湘北高校が宿泊する『めんたいこ荘』のロビーでは、
安西、宮城、彩子、晴子の4人で、翌日に行われる3回戦の作戦会議を行っていた。
「パウエルは花道、吉田は白田、インサイドは酒田のほうが有利か・・・。
どっちにしても、花道のリバウンドが重要だな。」
「そのためにも、みんながしっかりスクリーンアウトをしなければならないわ。」
「SF田中武義さんの身長は、183cmと流川君と8cmも違います。
このミスマッチを利用する手はありません。」
「うん。流川にも、リバウンドに入ってもらったほうがよさそうね。」
「それがいい。」
「その田中さんですが、東北大会でも県予選でも、目立った数字は残していません。
やはり、酒田戦は、今まで以上に流川君をオフェンスのメインとして攻めたほうがよろしいですね。」
「どうですか、先生?」
「うむ。いいでしょう。流川君には、攻守にわたり、エースとして湘北を引っ張っていく役目がありますから。
ただ、田中君は要注意人物と考えられます。」
「そっそうですか。」
(数字ではわからないけど・・・、安西先生にはなにか引っかかる部分があるのかしら・・・。)
「SGの新山千秋さんは、183cmです。毎回といっていいですが、柳君とミスマッチが生じます。」
「約12cmか・・・。」
「俺のところもそうだけど、どうしてもアウトサイドで、身長差が出やがる。」
「それは、今に始まったことではないですから、柳君なら大丈夫です。そして、宮城君も。
湘北には、10cmの身長差もカバーできるスピードスターが2人もいます。
ですが、田中君同様、新山君も要注意人物なことに変わりはありません。」
「!!」
(まただわ。安西先生は、なにかに気付かれている。)
「最後は、PGの松山健二さん、173cm。宮城さんと変わらない身長です。
スピードを考えると、ここは宮城さんの優勢かと思います!」
「晴子ちゃん、ありがとう。」
「本当のことですから。えへ。」
「油断は禁物ですよ。松山君も相当な実力者だと思います。
山王の加藤君に勝てるPGは、全国探しても、5人も見当たらないでしょう。
その中の一人ということは、もしかすると、宮城君より上かもしれません。」
「!!」
(!!)
「・・・。そうですね。安西先生の仰るとおりです。
もしそうならば、松山も倒して、加藤も倒して、No.1ガードになります!」にこり。
「リョータ。」
「宮城さん。」
「うむ。宮城君。明日は任せましたよ。」
「はい!!」
「数字的に見ると、パウエルさん以外に目立っていい成績を残している人はいないんですけどね。
強いていえば、PFの吉田さんくらいかな・・・。」
腑に落ちない表情を見せる晴子。
「全国初出場でいきなりのA評価。実力は未知数だけど、過大評価ってこともありえるわね。」
「でも、あの山王を倒したことには変わらねぇ。Aでも、AAでも、俺たちは目の前の敵を倒すだけだ。」
「それもそうね。今更、そんなことを考えていてもしかたないもんね。」
3人の話が終わった頃、安西が静かに口を開いた。
「一概に言えませんが、山王を倒したことのあるチームのPGは、みなトップレベルの選手ばかりでした。」
「今年だけに限っていうと、加藤に勝ったのは、IHの仙道と国体の愛和織田、そして東北大会の松山しかいない。」
「やはり、松山君は相当の実力者と考えるほうが正しい。」
「数字に現れない部分というと、ゲームメイクですか・・・。」
「そうなるでしょう。まずは、宮城君がゲームの主導権を握る。
これが、湘北が勝つための最低条件です。」
「主導権・・・。わかりました。必ず、主導権を握ります。」
「リョータも山王を倒したチームのPG!きっと勝てるわよ!!」
「おう!!」
「次に、SGの新山君とSFの田中君。彼らはきっとディフェンスの選手でしょう。
山王のピュアシューター烏山君の3P、そして昨年の選抜得点王柳葉君を
抑えられるほどのディフェンダーだと私は思っています。
柳君、流川君も思うように得点を奪えるかわかりません。
そのときこそ、宮城君のゲームメイクで、打破してください。」
「はい!」
「そして、パウエル君。彼の身体能力は、河田君を超えています。」
「河田って弟のほうですか?」
「いや、雅史君のほうです。」
「!!!」
「!!!」
「ですが、バスケットボール選手としてのスキルは、河田君よりは落ちる。」
「つまり、森重くらいですか?」
「もしくは、それ以上。」
「!!!」
「!!」
「どえらい留学生だな。こりゃ。」
「サイズの山王河田君、パワーの名朋森重君、そしてリバウンドの桜木君。
高校3大センターといわれている3人の上をいくかもしれないセンターパウエル君・・・。」
