にまざまざと見せつけたことだ。
失言総理大臣森喜朗の退陣を受けて総裁選候補に三度目の立候補をした時,彼が総裁になることをいったい誰が予想し得ただろうか。
自民党総裁選挙の常態であった派閥力学・政治力/資金力・根回し・院政政治のどの観点から見ても,彼が自民党の総裁に選任される可能性はほぼゼロであった。
野中務氏をはじめとする自民党実力者を名指しで批判し,強力な自民党の後援団体であった特定郵便局の民営化を公言し「自民党をぶっつぶす」と息巻く小泉氏は、自民党内では異端であり当初は「変人」とまで揶揄されていたのだ。
ところが総裁選が近付くにつれ,自民党支持者だけでなく国民を巻き込んだ彼に対する支持と熱狂が自民党を大きくゆるがし,最終的には一般自民党員の圧倒的支持を受けて橋本龍太郎氏をはじめとする他候補に地滑り的勝利を収めて自民党総裁に就任したのである。
もちろん反小泉派の面々が指摘するように、彼のルックスや過激な発言・巧妙な宣伝活動と優秀なブレーンによる情報操作により、バブル崩壊後のデフレ経済と社会システムの劣化に強い閉塞感を抱いていた国民が冷静さを失って熱狂した側面は否めないが,それでも「国民が動けば政治は動く」という民主主義の根本的原理を国民に認識させた功績ははかり知れない。

彼の歴史的意義の第二は,北朝鮮による日本人拉致事件を自らが金正日主席と会談することで白日の下にさらけ出し,一部の拉致被害者とその家族の日本帰国を成功させたことだ。
小泉首相以前の首相や政治家で,北朝鮮の日本人拉致問題解決に真剣に取り組んでいたのは,ほんのわずかな人々に過ぎない。
多くの首相や国会議員は,北朝鮮が日本人を拉致した事実に気が付いていながら,朝鮮総連からの圧力・外務省の親中国派の意向・左翼系マスコミによる糾弾を恐れて見て見ぬ振りを決め込み、家族会の訴えに耳を塞いでいたのである。
正義と平和の党・社民党などは、「北朝鮮拉致疑惑は右翼による捏造である」とまで言い切り家族会の人々を犯罪者呼ばわりまでしていたのだ。
この問題を正面から取り上げることは極めてリスクが高いことは小泉首相は十分に知っていたはずだし,狂った独裁者の王国・北朝鮮を訪問する危険性も十分認識していたはずである。
何せ相手は国際ルールの通じない相手であり,首相の拉致や殺害も可能性がなくはなかったのだ。
しかし小泉首相は金正日氏と直談判せねば解決策が得られないことも良く承知しており,選挙対策や自身の求心力を回復させるための方策であった側面は否定できないとしても,自ら北朝鮮に出向いて北朝鮮に日本人拉致を認めさせ一部の被害者を日本につれて帰ってきた事実は賞賛に値する。
彼は歴代の総理大臣や政治家がなし得なかったことを、身を挺してまで実行したのである。

彼の歴史的意義の第三は,憲法による制約を無視してまで自衛隊をイラクに派遣し,アメリカのイラク戦争を支持したことにより日米同盟を強固にしアメリカの信頼を勝ち得たことで、増大する中国の脅威から日本を防衛する手段を確立したことだ。
「日米同盟の意義~その重要性~」でも述べたが,今後の日本では急速に増大する中国の圧力に如何に対抗するかが国家の存亡を左右する。
朝日新聞や共産党のように史上最悪の非民主主義体制である共産主義体制を受け入れ,数千万人の虐殺を世界革命のためと割り切れるのであれば話は別だが,中華思想をもちアジアの覇権を意図する中国共産党に対していかに国土と日本国民を守るかが、政府と政治家に課せられた最重要項目なのだ。
前述の様に,日本単独で中国の脅威から自国を防衛することは不可能であり,強大な軍事力と巨大な経済力を持つアメリカとの同盟関係を強化・維持することは国際戦略上極めて妥当な判断なのである。
左翼マスコミや左翼政党、果ては政権担当政党を自負する民主党(笑)までもがイラクへの自衛隊派遣に反対したが,国際世論の中で孤立していたアメリカを強力に支持し憲法を曲げてまで自衛隊を派遣したからこそ、アメリカは日本を同盟国とみなし中国の脅威から日本を守る後ろ楯となってくれているのである。
こうした人々は「アジアにおけるバランサー論」などという寝言をほざき,アメリカの政策にことごとく反対して孤立を深める韓国が現在どのような状況にあり今後どうなるのか,しっかり見つめておいた方が良い。

小泉首相の政策や政治手法には同意できない点も多々ある。
彼は日本社会を「共生が第一のムラ社会」から「競争と淘汰を中心とした社会」へ作り替えたし,その過程で多くの弱者が切り捨てられているのも事実である。
終身雇用制や官・民の協力をはじめとする日本の伝統的社会システムは彼の任期中にことごとく崩壊し,その一方で新たなシステムは構築が遅れ,少数の「勝ち組」と多数の「負け組」が生まれその格差は広がる一方だ。

しかし小生は小泉首相を高く評価しているし,歴史的に評価すれば戦後の歴代首相の中でベスト5に確実に入る人物だと思う。
バブル崩壊以降日本は抜本的な社会システムの変革に迫られていたにもかかわらず、それを成し遂げられずに更なる深みに嵌るという悪循環を繰り返していた。
日本的な社会システムはもはや世界では通用せず痛みを伴う改革が必要であり、それを多くの国民や政治家は認識していたにもかかわらず,誰も改革に取り組もうとはしなかった。
不正や犯罪がはびこり日本人の美徳の多くが失われ,汚職が蔓延して政府の権威は失墜し、国家財政は破綻の一歩手前まで悪化していた。
理由は何であれ、誰も取り組もうとしなかった,もしくは取り組めなかった抜本的改革に真正面から立ち向かったのが小泉首相だけだったからである。

小泉首相の改革は未だに路半ばであり,またその内容も官僚や党との妥協のために多くは効果に疑問符が付く不十分なものだ。
しかし彼が総理大臣になったこと,彼が改革を主張して国民の多くが彼を支持したこと、彼の登場によりそれまでの自民党の支配体制が完全に崩壊し新たな政治の動きが生まれたことは歴史的に非常に意義あることだ。
彼は反対派の人々が指摘するように良いものも悪いものも含め多くのものを破壊した。
しかし破壊して初めて改革できるという側面もある。
特に和を重んじる日本人は自らの手で抜本的改革を実行することが極めて困難な民族であり,歴史を見ても明治維新然り、第二次世界大戦後の経済復興然り、抜本的改革は常に外圧によるやむにやまれぬ結果であった。
小泉首相の存在意義は「破壊する」ことそのものであったのだ。
そしておそらく彼ができる最後のことは,衆議院を解散して自民党を崩壊させ,戦後脈々と継続してきた自民党と政府・官僚・経済界の癒着と日本的政治形態を終焉させ、新たな時代に道を開くことであろう。

今日の箴言
「批判は易く,実行は難し」

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