クラウドコンピューティング
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
良いことずくめ? 社運を賭けて大丈夫か?
日経ビジネス 2010/3/26
“クラウド”という言葉が新聞の見出しに躍ることが増えてきた。クラウドコンピューティングを短く表現した言葉である。例えば2月26日付の日本経済新聞は、NECの社長交代を報じる記事に「NEC、クラウドに重点」という大見出しを付けた。
欧米のメディアもクラウドという言葉を普通に使っている。有力ビジネス誌の英The Economistは1年半ほど前、クラウドの大特集を組んだ(2008年10月25日号)。
ここでいうクラウドは群衆ではなくて雲を指す。雲とはインターネットのことなのだが、「クラウドに重点」と書かれると、「雲に重しを乗せると雲散霧消してしまうのではないか」などと、つまらないことを考えてしまう。
利用形態は40年くらい前からある!?
ここでNECの経営戦略にからむつもりはないが、クラウドについては論じてみたい。昨年、日経コンピュータという雑誌の編集長をしていた時、クラウドの扱いに悩み、あれこれ考えたからだ。
編集部の記者達は、IT(情報技術)の世界の新潮流だと言って、クラウド関連の記事を次々に提案してくる。大変結構なのだが、どこが新しい話なのか、なかなか分からなかった。
記者達から「インターネット経由でソフトウエアやハードウエアを利用することです」と言われると正直困惑した。ちなみに2月26日付の日経記事にはクラウドコンピューティングの定義が付記されており、「情報システムを利用する企業や個人が、ネットワーク経由でソフトウエアなどを利用できるサービス。自ら高性能のパソコンやサーバーを持つ必要が無く、効率的に情報システムを利用できる」と書いてあった。
日経にからむつもりもないが、この定義に新しい要素はない。先に掲げた記者の説明もそうである。企業や個人から見て、外部にあるコンピューター資源をネットワーク経由で使うという利用形態は40年くらい前からある。
こう指摘すると記者達は呆れた顔をして、「インターネット時代の話です」と言ってくる。だが、それも新しくない。インターネット経由で情報システムを使う動きについては7~8年前から何度も取り沙汰されてきた。ネットワークコンピューティングと呼んだり、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)と呼んだり、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼んだりした。乱暴に言えば全部同じ話である。
グーグルコンピューティングと呼ばないのか
すると今度は、「グーグルの話です」と主張する記者が現れた。聞いてみると確かに新しい話である。ASPやSaaSと呼ばれた取り組みは、なかなかビジネスとして成立しなかったが、グーグルはしっかり利益を上げているし、巨大なコンピューターセンターを動かすために技術面で独自の工夫をしている。
「それならクラウドと言わず、グーグルコンピューティングと呼んではどうか」と提案したが賛成を得られなかった。別な記者が「主要なIT企業は皆、クラウドに取り組んでいます」と言ってくる。
マイクロソフトのように、グーグルに真っ向から勝負を挑む企業もあれば、ASPやSaaSに再挑戦する企業もある。また、ASPやSaaSに取り組む企業に、そのための土台になるコンピューターやソフトウエアを販売するIT企業もある。
こうした土台となる基盤技術については、各IT企業とも新しいものを出している。ただ、長年の技術開発を踏まえており、不連続な技術を突然出してきたわけではない。したがって、クラウドという新しい言葉を冠するのはどうかと思うのだが、どう名乗るかは各企業の自由である。
柔軟の意味は「必要な時に、必要なだけ」
