よくご存じの、場合によっては聞き飽きた言葉かもしれませんが、キャッシュ・フローとは資金(現金や預金)の流れのことであり、一定期間のキャッシュ・フローを下記のとおりの算式で表したものをキャッシュ・フロー計算書といいます。
(A)期間中の資金の増減+(B)期間の初めの資金の残高=(C)期間の終わりの資金の残高
さらに、(A)を下記のとおりに分類します。
■営業活動によるもの
本業による資金の増減です。つまり、商品を仕入れて売る、従業員の給料や事務所の家賃などの経費を支払うことによる資金の増減です。
この金額がマイナスであってはいけないのは当然です(マイナスの場合もあります)。
■投資活動によるもの
設備(工場設備やコンピュータシステムなど)や株式(他社の買収)などへの投資による資金の増減です。
この金額はマイナスであることが通常です。なぜならば、企業が存続していくためには継続した投資が必要だからです。なお、投資活動による資金の減少は営業活動による資金の獲得で回収しなければなりません。
この金額がプラスになるのは、投資した設備や株式を売却している場合です。
■財務活動によるもの
いわゆる資金調達による資金の増減です。企業は株主や金融機関から資金を調達してそれを投じることによりさらに資金を獲得します。また、これ以上資金を投じる必要がない場合には株主や金融機関に資金を返します。
この増減がプラスの場合には調達のほうが多いということであり、マイナスの場合には資金を返していることのほうが多いということです。
好ましいキャッシュ・フローとはどのようなものでしょうか?
それは経済状況や各企業の置かれている立場によって異なってきますが、下記が好ましいキャッシュ・フローの一例です。
【その1】
営業活動100
投資活動-50
財務活動30
差引80のプラス(期間の終わりの資金は期間の初めより80増えている)
【その2】
営業活動100
投資活動0(ゼロ)
財務活動-50
差引50のプラス(期間の終わりの資金は期間の初めより50増えている)
【その1】は本業(営業活動)から資金を獲得しておりその範囲内で新たな投資(投資活動)をしています。さらに、資金調達(財務活動)もできている状態です。要するに本業で十分儲かっておりその中から投資している状態であり、さらに規模を拡大するために新たな資金調達もできているということです。
この先が楽しみです。しかし、資金が余っているということですから、もっと効率よく稼ぐことや株主への還元(配当や自社株買い)も検討しなければなりません。
【その2】は本業(営業活動)から資金を獲得しており、新たな投資(投資活動)はしていません。さらに、過去に株主や金融機関から調達した資金を返している(財務活動)状態です。要するに現状で十分であり、投資も必要がないし、新たな資金も必要ないということです。
理想的かもしれませんが、悪くいえば消極的です。同業他社が積極的な設備投資をして新製品を開発している場合には、いずれ後れを取ってしまうということになりかねません。
次のようなキャッシュ・フローは好ましいといえるでしょうか?
営業活動0(ゼロ)
投資活動-50
財務活動50
差引0(ゼロ)
本業では収支トントンということです(収支とは資金の出入りのことです)。
本業がこのような状態であるのに新たな投資をしています。しかも、その資金を新たに調達してきています。
上記のような企業の損益計算書が黒字の場合はどうでしょうか?
損益計算書の利益は資金の増減とは一致しませんのでこのようなことも起こります。
設備への投資が多額に行われたとしても(キャッシュ・フロー計算書の投資活動)、損益計算書では一度に費用となるのではなく減価償却として長期にわたって費用となることからこのような現象が起こります。
また、よくご存じのとおり、損益計算書の売上高には入金のない部分も含まれています。
この本はキャッシュ・フローの解説書ではありません。キャッシュ・フロー計算書を含む決算書から会社の現状分析や将来予想をするノウハウを紹介する本です。
このような書物は多数販売されていますが、この本ほどキャッシュ・フローから簡潔明瞭に会社の実情を要約し、損益計算書や貸借対照表との関連を説明している本はないように思います。
「キャッシュ・フローなら理解できる!(キャッシュ・フローを起点にして会計を学びたい)」、「キャッシュ・フローと損益計算書や貸借対照表の関係を深く知りたい!」という人にはおすすめです。