Andreas Möller マリア・テレジアの肖像
シュトラッツ博士は名著 『女体の美』 の中で、コルセットの弊害を書いている。現代のモデルでは、コルセット溝の深く刻まれた姿を、見ることはほとんど無い。それが1900年頃の女性には、頻繁に見られる影響だったようだ。博士はコルセットの使用を、奨励はしていない、むしろその濫用を戒めている。女体の自然な美しさを阻害すると、幾つかの実例写真を、例示して説明している。
ところが別の考え方も出来そうだ。乳房の美しさは、ブラジャー無しには維持が難しくなる。とくに大きめの乳房の場合はなおさらである。これとおなじ様に、コルセットが美しい縊れたウエストを維持する効果は、ある程度認めねばならぬと思うのだが。加齢現象とか、過食や運動不足があれば、脂肪が内蔵とか腹回りに蓄積する。これを退治するために、徹底的に締め付ければ、内蔵は圧迫されて循環が阻害され、様々な障害が生ずることもあるだろう。コルセットのようなしっかりした支えがあれば、背筋とか腹筋はそれほど使わずとも、姿勢を保てる。これでシュトラッツ博士によれば、扁平な筋肉の自然な盛り上がりのない、背面ができあがるのだという。
文化面、つまり美意識の変遷から客観的に判断すれば、どうの細い縊れたウエストは、確かに一時代のある階級では、ある意味で絶対の価値観だったのだろう。今の日本では、ボインやおおきなお尻は、美点として認識される場合が多い。だが是、江戸時代には「鳩胸、でっ尻」として、否定的な評価を得ていた。手足が長いのも、下品の相とされたふしがある。民族時代によって、美意識は変遷する。
熟年女性の美しさというものは、まったき人体の完成形である。バロックからロココへと美意識は移ろって、少女の青春を懐かしむ。乙女の体型の特徴はその縊れたウエスト。ローティーンからハイティーンへの境目当たりで初潮を迎える。たとえば1752年に ブーシェ が描いた マリー=ルィーズ (Marie-Louise O'Murphy ) は、14才で今で云えば中学生の年頃である。ルイ15世を魅惑した絵は今日もその、妖しい芳香を漂わせて艶めかしい。
コルセットで締め付けなくとも、マリーの胴は細いのだが、これが18歳も過ぎる頃ともなれば、コロコロと肉付きがよくなってくるのが、人体の生理なのだ。
カンバセレス伯爵夫人 1895