わくさき日記

千葉県習志野市の司法書士事務所の日常です。

取締役の辞任登記は辞任届だけでよい?

2017-05-29 09:52:43 | 司法書士
「今度お客さんの会社の取締役が辞任するので登記をしたいのですが、必要書類は辞任届だけでいいですよね?」

先日いただいたご質問です。

取締役とおっしゃっているので、お客様の会社は株式会社なんだと思います。

多くの場合、辞任届(司法書士に依頼をするなら委任状)だけでよいので「その通りです」と言ってよいのですが、
そうでなかったり、そうであったとしても押してもらう印鑑に制限があったりする場合もあります。
ポイントは次の3つです。

①辞任する取締役が代表取締役ではないか?
→押してもらう印鑑に注意が必要

辞任する取締役が代表取締役の場合、辞任届に会社実印または代表取締役の個人実印を押印しなければなりません。
(ただし、代表取締役が複数の場合は、辞任する取締役が登記所に会社実印を登録している場合)

辞任届に個人実印を押印する場合には、代表取締役の印鑑証明書も必要になります。


②取締役の員数
→そもそも辞任登記ができない場合がある

従前、株式会社と言えば必ず取締役会と監査役がありました。
しかし、現在は取締役1名のみという会社も珍しくありません。
また、取締役は複数であっても、取締役会がない会社も多いです。

取締役の員数は、取締役会がある会社であれば3名以上、取締役会がない会社は定款で定めた数以上が必要です。
そのため、員数を欠くような場合は、辞任届が提出されても辞任できず、辞任の登記もできません。


③特例有限会社の場合
→そのほかの登記が必要な場合がある
①の代表取締役である取締役の辞任でも、代表取締役の登記が必要ですが、それとは違い気が付きにくい登記が発生することがあります。

特例有限会社は、有限会社と名乗っていますが法律上は株式会社です。
この部分は知っている方も多いかと思います。

一方、登記の記載の仕方は、株式会社と特例有限会社では違う部分があります。
この点については会社法が施行されてから10年が経過し、一般の方からは忘れ去られてきた感があります。

取締役の記載方法については次のように異なります。
株式会社 氏名のみ
有限会社 住所と氏名

代表取締役
株式会社 住所と氏名
有限会社 氏名

また、代表取締役の記載は、株式会社の場合は必須ですが、特例有限会社の場合は一定の場合のみ登記されます。
一定の場合とは、「ほかに代表しない取締役がある場合」です。
例えば、取締役がA・B2名の場合で、Aのみ代表権があるような場合です。
この場合は、上記の記載の要領で取締役と代表取締役の登記がされます。

反対に、AもBも代表権がある(そういうことも可能です)場合は、「ほかに代表しない取締役がいない」ので代表取締役の登記はできません。

では、取締役がA・B2名でAのみ代表権がある場合に、取締役Bが辞任する場合はどのような手続きになるでしょうか?
定款の員数規定は満たしているものとします。
Bについては、辞任届のみでOKです。
また辞任届に押す印についても、代表権のない取締役なので登記所に印鑑を登録していることはありませんので、認め印でも大丈夫です。
じゃ、Bの辞任届だけもらえばいいですね♪
っとしてしまうと、登記所でやり直し指示をもらうことになります。

Bが辞任することにより「ほかに代表しない取締役がいない」状態となりました。
→取締役がAだけになり、全員が代表権がある状態
このため、Bの辞任の登記と一緒にAの代表取締役の登記を抹消する必要があります。


このように、取締役の辞任と言っても、辞任届だけもらえばいいとは限らないというお話でした。
会社内で手続きの段取りを担当されている方はご注意くださいませ。

なお冒頭の会社は、有限会社ではなく、いわゆる平取の辞任で員数規定も問題なかったので辞任届だけで済みました。

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