「桜木花道にとっても、湘北にとっても、明日の試合は正念場ね。」
「違いねぇ。」
その頃、柳と白田は、風呂にいた。
「スタメンでも先輩たちのあとだもんな。」
ちょっと不満そうな柳。
「仕方ないさ。コート上では実力主義でも、コート外はやっぱり年功序列なんだよ。
たぶん、桜木先輩だって、偉そうだけど、いつも偉そうにしているわけじゃないと思うよ。
バスケに関係ないところでは、きっと先輩を立てているはずだよ。」
「そうか?」
「そうさ・・・。」
「本当にそう思うか?」
「たぶん・・・。」
(いや、違うな。)
苦笑いをする白田であった。
桜木の部屋では。
『もみもみ・・・。』
「もっと右だ。いや、もっと右!」
『もみもみ・・・。』
「こっここですか?」
『もみもみ・・・。』
「うむ。いいぞ。」
桜木の背中をマッサージする安田。
と石井。
と桑田。
(なんで、僕たちまで・・・。だから、桜木君と相部屋はいやだったんだ・・・。)
(流川君と一緒の部屋の佐々岡は、ラッキーだったな・・・。)
石井たちは、安田の巻添えをくらっていた。
「うむ。3人とも巧いぞ!優勝するまで、頼むぞ!」
「えぇぇーー!!!」
大きな声を揃える3人。
「ハッハッハ!!」
桜木の辞書に、年功序列という文字はなかった。
流川は、小川道を、イヤホンで音楽を聴きながら走っている。
『タッタッタ・・・。』
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
「ん?」
前方から、音楽を聞きながら、走ってくる浅黒い男。
『タッタッタ・・・。』
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
「ん?」
『タッタッタ・・・。』
目線が合う。
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
保つ平常心。
『タッタッタ・・・。』
すれ違う2人。
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
振り返ることはない。
『タッタッタ・・・。』
浅黒い男は、流川の気配がなくなったところで、小さくつぶやいた。
「ふっ、流川のやつ。先輩に挨拶くらいしろ。」
小さく笑った。
一方、流川も、浅黒い男の気配が完全になくなったところで、静かにつぶやいた。
(沢北・・・。)
今大会、2人にとって、初コンタクトは、実に静かなものであった。
続く。
安西、宮城、彩子、晴子の4人で、翌日に行われる3回戦の作戦会議を行っていた。
「パウエルは花道、吉田は白田、インサイドは酒田のほうが有利か・・・。
どっちにしても、花道のリバウンドが重要だな。」
「そのためにも、みんながしっかりスクリーンアウトをしなければならないわ。」
「SF田中武義さんの身長は、183cmと流川君と8cmも違います。
このミスマッチを利用する手はありません。」
「うん。流川にも、リバウンドに入ってもらったほうがよさそうね。」
「それがいい。」
「その田中さんですが、東北大会でも県予選でも、目立った数字は残していません。
やはり、酒田戦は、今まで以上に流川君をオフェンスのメインとして攻めたほうがよろしいですね。」
「どうですか、先生?」
「うむ。いいでしょう。流川君には、攻守にわたり、エースとして湘北を引っ張っていく役目がありますから。
ただ、田中君は要注意人物と考えられます。」
「そっそうですか。」
(数字ではわからないけど・・・、安西先生にはなにか引っかかる部分があるのかしら・・・。)
「SGの新山千秋さんは、183cmです。毎回といっていいですが、柳君とミスマッチが生じます。」
「約12cmか・・・。」
「俺のところもそうだけど、どうしてもアウトサイドで、身長差が出やがる。」
「それは、今に始まったことではないですから、柳君なら大丈夫です。そして、宮城君も。
湘北には、10cmの身長差もカバーできるスピードスターが2人もいます。
ですが、田中君同様、新山君も要注意人物なことに変わりはありません。」
「!!」
(まただわ。安西先生は、なにかに気付かれている。)
「最後は、PGの松山健二さん、173cm。宮城さんと変わらない身長です。
スピードを考えると、ここは宮城さんの優勢かと思います!」
「晴子ちゃん、ありがとう。」
「本当のことですから。えへ。」
「油断は禁物ですよ。松山君も相当な実力者だと思います。
山王の加藤君に勝てるPGは、全国探しても、5人も見当たらないでしょう。
その中の一人ということは、もしかすると、宮城君より上かもしれません。」
「!!」
(!!)