以上のように考えてきたことを文章にまとめる機会が最近あった。日経コンピュータの2月17日号でクラウドコンピューティングの特集をした際、その号の用語解説欄に「クラウドコンピューティング」を取り上げることになった。
本来、用語解説は記者が書くのであるが、「クラウドについてうるさいあなたが書いてはどうか」という話になったので引き受けた。その文章を再掲しつつ、改めて筆者の思いを付け加えてみたい。
インターネットを介して、柔軟な情報処理を実現する技術やサービスの総称。利用者はインターネットの向こう側にある、アプリケーション・ソフトウエアや基本ソフトウエア、ハードウエアを必要な時に、必要なだけ、「サービス」として購入し、利用できる。インターネットをクラウド(雲)と呼ぶため、この名称が付けられた。
新聞と同じ定義ではないかと思われるかもしれないが、「柔軟な」としている点が少し違う。柔軟の意味は「必要な時に、必要なだけ」ということである。40年前はここまで柔軟なことはできなかった。
何が入っていても「雲だ」と言い張ればよい
引用を続けたい。ここから通常の用語解説と趣が異なってくる。
もっとも、この定義では、ITにかかわる森羅万象を包含できてしまう。クラウドという言葉は当初、グーグルやアマゾン・ドット・コムといった、いわゆる新興ネット企業のサービスに使われたが、既存のハードやソフトのメーカー、システムインテグレータ、通信会社らがこぞって、自社製品やサービスの“クラウド対応”あるいは“クラウド化”を発表、ほぼ全員がクラウドを手掛けることになってしまった。
しかも、IT企業ではない、一般企業が自社センターにあるシステムを、各国拠点や関連会社にインターネット経由で提供する仕組みをプライベートクラウドと呼ぶようになり、もはや「何でもクラウド」の状態にある。
なにしろ“雲”であるから、その中に何が入っていても「これは雲だ」と言い張ればよい。しつこくて申し訳ないが、筆者がクラウドという言葉にどうしてもひっかかるのは、このあたりである。
クラウドとITは同義、と言えるくらいだが、雲に分け入り、新旧の企業や技術を腑分けしていくと、新しい言葉を使うに足る新しい要素が確かに含まれている。利用できるサービスと、それを支える基盤技術に大別して見ていこう。
必要な時に利用できる柔軟なサービス、という考え方はまったく新しくない。ユーティリティサービスという言葉がメインフレームの時代からあったし、ここ10年ほどを見ても、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)あるいはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼ばれる取り組みがあった。
クラウド時代になり、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス、開発実行環境を利用)、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス、サーバーやストレージなどハード資源を利用)などと新語が乱発されたが、どれも新しい考え方ではない。
ただ、こうしたサービスが実際に利用可能になり、必要に応じて複数のサービスを組み合わせられる、という点で確かに進化している。
厳密には過去の蓄積を利用している
今回のコラムの文章を繰り返した恰好になったが、言いたかったのは「実際に利用可能になり、必要に応じて複数のサービスを組み合わせられる」という点である。ここは確かに新しいし、利用者に有意義だろう。
グーグルに見られるように、不特定多数の利用者にサービスを提供するには、膨大なデータを処理するシステム基盤が不可欠である。グーグルは、同社のSaaSやPaaSを実現するために、従来とは異なるファイルシステムや基本ソフト、さらにはデータセンターをすべて独自に設計、開発した。マイクロソフトもPaaSであるAzureを始めるために基盤技術を新規に用意している。クラウドで真に新しいのは、こうした基盤技術のほうである。
