【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

会社の不動産を代表者に「名義変更」する

2021-10-16 23:00:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
会社で所有している不動産を、代表者の個人名義に変更したいという相談を受けることがあります。当然可能ですが、それには不動産を会社と代表者個人の間で「売買」しなければなりません。この売買に関しては様々な課税問題が生じます。また、売買に関するコストも決して少額ではありません。

◆会社に売却益が生じて法人税が課税される場合も

会社の不動産を売却すると会社には売却損益が生じます。売却損益は「売買価格-不動産の簿価」として計算します。「簿価」とは売却する前年度の決算書に計上されている金額のことです。

売却損益がプラス(売却益)で、不動産の売却益を除く事業年度合計の利益がプラスであれば、不動産の売却益を加えた利益合計に対して法人税が課税されます。

売却損益がマイナス(売却損)でも、不動産の売却損を除く事業年度合計の利益が売却損を上回る場合には法人税が課税されます。

不動産の売却損益が最終的な事業年度合計の利益(あらゆる損益を合計して計算する利益)に影響するパターンは様々です。不動産を売却するにあたっては、その影響を十分に把握してから行う必要があります。

◆会社が消費税を納めなければならない場合も

会社が売却する不動産が建物であれば、それは消費税の対象になります。建物の売買価格が1000万円であるとすれば、消費税100万円を上乗せするということです(税込みで取引することも可能です)。この上乗せした消費税は、売上代金に対する消費税と同じように「受け取った消費税として」税務署に納税する消費税に含めなければなりません。

◆売買代金の決め方が恣意的であると税務調査の対象にされる

会社とその代表者との間の不動産の売買においては、売買価格を恣意的に決めることができます。「売却益が出ると法人税が・・・」「消費税を納めるのが・・・」ということから低く設定するのです。税務署はこの点に目を光らせていますので、売買価格は「近隣の取引事例」「路線価」「固定資産税評価額」を参考にして客観的に決定しなければなりません。

正常な売却価格との差額は、代表者に対する給与所得とされるとともに(代表者個人に税負担が生じる)、会社の法人税の所得計算においては損金不算入とされて法人税の負担が増えます。

◆売却代金は必ず決済する

代表者は不動産を買い取った際の代金を必ず会社に支払わなければなりません。支払いがない場合には、売却代金相当額が役員(社長)貸付金となり、代表者は会社に対して相応の利息を支払わなければなりません。

◆代表者個人には不動産取得税が

案外忘れがちなのは不動産取得税です。不動産の売買による移転は登記を通して課税当局(都道府県)に知られてしまいます。また、不動産取得税は不動産の移転から半年程度遅れて通知がされますので、課税されることを認識していなかった場合の衝撃は相当大きいです。

◆登記をしなければ所有権が移転したとは認められない

会社とその代表者の間など近親者間で不動産の売買をしたとしても、その所有権移転の登記をしないケースがあります。登記関連費用を惜しんでのことです。

このような登記をしていない場合に一番問題となるのは、不動産が収益物件である場合に収益が誰に帰属するかということです。第三者はあくまでも登記上の名義人を所有者と考えますので、賃貸契約は名義人である会社との間ですることになります。

========

★安易に会社で不動産を購入しない(不動産を会社で購入する場合の条件)

「なんとなく」会社で不動産を購入してしまうことがあります。また、昨今では会社の設立も簡単にできることから規模の小さい「不動産所有会社」も目立ちます。

会社で不動産を購入してから、会社で不動産を所有することのデメリットに気がつくことがあります。しかし、これを個人名義に変更するには上記のとおり、「税負担」「事務手数」「関連費用」が重すぎます。

〇その不動産は会社に必要不可欠な資産であること
〇その不動産を所有している会社は代表者の引退後も永続すること

会社で不動産を所有する場合の条件です。この条件を満たさずに「誤って」会社で不動産を購入してしまった場合には、機を見て代表者個人の名義に変更しなければなりません。その際は、「税負担」「事務手数」「関連費用」を惜しんではいけません。

【PR】記事の内容と直接的な関連はありません。