つばさ

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「復興しないったってさせてみせらあ。日本人じゃあねえか」。

2012年10月29日 | Weblog
春秋
2012/10/29付
 「復興の魁(さきがけ)は料理にあり」。関東大震災ですっかり焼け野原と化した東京の銀座で、ただ1軒、掘っ立て小屋にこんな貼り紙を張った居酒屋が商売を始めた――。水上滝太郎の小説「銀座復興」は、その店のおやじと客たちの復興にかける高らかな意気を描いた作品だ。
▼いま東日本大震災の被災地をめぐれば、この物語を彷彿(ほうふつ)させる人々の奮闘を知る。まだまだ荒涼とした光景のなかの仮設商店街や、思わぬ場所にぽつんと建つプレハブの飲み屋や理髪店である。街が根こそぎ消えた宮城県南三陸町の志津川地区を歩いてさえ、香り高いコーヒーを飲ませるカフェに出合うことができるのだ。
▼震災から1年半を過ぎたのに、なお「仮設」で頑張るしかない現実も、そこには横たわっている。国の復興予算は本当に必要なところには行き渡らず、先日の会計検査院の報告では、東京スカイツリーの開業前イベントに流用されたお金もあったという。そんな矛盾にさいなまれながらも、必死に自立を探る被災地である。
▼「復興」を「福幸」と書き換えたポスターや看板を、被災地ではよく目にする。ささやかな言葉遊びかもしれないが、再生を誓う思いが伝わって、逆に勇気づけられるほどだ。「復興しないったってさせてみせらあ。日本人じゃあねえか」。かの「銀座復興」のなかで一本気な亭主が息巻くのと同じ声が、耳に響いている。

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