IT企業の古株であり、顧客にプライベート・クラウドを勧めるIBMやオラクルをみても、柔軟に拡張できるデータベース管理システムなど、基盤技術の面で新機軸を打ち出している。企業の利用を想定し、課金や認証など管理ソフトも充実させつつある。これらはクラウドという言葉が生まれる以前から開発が進められてきた技術群であるが、決して古いものではない。
グーグルについて「すべて独自に設計、開発」したと書いているが、厳密には、グーグルも過去のコンピューターサイエンスの蓄積を利用している。ただし、検索サービスのために技術基盤を一気に自分で作った点は新しい。
以上のように腑分けすると、企業はクラウドに対し、2通りの対応をしなければならないことが分かる。まず、利用できるサービスがあれば、適宜利用を考え、実行する。並行して、中長期をにらみ、自社のシステム基盤に新しい技術を取り入れる検討を始めておく。
ここでカギを握るのは、データのマネジメントである。クラウド時代の新サービスと、従来から保有しているシステムは、長期にわたって共存するから、どのようなデータが必要なのか、どのデータをどこに置いてどう処理し、セキュリティをどの程度維持するか、といったデータにかかわるアーキテクチャーを再設計する必要がある。
すべてのアプリケーションとシステムを、新しいサービスや新しい基盤技術に移行できればすっきりするが、費用対効果やリスクを考えると現実的とは言えない。
「クラウドという言葉にやたらとからんでいるが、何が言いたいのか」と聞かれたら、以上の用語解説の最後のところです、と答えたい。
ITを使いこなす工夫は昔から変わらない
つまり、クラウドと呼ばれるものは、サービスとそれを支える基盤が合わさったもので、新しい要素ももちろんあるが、これまでの技術と地続きのところもある。すぐ使えるサービスもあれば、これからの技術もある。したがって、「クラウドに移行する」「しない」といった単純な意思決定はそもそもできない。
「データにかかわるアーキテクチャーを再設計する」と分かりにくいことを書いてしまった。このアーキテクチャーは「構造を文書に記述したもの」といった意味である。企業が使うデータ、アプリケーションを棚卸しし、不要なものは捨て、足りないものを用意する。そのための見取り図(アーキテクチャー)を整えておくとよいわけだ。
もっとも、企業や組織のアーキテクチャーを整備するという話も全く新しくない。日本では7~8年ほど前、「エンタープライズ・アーキテクチャーを整備すべし」と喧伝された。取り組んだ企業や組織は少なくないが、なかなか効果が見えにくい地味な取り組みであり、今日までしっかり続けているところはどのくらいあるか、よく分からない。
クラウドという名称がいいかどうかはともかく、検討に値するサービスや技術が登場していることは事実である。ただ、それに社運を賭けるには、従前から指摘されている地道な取り組みが必要になる。
ITの世界は日進月歩と言われる。仮にそうだとしても、ITを使いこなす工夫は昔から変わっていない。
(谷島 宣之=日経コンピュータ編集部長)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0
良いことずくめ? 社運を賭けて大丈夫か?
日経ビジネス 2010/3/26
“クラウド”という言葉が新聞の見出しに躍ることが増えてきた。クラウドコンピューティングを短く表現した言葉である。例えば2月26日付の日本経済新聞は、NECの社長交代を報じる記事に「NEC、クラウドに重点」という大見出しを付けた。
欧米のメディアもクラウドという言葉を普通に使っている。有力ビジネス誌の英The Economistは1年半ほど前、クラウドの大特集を組んだ(2008年10月25日号)。
ここでいうクラウドは群衆ではなくて雲を指す。雲とはインターネットのことなのだが、「クラウドに重点」と書かれると、「雲に重しを乗せると雲散霧消してしまうのではないか」などと、つまらないことを考えてしまう。
利用形態は40年くらい前からある!?
