わくさき日記

千葉県習志野市の司法書士事務所の日常です。

人・もの・意思

2017-08-07 07:59:30 | 司法書士
司法書士で「人・もの・意思」という3つのキーワードを知らない人はいません。

主に不動産登記・不動産決済にて使用する言葉です。

人→当事者に間違いはないか・運転免許証等の提示、直接本人との面談等により行います。

もの→対象物件に間違いはないか・登記簿謄本や公図、地図、当事者からの聞き取りなどにより行います。

意思→契約内容と相違ない意思があるか、登記手続きの意思があるか・直接本人との面談等により行います。

基本的にこの3つのキーワードすべてにOKサインが出たら、GO(=登記申請可)と言ってもいいのかもしれません。
また、実際に多くの取引ではGOしていると思います。

しかし、必ずしもGOとは言い切れない場合もあります。

なかなか言葉では言い表せないのですが、形式的・表面的には3要素ともOKなんだけど、とはいえ、登記申請をしていいのかな?
という疑問符がつく取引です。

そのような取引はそんなに多くはないと思うのですが、ゼロではありません。
当事務所でも、疑問符が付く限り、依頼者様にはご面倒なのですが、ご確認をさせていただくことになります。
登記の真正担保の作業と、サービス業としての依頼者様の負担軽減は相反することが多いので、困ってしまうことも多いです。

さて、前ふりが長くなりましたが、先日某大手ハウスメーカーが地面師詐欺にあったのではないか?という報道がありました。
マンション建築用地の取得のため、土地を購入し、購入代金60億円余りを支払ったのち、所有権移転登記を申請したら
所有者(売主)側の書類に不備があり、登記申請が却下されてしまったというものです。
所有者(売主)とは連絡が取れていないようです。
世間では、「地面師」の事件と報じられています。

地面師かどうかはわかりませんが、「売主の書類の不備」すなわち登記用語でいえば「登記義務者の書類不備」とは一体何でしょうか?

売買による所有権移転登記の際の登記義務者の一般的な書類は
1.権利証(登記識別情報通知書)
2.印鑑証明書
3.登記原因証明情報
4.委任状
です。

これらの書類のどこかに不備があったのだと思われます。

各書類の意味合いはおおむね次のとおりです。
印鑑証明書=人
登記原因証明情報=もの・意思
委任状=もの・意思
権利証=人・意思

司法書士は各書類を確認しながら「人・もの・意思」を確認しています。
きっとこの事件の司法書士も(おそらく司法書士が担当しているとおもわれます)、それらの確認を行っていたはずです。

新聞記事によれば、登記義務者の書類は「偽造」だったようです。
きっと表面的には3要素はOKだったんだと思います。
つまり、表面的・形式的には不備はなかったんだと思います。
だからこそ、決済をして登記申請までしています。

ただ、担当した司法書士の気持ちを察するとすれば、形式的には3つのキーワードがOKだったけど、
もしかしたら何か腑に落ちない事件だったのかもしれません。

司法書士として、日々、研鑽を重ねていく必要性を強く感じた事件でした。

※なお、登記書類において、権利証に代えて「資格者代理人による本人確認情報」の可能性もありますが、今回はその点は省略して記載しました。
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