お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

このごろの「子育て論争」

2011-01-31 | from Silicon Valley

「教育か?」はたまた「体罰か?」で論議を醸し出すタイガーマザーの子育て。さて、貴女はどちら?

アメリカ人の子育てはこれでいいのか?

新春そうそうの全米が『子育て論争』で過熱しています。アメリカ中にセンセーションを巻きおこした台風の目は1月8日のウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された記事……「中国人の母親が優れている理由 Why Chinese Mothers Are Superior」。 

記事にいわく、中国系アメリカ人の子どもたちが優秀なのはよく知られている。数学に秀で、科目を問わず優秀な成績をおさめ、ほぼ全員が見事にピアノやバイオリンを弾きこなして音楽的才能を示し、揃って一流大学に進学して典型的な『勝ち組』に育っている。どうすればあんなに優秀な子が育つのか? いったい中国人の母親はどんなふうに子どもを育てているのか? とアメリカ人は皆いぶかっているが、答は中国式の『家庭教育』にある。『タイガーマザー』こと中国人の母親が、家庭でどれだけ厳しく子どもを育てているかの実態を知れば、誰でも、中国系アメリカ人の子どもたちが優秀なのは当然至極だと納得がいくはずだ。アメリカ人のような"ゆるい"子育てをしていたら、この厳しい世界情勢を乗り超えていける実力のある子どもは育たない……。

記事を書いたのはイェール大学ロースクールのAmy Chua教授です。中国人の両親とともに8歳でフィリピンからアメリカに移住し、中国系アメリカ人二世としてカリフォルニアで育ったChua教授は、ハーバード大学のカレッジからハーバード大学ロースクールを卒業してイェール大学教授に就任…という燦然ときらめくサクセスストーリーの主人公。まさに絵に描いたような『勝ち組』の人生で、もう、それだけで記事の説得力には十分。

ウィークエンド紙面の2ページにもわたる長い記事は、Chua教授自身が両親から受けた、それはそれは厳しい中国式の家庭教育の実体験と、その厳しさをほとんどそのまま踏襲してChua教授が彼女自身の娘2人を育てた経験とにもとづく子育て論。センセーションが巻き起こったのはChua教授が何のためらいも遠慮もなく「ほんとうのこと」を書いたからです。

ほんとうのこととは? そう、まさにChua教授が娘さんに課してきたルールは、たとえば「放課後友だちの家に遊びに行くこと(play date)」は禁止、ましてや「泊まりがけで遊びに行くこと(sleep over)」など厳禁。テレビは見せない。テレビゲームも禁止。ピアノまたはバイオリン以外の楽器は弾かせない。おけいこごとも禁止。スポーツも禁止。学校では体育と演劇を除く全科目で学年一番にならなければならない…というもの。子どもは厳しく律しなければ!の中国流は、ここまで厳格なのです。

たしかに、思い起こせば、娘の同級生のなかにもダンスパーティには絶対に参加しない子、友だちと遊びに行くなんて考えられないという家庭、高校卒業まで朝夕はお母さんがバッグを持って教室まで送り迎えという子がいました。いずれも中国系アメリカ人のご家族でしたが、確かにその同級生たちは揃って学業優秀、ピアノの腕はプロ並み、進学した大学も超一流でした。娘の学校だけではありません。シリコンバレーでは、中国系アメリカ人の生徒の多い学校区は押し並べて成績優秀と言うのが一般の常識です。こうした事情はきっとアメリカ中に共通なのでしょう。

さて、賛否両論の激論を巻き起こした"エピソード"のひとつは、Chua教授の娘さんがピアノの練習曲がうまく弾けなかったときのこと、弾けるようになるまで何時間もピアノの前に座らせっぱなしで練習させ、弾けるようになるまで水一杯飲ませず、トイレに行くことも許さなかった…というもの。まさにタイガーマザーの真骨頂。そのうえ(娘さんを励ますためとはいえ)面と向かって「ちゃんと練習しない/勉強しない子は『クズgarbage』だ!」と罵倒したと書かれているくだりです。「これでは厳格な躾と言うより、体罰では?」の批判が噴出したのは、いかにもアメリカ。

