一般的に,可視化は後処理に位置付けられ,直前の処理は,計算であったり,実験や観測だったりします.与えられたデータを料理する手段の一つが可視化で,場合によっては新たなデータを集める必要もあります.データには,それを生み出した過程におけるいくつもの性質が内在していて,良い可視化はその性質をうまく利用して行われるからです.テキストでは,その辺りを強調しました.
しかし,可視化を全体のプロセスから分離して語ると,「素材である,データは用意されているもの」という前提をもつ人が多いようです.もし,前段階の過程が何であるかを隠して,かつヘッダーなどの情報も隠して,データだけを渡したら,渡された人はどうするのか?
以前,学生に対して,2列で表現した数値データ(時系列データ:時系列であることは伝えず)をテキストファイルで渡し,このデータから何かを見つけて,とだけ言って,どうするのかを観察したことがあります.幾人かの学生は,なんとかエクセルに読み込んで,グラフ化したのです.(想定内ではありましたが,心の中では便利な世の中になったものだと感心しました.)
今,法政大学でビジュアリゼーションという講義をもっています.教え始めてみたものの反応がよくないのです.可視化するデータがどういうものであるのかというイメージを持っていないことが原因である,とわかりました.
実は,データをどうやって取得するの?というのは,学生から出た質問でもあります.以前の経験から,時系列のデータを与えれば,エクセルで処理するだろうということは予想できます.だったら,(x,y)や(x,y,z)の座標列を与えたらどうするだろう.まだ,試みてはいません.講義では,数値シミュレーションの基礎を数回教え,その後,可視化に戻りました.反応はよくなったと思います.
では,データを直接与え,可視化のエッセンスもわかってもらうためにはどうするか? つづきは,いずれまた.
現状については,本書に書きました.世界と比べるとどうなの?,時々聞かれます.
二つの見方があります.一つは,コンピュータグラフィックスの研究者が技術計算の可視化を扱う場合です.この場合は,研究者の数が違うので,日本は不利です.例えば,IEEEのVisualizationという会議では,日本からの発表はほとんどありません.例えば,2005年の会議:http://vis.computer.org/vis2005/
この会議が最高峰であるとは思えませんが,大規模データに対する並列,あるいは分散可視化の方法や方法論などで,日本の,ある会議で最新の成果として発表されるようなものが,数年前のプロシーディングスに載っていたりします.
という意味でも,かなり押され気味ですね.とはいえ,この会議で報告されている流れの可視化などでは,CGに偏りすぎて本質をとらえていないようなものも多々見受けられます.このあたりは,分業制の影響なのではないかと考えています※.そして,この部分(CG)のみを追いかける日本の研究者が増えているように感じます.ちょっと残念ですね.
もう一つは,計算する側(あるいは結果を解釈する側)が可視化を行い,可視化をメインとして発表するものです.内容がともなわず,可視化を組み合わせただけという場合は,CGという点で見劣りがします(内容をごまかしているケースも見受けられるので,これも残念です).
しかし,計算,というよりは結果の解釈に対しても優れた人間が可視化を行う場合は違いますね.見た目の派手さよりも内容勝負になります.用いた可視化の方法・方法論にその内容を加味して,比較すると,日本のレベルは低くはないと思います.むしろ,分業制が進んでいる米国などと比べると,質の高い研究が多いと思います.実験に対しての流れの可視化のような,可視化対象とする流れ場によっては,世界をリードしてきた(いる)分野もあります.
※例えば,CGの可視化の立場で流体現象を扱っている研究者の幾人かが,CFDの大家といわれる方々のお弟子さんで,CFDの研究をしていたと思っていたら,いつの間にかCG系可視化専業になっています.
システムの話についても,聞かれることがあります.
例えば,技術計算という範疇で,効率の良い可視化システムを真面目に作ろうとすると,前処理,計算,後処理を統一的に扱うフレームワークの中で,システムを構築するのがよいと思っています.
本書の参照文献に,URL付きで示しましたが,
白山 晋,太田高志: クラスライブラリによる並列化実時間可視化システムの構築, 日本計算工学会論文集第1巻, 19990002, May, 1999, pp.35-41.
太田高志,白山 晋: オブジェクト指向フレームワークによる流体計算統合環境, 日本計算工学会論文集第1巻, 19990001, May, 1999, pp.27-33.
にそのあたりの方向性を述べました.
