プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 北村薫「八月の六日間」

2023年10月01日 | ◇読んだ本の感想。
読もうとしたら中扉に山登りのルートの絵地図が描いてあったので、
「小説だと思っていたが、登山エッセイか!」と心を切り替えて読み始めたら、
十数行目で化粧道具を荷物に入れる描写があり、小説だった。
もう一度、粛々と小説モードに頭を切り替えました。

この人は本当に女性視点で小説を書くよね。
男性視点の小説は、はるか昔の「覆面作家シリーズ」しか思いつかない。
さすがにいくつかは書いてるんだろうけど、女性として書く方が本人も
しっくりするんだろう。

この人を最初に読んだのは「冬のオペラ」、生涯のベスト10に入る
衝撃的な出会いだった。自分の代わりに書いてくれているような小説。
ミステリだったけれど、濃厚に若い女性の心情を書きこみ、そのバランスが絶妙だった。

20代後半の女性作家が書いた小説だと確信してましたよ。
当時この人は覆面作家で、年齢も性別も非公表だったから。
だから、……書き手が妙齢のおっさんだった時の驚きといったら!
書いた年齢は40過ぎ。そんなおっさんにここまで瑞々しい女性の心情が書けるものか。
嘆いていいのか、喜んでいいのか、複雑な心境だったよ。

「円紫さんとわたし」シリーズ、「覆面作家」シリーズ、「冬のオペラ」は何度も読んだ。
蔵書を再読をすることもあった時代で、ふと手が伸びるのはこういう本だった。
もう読まないけどね。読めば面白いが、やはり時間が経ったということだろう。
若い頃読んだ本を、若い頃と同じような熱量では読めない。

そして北村薫も相対的に面白い作品を書かなくなった。
――これはわたしの嗜好の問題で、初期の北村薫は好きじゃなくても、
この頃の「女性の人生の振り返り」という小説が好きな人もいるだろう。

でもわたしは嫌いなんですよね。辛気臭くて。
北村薫は詩情のある、いい文章を書くと思うけど、とにかく近頃はテーマが辛気臭い。
ミステリでもない。ミステリという枠組みがあればこそ、心情分量多めの小説も
面白く読めるけど、心情小説は苦手なのだ。

本作も女性の心情小説。

この人の娘さんは編集者にでもなったのかなあ。
けっこうな作品の数で女性編集者が主人公である気がする。
初期の頃に、「作品の多くは自分の娘に当てて書いている」という発言があった筈だし
本好きで蔵書も多くて作家である父の娘なら、編集者になるのは
可能性は高いのではないか。
まあ単に知人に編集者が多くて取材がしやすいということかもしれないけど。



でもこの話は、メイン部分が山に登り始めた山初心者のドキュメンタリー的だから
それが面白くて読めた。
わたしは今後自分では山登りはまずしないだろうから、自分の経験することのない
経験を読めて教えられることが多い。
単独登山がけっこうきついということ、低い山でも雪山は恐ろしいこと、
山で出会う人々との交流。山に登る人の心情が読めた。

山岳小説――というのは登山家が高い山に登る小説だろうが、
これは「山登り小説」というべきか。
山岳小説のひりひりするようなサスペンスはないけれども、
実際に山登りをする人も読んで面白いかもしれない。



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