しかし…と、ややもすると感情的になりがちな世論に冷静な問題提起を投げかけているのは雑誌「タイム(Time)」の今週号(2011年1月31日号、Vol 177, No.4) です。「タイガーマザーの真実(The Truth About Tiger Moms)」と題した特集記事で、タイム編集部は、中国が世界第二の経済大国になった事実を指摘すると同時に、昨年12月に発表された15歳の子どもたちの標準学力テスト結果の国際比 較調査でアメリカがまたしても他の先進国に大きく劣る結果であった一方で、同じテストで中国上海の子どもたちはダントツ!世界一の成績であった事実を指摘しつつ「アメリカはこのままで大丈夫なのだろうか?」と読者に問いかけ、「厳しく育てなければこの時代を生き抜く力のある子どもは育たない」というChua教授の懸念には一理あるのではないかと示唆しています。

そう、「『中国式』子育て」がこれだけセンセーショナルな議論を巻き起こしている背景には、まさに、世界経済を牽引するトップランナーたるアメリカが、文字通り、中国に追い上げられ、脅かされて神経質になっているという事実があるからなのです。

こうした社会的背景はともあれとして子育て論にもどれば、子どもを厳しく育てるためには親も厳しく生活を律しなければなりません。子どもに時間を守らせるには、親も常に時間厳守でなければなりません。子どもに長時間勉強させ、また楽器の練習をさせるには、親がついていて目を光らせて監督しなければ…。そう、「練習曲をマスターするまでトイレに行くな」と言うには、親もその間つきっきりで練習を監督しているわけです。つまり、子どもに厳しい暮らしは、親にも厳しい暮らし。言うは易く、実行は困難。いえいえ、困難なのは子どもにとって…ではなく、親にとって…です。

バイオリンお稽古歴8カ月、ドラムスのレッスン歴6カ月、ピアノにいたっては厳しい中国人の先生が苦手で半年ももたなかったという娘を育てながら、かつて私は「いったい世のお母さんはどうやって子どもに楽器をならわせているのだろうか?」とつくづく疑問に思っていました。ですからChua教授の記事を読んで「なるほど…親もここまで本気で対峙しなければ駄目だったのね…」と今更ながら納得しました。出張の多い仕事についていた私にはそもそもが無理だったのかもしれません。限られた時間しか一緒にいないのに、その一緒にいる時間を「いつも小言を言って」過ごすのは嫌だと考えていたからです。そう、だから我が家の場合は単純に「この親にしてこの子あり」ってことだったわけです。そして娘の名誉のために付け加えれば、彼女はその後大好きなダンスに出会い、だれに強いられなくても、逆にだれがとめても、週に40時間も踊って「学校とダンス、どっちが本業?」と親をあきれさせるようになりました。もっとも…それでも、中国式にはピアノもバイオリンもやらない落ちこぼれ(>笑!)。そういえば…ダンス・チームのお友達のなかには、ピアノのお稽古とコンフリクトがあるといってチームをやめさせられた中国系アメリカ人の子がひとりならずいましたっけ…。まさに中国式、健在!です。

さて、話題の人、Chua教授ですが、激烈な子育てのエピソードからいったいどんな鬼婆かと思いきや、とんでもない!小柄ながらすらっとしたモデルのようなスタイルと美貌の持ち主で、とてもティーンエイジャーの子を持つお母さんには見えません。18歳と15歳の娘さんと並んだ新聞の写真はまるで"3人姉妹"のよう。ロースクール教授という激務をこなしながら、同時に家庭では毎日(休日も週末もなく)これだけ厳しい子育てをしているというのに、この余裕!まさにタイガーマザーや恐るべし、です。




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