ワカキコースケのブログ(仮)

読んでくださる方ありがとう

「はじめての小川紳介!」にとっかかってもらうためのブックガイド

2013-07-10 21:21:26 | 日記



日曜日。たまに相手してもらっている女性ダンサーさんがプロデュースの公演に行ってウットリ見とれ。(これは前々回の動画。でもカッコイイでしょ。http://www.youtube.com/watch?v=6u8c2Chtcrc )

そのあと、最近親しくなってくれた友人達と連れ立って増上寺七夕まつりの岩崎鬼剣舞を見物し。開演間近に土砂降りで、虹が出ているなかで始まるオマケつきで、味わいのあるいいイベントだった。







(監督・三宅流さんほか、珍しい企画を実現させたみなさんおつかれさまでした。岩崎鬼剣舞に密着した映画も、13日からアップリンクでアンコール上映とのことです。http://www.uplink.co.jp/movie/2013/12988


で、月曜日に打ち合わせ中の雑談でお囃子の社中に入っている方とお話し、さらに別件で、まだ企画の段階なんだから予算度外視でいっぺんMGMミュージカルみたいな歌と踊りのショー構成をつくってみたいッすよねーと妄想を話し合い。
さらに違う仕事の打ち合わせの後、暑気払いのスタッフ呑みが続いて朝までカラオケ・コースになだれ込み。フロアで沖縄のカチャーシーを踊ったりアラビアンダンスを踊ったり(どっちも同じだよ!と言われたが)、間奏でサンタナばりの炎のエアギターを奏でたりして、始発で帰ったあと火曜日はほとんど使い物にならなかった。

ということを、それぞれもう少し詳しく書き、我々の暮らしはかくも意外と踊りとともにあると結んで、『SAVE THE CLUB NOON』のクラウドファンディングにさりげなくステマ的につなげるものを書こうとしていたのだが。
http://motion-gallery.net/projects/savetheclubnoon 
目標金額はなんと期日前に突破できたようなので、陰ながら、よかったです。ここからはむしろ広がりが出て、勢いがつくのではと。


安心して、自分達の告知を、ぬけぬけと書けます。





7月20~23日、お時間ある時に見に来てくださいね! に尽きます。
タイトル通り、玄人筋向けのレトロスペクティブではなく、初心者さん向けの入門用ベスト盤的プログラムです。ここまでのちらし手渡しの感触では、今までよりも遥かに女性の反応がよくって、そこがうれしい。

このブログだけの特典。おそらく物販のあたりと1階の喫煙スペースのあいだをウロウロ往復しているメガネチビの中年おとこ(僕)に「『ワカキコースケのブログ(仮)』を見て来た」と言ってくだされば。えーと、何か希望のサービスをいたします! 代わりにワンちゃんの散歩とか、使いっ走りとか。

とにかく、「はじめて」見てほしいのです。敷居が低いなんてもんじゃなくて、最初から敷居を用意していません。なにしろ、裏方側のひとりである僕も大半は見てないので、もしも混んでない回の時は(うっかり強気に読める言い方ですが)、隅っこで「はじめて」見せてもらう気満々だという。


とはいえ、あんまり小川紳介って人がどんなか知らないまま見るのも……という方もいらっしゃると思う。
どんな映画監督だったかは、駆け足のプロフィールをサイトに用意しているので、読んでもらえれば。
http://webneo.org/archives/9860

その上で、とっかかりになる参考本を何冊か紹介。
neoneoのサイトのほうで書けばいいのに、と自分で思わないでもないのだが、サイトではまだ、あくまで編集、黒子の立場を勉強したいという気持ちがある。「ひとに頼むより自分で書いたほうがラクじゃん」との戦いにたやすく負けると、同人誌サイトになってしまうので。







『映画を穫る ドキュメンタリーの至福を求めて
 小川紳介 山根貞男編
 1993 筑摩書房

小川の残した文章、座談会や対談での発言を総まとめした本。撮影現場などの写真も豊富で、詳細なフィルモグラフィと年譜付き。まず1冊、といえばこれです。
小川の有名な、羽根つきのブルトーザーのようなエネルギッシュな能弁(いちどだけ僕は学校の授業で聞いている)を文字に活かすことに、特に力がそそがれている。(起こしてまとめた人達の顔ぶれはドキュメンタリー映画界の重要人物ばかり) おはなしを聞くように読むたのしさは、たっぷり味わってもらえる。

ドキュメンタリーとは何か。どう実践するか。どんなことが苦しみであり、喜びか。感覚と肉体を伴わない理論は信じていない(あるいは信じない、と決めるところまで理屈を突き詰めた)ところがあり、実感的な考え方で一貫している。
例えば、ある屋外場面をつないだら、スタッフも撮られた人も、どうもあの時の夏の暑さが出ていない、と首を傾げた。しかし風で稲がザーッと揺れる音などを録って改めてつけると、ああ、そうだ、これがあの時の音だ、とみんな納得したというエピソード。実感を表すのには、誇張が必要。それによってはじめてリアリティが生まれる。ドキュメンタリーの演出を考えるときに、ものすごく腑に落ちる話だ。
「体でつかまえたものによって、現実が縛る力を一度解き放つ。そのことで、もっと凄い力をドキュメンタリーの現実感覚に与えられるのかもしれないと思うんですね」(168P)