ここでNECの経営戦略にからむつもりはないが、クラウドについては論じてみたい。昨年、日経コンピュータという雑誌の編集長をしていた時、クラウドの扱いに悩み、あれこれ考えたからだ。
編集部の記者達は、IT(情報技術)の世界の新潮流だと言って、クラウド関連の記事を次々に提案してくる。大変結構なのだが、どこが新しい話なのか、なかなか分からなかった。
記者達から「インターネット経由でソフトウエアやハードウエアを利用することです」と言われると正直困惑した。ちなみに2月26日付の日経記事にはクラウドコンピューティングの定義が付記されており、「情報システムを利用する企業や個人が、ネットワーク経由でソフトウエアなどを利用できるサービス。自ら高性能のパソコンやサーバーを持つ必要が無く、効率的に情報システムを利用できる」と書いてあった。
日経にからむつもりもないが、この定義に新しい要素はない。先に掲げた記者の説明もそうである。企業や個人から見て、外部にあるコンピューター資源をネットワーク経由で使うという利用形態は40年くらい前からある。
こう指摘すると記者達は呆れた顔をして、「インターネット時代の話です」と言ってくる。だが、それも新しくない。インターネット経由で情報システムを使う動きについては7~8年前から何度も取り沙汰されてきた。ネットワークコンピューティングと呼んだり、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)と呼んだり、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼んだりした。乱暴に言えば全部同じ話である。
グーグルコンピューティングと呼ばないのか
すると今度は、「グーグルの話です」と主張する記者が現れた。聞いてみると確かに新しい話である。ASPやSaaSと呼ばれた取り組みは、なかなかビジネスとして成立しなかったが、グーグルはしっかり利益を上げているし、巨大なコンピューターセンターを動かすために技術面で独自の工夫をしている。
「それならクラウドと言わず、グーグルコンピューティングと呼んではどうか」と提案したが賛成を得られなかった。別な記者が「主要なIT企業は皆、クラウドに取り組んでいます」と言ってくる。
マイクロソフトのように、グーグルに真っ向から勝負を挑む企業もあれば、ASPやSaaSに再挑戦する企業もある。また、ASPやSaaSに取り組む企業に、そのための土台になるコンピューターやソフトウエアを販売するIT企業もある。
こうした土台となる基盤技術については、各IT企業とも新しいものを出している。ただ、長年の技術開発を踏まえており、不連続な技術を突然出してきたわけではない。したがって、クラウドという新しい言葉を冠するのはどうかと思うのだが、どう名乗るかは各企業の自由である。
柔軟の意味は「必要な時に、必要なだけ」
以上のように考えてきたことを文章にまとめる機会が最近あった。日経コンピュータの2月17日号でクラウドコンピューティングの特集をした際、その号の用語解説欄に「クラウドコンピューティング」を取り上げることになった。
本来、用語解説は記者が書くのであるが、「クラウドについてうるさいあなたが書いてはどうか」という話になったので引き受けた。その文章を再掲しつつ、改めて筆者の思いを付け加えてみたい。
インターネットを介して、柔軟な情報処理を実現する技術やサービスの総称。利用者はインターネットの向こう側にある、アプリケーション・ソフトウエアや基本ソフトウエア、ハードウエアを必要な時に、必要なだけ、「サービス」として購入し、利用できる。インターネットをクラウド(雲)と呼ぶため、この名称が付けられた。
新聞と同じ定義ではないかと思われるかもしれないが、「柔軟な」としている点が少し違う。柔軟の意味は「必要な時に、必要なだけ」ということである。40年前はここまで柔軟なことはできなかった。
何が入っていても「雲だ」と言い張ればよい
引用を続けたい。ここから通常の用語解説と趣が異なってくる。
もっとも、この定義では、ITにかかわる森羅万象を包含できてしまう。クラウドという言葉は当初、グーグルやアマゾン・ドット・コムといった、いわゆる新興ネット企業のサービスに使われたが、既存のハードやソフトのメーカー、システムインテグレータ、通信会社らがこぞって、自社製品やサービスの“クラウド対応”あるいは“クラウド化”を発表、ほぼ全員がクラウドを手掛けることになってしまった。
しかも、IT企業ではない、一般企業が自社センターにあるシステムを、各国拠点や関連会社にインターネット経由で提供する仕組みをプライベートクラウドと呼ぶようになり、もはや「何でもクラウド」の状態にある。
なにしろ“雲”であるから、その中に何が入っていても「これは雲だ」と言い張ればよい。しつこくて申し訳ないが、筆者がクラウドという言葉にどうしてもひっかかるのは、このあたりである。
