つばさ

平和な日々が楽しい

。おかげ参りは抜け参りともいう。日常から抜ける。さまざまな束縛から抜ける

2013年10月04日 | Weblog
春秋
10/4付

 伊勢の大御神宮に、おかげ参りとて国々の人ども、おびただしく詣づる事のありし……。本居宣長の「玉勝間」に、宝永2年(1705年)の伊勢神宮参拝ブームについての記述がある。訪れた善男善女は4月9日からの50日間に、じつに362万人にのぼったという。

▼当時の日本の人口は3000万人ほどだったから驚異的な数字である。おかげ参りと呼ばれる江戸時代のこうした集団参拝現象はほぼ60年おき、つまり式年遷宮を3回経るころに繰り返し発生している。民衆エネルギーの周期的な爆発などといわれるが、とにかく街道は人であふれ、船着き場は客が鈴なりになったらしい。

▼ここまでの熱狂はないにせよ、平成の式年遷宮にも世の関心は高い。神事はおとといの「遷御(せんぎょ)の儀」でクライマックスを迎え、この数年の伊勢参宮ブームも一段と高まろう。江戸のむかしと違っていまは東京からでも日帰りできる。杉の巨木がそびえる、あのすがすがしい空間に身を置くだけで心がおだやかになるはずだ。

▼もっとも、神宮をあまり荘厳にとらえるとかえって人々の足を遠のかせかねない。なんといってもお参りは庶民の楽しみ、江戸時代だって大いに物見遊山を兼ねていた。おかげ参りは抜け参りともいう。日常から抜ける。さまざまな束縛から抜ける。お伊勢さんはそういう願望をかなえてくれる、おおらかな存在であった。

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