手塚治虫 作「奇子」
陰陽座 瞬火 作「奇子」
下山事件は、「戦後史最大の謎」と言われています。 1949年に、時の国鉄総裁・下山定則(しもやま さだのり)が、出勤途中に公用車を待たせたまま三越日本橋本店に入り、そのまま失踪し、15時間後に轢死体となって発見された事件です。当時、自殺説、他殺説が入り乱れ、GHQによる謀殺説もささやかれましたが、真相は今も明らかになっていません。
「奇子(あやこ)」とは、その下山事件をモチーフとし、1945年、日本の敗戦とともに大きく移り変わっていく時代の中で、崩壊していく旧家の一族の姿を描いた社会派ドラマです。
東北の大地主・天外(てんげ)家の末娘・奇子は、家長・作右衛門が、長男市朗の嫁・すえに生ませた不義の子でした。 一方、戦地から復員してきた次男の仁朗は、GHQ(連合国軍総司令部)の命令で、郷里淀山の左翼政党支部長の謀殺に関わります。 ところが犯行後、仁朗が血のついたシャツを洗っているところを、奇子とお涼に目撃され、仁朗はお涼を殺してしまいました。 市朗は、身内から犯罪者を出して天外家の家名が汚れるのを恐れて、仁朗を逃がし、幼い奇子を、永久に土蔵の中に閉じ込めておくことを決めました。 やがて月日は流れ、奇子は、土蔵の中で美しい大人の娘に成長していました。 そして道路建設のために土蔵が壊されることになり、奇子は20年ぶりに外の世界を見ることになったのです。 しかし、純粋な少女の心のままに成長した奇子の目に映った外の世界は、醜く恐ろしい欲望の渦巻く世界でした。
くろうが先日購入した陰陽座のDVDに「奇子」という曲が挿入されています。手塚治虫の「奇子」をテーマにした曲です。 幼くして地下に閉じ込められた少女の23年の長きに渡る思いを詠ったものです。
今この曲を聴きながら、まさに平安時代の多くの女性達が艶やかな憂いの中に散っていったのが偲ばれるのです。
鮮やかな暗闇に独り 嗤い尽る白い徒花
幾重もの秘め事に揉まれ 生まれ出たことも消されて
愛を知ることもない間に 姶を白肌に湛えて
闇を出ることも叶わず 閉ざされた時の涅から
咲いても花に成れぬ悲劇の野草 その身を晒すことは月への戯笑
裂いても離れ得ぬは て惑い 闇に融け堕ちていく涅槃まで