クラウドとITは同義、と言えるくらいだが、雲に分け入り、新旧の企業や技術を腑分けしていくと、新しい言葉を使うに足る新しい要素が確かに含まれている。利用できるサービスと、それを支える基盤技術に大別して見ていこう。
必要な時に利用できる柔軟なサービス、という考え方はまったく新しくない。ユーティリティサービスという言葉がメインフレームの時代からあったし、ここ10年ほどを見ても、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)あるいはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼ばれる取り組みがあった。
クラウド時代になり、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス、開発実行環境を利用)、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス、サーバーやストレージなどハード資源を利用)などと新語が乱発されたが、どれも新しい考え方ではない。
ただ、こうしたサービスが実際に利用可能になり、必要に応じて複数のサービスを組み合わせられる、という点で確かに進化している。
厳密には過去の蓄積を利用している
今回のコラムの文章を繰り返した恰好になったが、言いたかったのは「実際に利用可能になり、必要に応じて複数のサービスを組み合わせられる」という点である。ここは確かに新しいし、利用者に有意義だろう。
グーグルに見られるように、不特定多数の利用者にサービスを提供するには、膨大なデータを処理するシステム基盤が不可欠である。グーグルは、同社のSaaSやPaaSを実現するために、従来とは異なるファイルシステムや基本ソフト、さらにはデータセンターをすべて独自に設計、開発した。マイクロソフトもPaaSであるAzureを始めるために基盤技術を新規に用意している。クラウドで真に新しいのは、こうした基盤技術のほうである。
IT企業の古株であり、顧客にプライベート・クラウドを勧めるIBMやオラクルをみても、柔軟に拡張できるデータベース管理システムなど、基盤技術の面で新機軸を打ち出している。企業の利用を想定し、課金や認証など管理ソフトも充実させつつある。これらはクラウドという言葉が生まれる以前から開発が進められてきた技術群であるが、決して古いものではない。
グーグルについて「すべて独自に設計、開発」したと書いているが、厳密には、グーグルも過去のコンピューターサイエンスの蓄積を利用している。ただし、検索サービスのために技術基盤を一気に自分で作った点は新しい。
以上のように腑分けすると、企業はクラウドに対し、2通りの対応をしなければならないことが分かる。まず、利用できるサービスがあれば、適宜利用を考え、実行する。並行して、中長期をにらみ、自社のシステム基盤に新しい技術を取り入れる検討を始めておく。
ここでカギを握るのは、データのマネジメントである。クラウド時代の新サービスと、従来から保有しているシステムは、長期にわたって共存するから、どのようなデータが必要なのか、どのデータをどこに置いてどう処理し、セキュリティをどの程度維持するか、といったデータにかかわるアーキテクチャーを再設計する必要がある。
すべてのアプリケーションとシステムを、新しいサービスや新しい基盤技術に移行できればすっきりするが、費用対効果やリスクを考えると現実的とは言えない。
「クラウドという言葉にやたらとからんでいるが、何が言いたいのか」と聞かれたら、以上の用語解説の最後のところです、と答えたい。
ITを使いこなす工夫は昔から変わらない
つまり、クラウドと呼ばれるものは、サービスとそれを支える基盤が合わさったもので、新しい要素ももちろんあるが、これまでの技術と地続きのところもある。すぐ使えるサービスもあれば、これからの技術もある。したがって、「クラウドに移行する」「しない」といった単純な意思決定はそもそもできない。
「データにかかわるアーキテクチャーを再設計する」と分かりにくいことを書いてしまった。このアーキテクチャーは「構造を文書に記述したもの」といった意味である。企業が使うデータ、アプリケーションを棚卸しし、不要なものは捨て、足りないものを用意する。そのための見取り図(アーキテクチャー)を整えておくとよいわけだ。
もっとも、企業や組織のアーキテクチャーを整備するという話も全く新しくない。日本では7~8年ほど前、「エンタープライズ・アーキテクチャーを整備すべし」と喧伝された。取り組んだ企業や組織は少なくないが、なかなか効果が見えにくい地味な取り組みであり、今日までしっかり続けているところはどのくらいあるか、よく分からない。
クラウドという名称がいいかどうかはともかく、検討に値するサービスや技術が登場していることは事実である。ただ、それに社運を賭けるには、従前から指摘されている地道な取り組みが必要になる。
ITの世界は日進月歩と言われる。仮にそうだとしても、ITを使いこなす工夫は昔から変わっていない。
(谷島 宣之=日経コンピュータ編集部長)