「・・・。そうですね。安西先生の仰るとおりです。
もしそうならば、松山も倒して、加藤も倒して、No.1ガードになります!」にこり。
「リョータ。」
「宮城さん。」
「うむ。宮城君。明日は任せましたよ。」
「はい!!」
「数字的に見ると、パウエルさん以外に目立っていい成績を残している人はいないんですけどね。
強いていえば、PFの吉田さんくらいかな・・・。」
腑に落ちない表情を見せる晴子。
「全国初出場でいきなりのA評価。実力は未知数だけど、過大評価ってこともありえるわね。」
「でも、あの山王を倒したことには変わらねぇ。Aでも、AAでも、俺たちは目の前の敵を倒すだけだ。」
「それもそうね。今更、そんなことを考えていてもしかたないもんね。」
3人の話が終わった頃、安西が静かに口を開いた。
「一概に言えませんが、山王を倒したことのあるチームのPGは、みなトップレベルの選手ばかりでした。」
「今年だけに限っていうと、加藤に勝ったのは、IHの仙道と国体の愛和織田、そして東北大会の松山しかいない。」
「やはり、松山君は相当の実力者と考えるほうが正しい。」
「数字に現れない部分というと、ゲームメイクですか・・・。」
「そうなるでしょう。まずは、宮城君がゲームの主導権を握る。
これが、湘北が勝つための最低条件です。」
「主導権・・・。わかりました。必ず、主導権を握ります。」
「リョータも山王を倒したチームのPG!きっと勝てるわよ!!」
「おう!!」
「次に、SGの新山君とSFの田中君。彼らはきっとディフェンスの選手でしょう。
山王のピュアシューター烏山君の3P、そして昨年の選抜得点王柳葉君を
抑えられるほどのディフェンダーだと私は思っています。
柳君、流川君も思うように得点を奪えるかわかりません。
そのときこそ、宮城君のゲームメイクで、打破してください。」
「はい!」
「そして、パウエル君。彼の身体能力は、河田君を超えています。」
「河田って弟のほうですか?」
「いや、雅史君のほうです。」
「!!!」
「!!!」
「ですが、バスケットボール選手としてのスキルは、河田君よりは落ちる。」
「つまり、森重くらいですか?」
「もしくは、それ以上。」
「!!!」
「!!」
「どえらい留学生だな。こりゃ。」
「サイズの山王河田君、パワーの名朋森重君、そしてリバウンドの桜木君。
高校3大センターといわれている3人の上をいくかもしれないセンターパウエル君・・・。」
「桜木花道にとっても、湘北にとっても、明日の試合は正念場ね。」
「違いねぇ。」
その頃、柳と白田は、風呂にいた。
「スタメンでも先輩たちのあとだもんな。」
ちょっと不満そうな柳。
「仕方ないさ。コート上では実力主義でも、コート外はやっぱり年功序列なんだよ。
たぶん、桜木先輩だって、偉そうだけど、いつも偉そうにしているわけじゃないと思うよ。
バスケに関係ないところでは、きっと先輩を立てているはずだよ。」
「そうか?」
「そうさ・・・。」
「本当にそう思うか?」
「たぶん・・・。」
(いや、違うな。)
苦笑いをする白田であった。
桜木の部屋では。
『もみもみ・・・。』
「もっと右だ。いや、もっと右!」
『もみもみ・・・。』
「こっここですか?」
『もみもみ・・・。』
「うむ。いいぞ。」
桜木の背中をマッサージする安田。
と石井。
と桑田。
(なんで、僕たちまで・・・。だから、桜木君と相部屋はいやだったんだ・・・。)
(流川君と一緒の部屋の佐々岡は、ラッキーだったな・・・。)
石井たちは、安田の巻添えをくらっていた。
「うむ。3人とも巧いぞ!優勝するまで、頼むぞ!」
「えぇぇーー!!!」
大きな声を揃える3人。
「ハッハッハ!!」
桜木の辞書に、年功序列という文字はなかった。
流川は、小川道を、イヤホンで音楽を聴きながら走っている。
『タッタッタ・・・。』
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
「ん?」
前方から、音楽を聞きながら、走ってくる浅黒い男。
『タッタッタ・・・。』
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
「ん?」
『タッタッタ・・・。』
目線が合う。
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
保つ平常心。
『タッタッタ・・・。』
すれ違う2人。
『♪♪♪#%♪♪&#$♪』
振り返ることはない。
『タッタッタ・・・。』
浅黒い男は、流川の気配がなくなったところで、小さくつぶやいた。
「ふっ、流川のやつ。先輩に挨拶くらいしろ。」
小さく笑った。
一方、流川も、浅黒い男の気配が完全になくなったところで、静かにつぶやいた。
(沢北・・・。)
今大会、2人にとって、初コンタクトは、実に静かなものであった。
続く。