オブジェクト指向をベースにしたクラス中心の考えです.8,9年前の研究をまとめたものですが,現時点でも,古くはなっていないと思っています(最近でも,同じようなアイデアを書いた論文をみることがあります).
この二つの論文を発表した頃,欧米においても同じような動きがありました.しかし,細々と続いているが,大々的には拡がらなかったというのが正直な感想です.理由は,このような仕組みには標準化が不可欠で,そのためには「標準仕様を策定する組織が必要である」,しかし影響力のある組織を形成できなかった,ということだと考えています.
筋は悪くはない,技術的な問題も少ない(後はやるだけ)が,実現が難しいというカテゴリに属する類のもので,何かしらのプロジェクトの研究開発項目としては,おいしいものです(^^;).実際,いくつかの大型プロジェクトでは,プラグインやミドルウェアというような扱いで,生き残っているようです.残念なことは,プロジェクト内だけの話で済まされてしまい,別のプロジェクトが始まれば,同じようなものが名前を変えて出てくるということです.どこかの学会が主導する形が望ましいのですが,なかなか難しいようです・・・
書店に並ぶようになって数週間.買ってくれる人が増えているようで,励まし,いや叱咤激励の言葉をいただくようになりました.ありがとうございます.
・お金がかかっているね.(でも,高いね.)
・データをどうやって取得するのかを書いてほしかった.
・前半は,データ処理の基礎を教えるのに使える.
・教科書という意味では,院生向けかなあ.(部分的には,教養の講義にも使えるのだが)
・データ構造のようなところがもっと知りたい.
・知識処理の具体例ってもっとないの?
・盛り沢山.(でも勉強にはなる.)
・前半と後半のつながりが・・・
・可視化って,基礎となる学問体系がないと思っていたのだが,あるんだね.
などなど,です※.
確かに,高い.こればかりは・・・
その他は,その場では,私自身の考えを伝えているのですが,ここでも,答えていこうと考えています.
※一番うれしかったのは,恩師から白山君でないと書けない本だね,と言われたことです.
また,可視化の研究者ではない方から,可視化以外に利用できる研究ネタがつまっていると言われたこともうれしかった.
(誤) q(x-xp,y-yp)
(正) q(xp+(x-xp),yp+(y-yp))
p.40 式(1.58)左辺
(誤) q(x-xp,y-yp)
(正) q(xp+(x-xp),yp+(y-yp))

こちらは,私の方で用意したものです.
データがあって可視化をすれば何かがわかる, 確かに何かはわかるのですが,質の高い可視化結果は,可視化した個人の技量に依存していることが多いと思います.経験という要素の占める割合は大きく,初学者に対して,普遍的な方法を示すことは難しいのですが,可視化する対象を絞ると質の高い結果を得るためのいくつかの方法論がみえてきます.本書の後半では,そのような背景と背後にある学問を示し,知的可視化というものを紹介しています.
前半では,技術計算系データの可視化の基礎を示しています.従来の可視化の教科書で扱われているものを一つ掘り下げて,可視化の数理的な体系を示すことを目的にしています.具体的には,データの補間法や,補間されたデータに対する可視化手法について,多くのイラストを用いて説明を加えました.また,数値計算法そのものの理解にとっても役立つものを心がけました.いわば,可視化から学ぶ数値計算法といったところです.
本書は,学部後半から大学院の学生に対しての専門書を意識しましたが,数学的な厳密性の議論は避け,理系の大学生であれば読みこなせるようなものにしたつもりです.
帯の部分に書いてあるいわゆる宣伝文句です.編集者の方がまとめられたものです,.
可視化(ビジュアリゼーション)の難しさとは、選択した方法や結果の説明が「一般性をもつのか」、「主観によるものなのか」という問題から生じる。たまたま、現象がわかったときに、直感的な判断にしたがって意義が与えられている場合が多いのではないだろうか。 本書は、適切な方法・手段で、意味のある可視化を上手に行うための「知的可視化」の最新動向を紹介するものである。可視化の数理を紹介することから始め、パターン化、特徴領域の抽出へ、そして可視化の最適化、可視化行為の分析による知識抽出について説明する。 知的可視化の利点を従来の可視化と比較して紹介するとともに、Javaクラスライブラリを書籍とリンクしたダウンロードサイトに準備。これからの可視化が向かう方向性を体現する。