プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 辻由美「カルト教団太陽寺院事件」

2022年08月17日 | ◇読んだ本の感想。
およそ30年前と、比較的近い年代の虐殺事件にこういう言葉を使うのが
不適当ということはあるだろうが、素直な感想としてはすごく面白かった。
サスペンスフルで。

特に序盤がぞくぞくしましたね。五里霧中の怖さを堪能させてくれた。
とにかく死の状況が謎めいている。それがなければ――話の骨格だけだと
教団幹部による集団無理心中ということでシンプルに完結しそうだけど、
何もわからない状態での臨場感のある事件現場の描写はぞくぞくした。

このぞくぞく感は中盤で主要人物の説明を綿密にしていく過程で薄れるのだが。
でもサスペンスだけを追っていくと信頼性の低い、興味本位の本になってしまうし、
これだけちゃんとまとめてくれていれば、多少エンタメ性が下がろうと
現行の形の方がいい。読んでいて本当に面白かった。


カルト教団の集団自殺、という見方をしたらそれだけの話になってしまう。
集団殺人という認識を強く持つことが必要なのではないか。
亡くなった人53人のうち、少なくとも16人の子どもは殺人といえるだろうし、
毒物ではなくて銃撃が原因で死んだ人を自殺というのは不自然。

本の中でも言っているが、
どんな理由にしろ自殺(と他殺)を決行しようと決意していた人と、
救済の手段として自殺を覚悟していた人と、
救済の儀式を予想していたけれどそれが自殺だとは夢にも思ってなかった人と、
まったく何の理由で急遽呼び集められたのか不明な人が混在していたと思う。

その他に秘密保持のために殺されたとしか思えない数名の人たちがいる。
これらを自殺として扱っては対応を間違う。

そういう意味で、wikiの太陽寺院の項目は「集団自殺とされている」と
書いてあることに不満があるなあ。殺人という見方があることをもう少し
強調しておいて欲しい。
それからwikiにはディ・マンブロの名が全く出て来ないが、
本ではむしろディ・マンブロの方が中心人物なので、この本を読んだ人は
その辺も含めて上手いこと訂正してくれるとありがたい。


この事件を扱った弁護士は、自分たちも結局は死んだディ・マンブロとジュレ以外に
黒幕がいるのではないかと言っている。
教団が一時期巨額の資金を持ち、マネー・ロンダリングにも関わっていた
可能性もあるのであれば、考えられはする。

そこ以降の結論はこの本では出ていないので、1998年に出たこの本以降の
流れがわかる本があるなら読みたい気がする。
でも結論がすっきり出ることはないだろうなあ。
初動捜査にも問題があったようだし。
「こんな事件がアメリカ以外で起こるとは思ってなかった」(現場はスイスとカナダ)
この台詞は聞きようによっては限度を越して牧歌的に聞こえるが、
実際信じられないことが起こるまでは夢にも思わない。そういうものだろう。


著者は本業は翻訳家だと思うんだけど、これを読むと良質のノンフィクション作家だね。
各所にインタビューもしている。まとめ方もわかりやすい。
今後数冊読んで行こうと思っているので、楽しみである。




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