時系列じゃない構成のごった煮感は、最初は戸惑うのだが、全部読めばいい。
アジアの若い世代へ期待する晩年の思いと、青春=初期の頃の話が往還して、曼荼羅的スケールが1冊のなかに生まれている。

「原子力ムラ」のような批判の言葉は、村に対してデリカシーがなかった。自分は使わないようにしようと、僕はこの本を読んで反省した。
村もひとつの生命体であると捉えるに至る、小川の〈人情と科学の両立〉は凄いものだと思う。「ドキュメンタリーの世界では有名な人」という紹介の仕方を僕もちょくちょくするが、その括り自体が、せせこましい気がしてくる。
今、ざっとページをめくってみたら、「そうだ、敵はいらないのだ。学ぶことは、怒りたいために、敵を見つけるためにすることではないのだ。」と鉛筆の走り書きで余白にメモしていた。あ、青くさい……。でも、読んでいてそういうことを思ったのだ。
三里塚の怒りを、いかに豊かな、愉しいものへと反転させ、怒りそのものをくるんで溶かすほどに温かい生命の発見に至るか。実践的ロマンチストの想念の書として、文学的な感動も与えてもらえる。


『小川プロダクション「三里塚の夏」を観る』 鈴木一誌編
 2012 太田出版

去年の映画本で高く評価されたうちの1冊。
オーディオコメンタリーのようにシーンごとに語り、解く一大座談会と採録シナリオ、そして〈三里塚〉シリーズの第1作である『日本解放戦線 三里塚の夏』本編完全収録のDVD。
1本の映画だけを徹底的に解剖して、これだけ情報の厚い本はなかなか無いだろう。
僕は三里塚闘争について勉強する目的で読んで、メチャメチャ、ためになった。
要点を言えば、三里塚という名の区画や村が均等にあるわけではない、ということだ。古村があり、戦前開墾の村があり、そして戦後開拓の村がある。
国は、入ってきたのが新しい人たちほど土地の執着もないだろう、立ち退いてもらいやすいだろうと踏んでターゲットにした。しかし、新しく入って開拓した人ほど、自分達の土地と思えるまでに並々ならない辛酸をなめた。この大きな気持ちの行き違いが、まずあったのである。

『日本解放戦線 三里塚の夏』は、こうしてDVDブックになっているけど、「はじめての小川紳介!」でも上映します。
これは、外せなかった。
若いひとには、ベートーヴェン『交響曲第九番』のものすごい使い方が、『新世紀エヴァンゲリオン』の「カヲル君、どうしてだよ!」のシーンに匹敵することを伝えておきましょう。庵野さんも『三里塚の夏』を見たことがあるか? ……当然、大いにありえる。


「neoneo 2号」
 2012

手前味噌みたいだが、2号の小特集「21年目の不在 小川紳介トライアングル」(このページを仕切ったのは金子遊)と関連した今回の特集なので。
不在(92年没)がはじまってから20年経つ作家を特集すると、どんな断絶が、つながりの痕跡が見えてくるか。
そういうアプローチが基本だったと思うが、結果的には、没後20年経とうと、ほとんどの作品がソフト化されてなかろうと、まだ語りつくされていない思いが関係者・識者からどんどん出てくる、陽性のエネルギーが意図以上に噴出している。

僕自身は、長年の助監督・飯塚俊男氏の、師・小川へのかつての愛憎半ばした思いに、鼎談当日も話を聞きながら涙が出そうになった。苦労は売るほどしてきた、という人に読んでもらいたい。2号に僕が貢献できたところがあるとしたら、この話を聞けたことだけだな、とさえ思っている。

もちろん会場販売はガンガンしますので、パンフレット代わりにぜひご購入ください。
他の主要文献のガイド・ページもあります。


『淀川長治 映画塾』 淀川長治
 1995 講談社文庫

『知っておきたい映画監督100 日本映画編』 キネマ旬報社・編
 2009 キネマ旬報社

この2冊は、〈映画の歴史のなかの小川紳介〉を俯瞰で把握してもらうためのもの。
若いひとが、真面目なのはいいんだけど、ひとりの作家のレトロスペクティブに通う→研究書をくまなく読む、とガッと極端に集中するところからシネフィルさんへの道を歩み始めるのを見ると、割と僕はヒヤヒヤする。せめて「はじめての小川紳介!」は、バランスよく楽しんでいただきたい。そのためにこの2冊。

『映画塾』では、肩肘張らない映画の愛し方の究極を示してくれた淀長さんが、キートン、ルビッチ、フォード、ムルナウ、ドライヤー、ラング、ヴィスコンティ、フェリーニ、そしてクロサワとともに、小川紳介の映画のことを「ホントの土の匂いがする」「私はあきれた、この良さに」「本当の詩人だなあ」と楽しく語ってくれている。

『映画監督100』では、ドキュメンタリー映画監督で小川が唯一選ばれている。
キネ旬というパブリックな媒体での、オーソドックスな解説が読める。

ちなみに僕もこの本に参加していて、最後にこれがほんとの手前味噌。とくに石井輝男、沢島正継、今村昌平、神代辰巳、工藤栄一、山下耕作の項は、ソースにするよう言われたキネ旬の『日本映画テレビ監督全集』の記述に頼らず、なるたけがんばって一から書き起こした。
もっぱらこういう監督の映画を見てきた人間が、今頃になって小川紳介と「ぶつかって」いるわけです。みなさんだって、これから「ぶつかって」も、ちっとも遅くない。映画は待ってくれる、のです。


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