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晴れた日こそ映画を観る

24歳会社員による映画感想ブログ。出かけたと思ったら映画館というインドア派です。

あぜ道のダンディ

2012年02月18日 17時39分10秒 | 映画(DVDで鑑賞)
製作年 2011年
製作国 日本
配給 ビターズ・エンド
上映時間 110分
監督 石井裕也
出演 光石研 森岡龍 吉永淳 西田尚美 田口トモロヲ


50代のオジサンが抱える親子関係の問題や生き様の問題をコミカルに描いた映画。ダンディであることに価値を置いている。

石井裕也監督の前作「川の底からこんにちは」が超面白いし感動しちゃう大傑作だったため、かなり期待して鑑賞。
静かにしていた人が急に態度を変えて熱くなるだとか、うまくいってないひとが卑屈になりながら自分なりに頑張っていくだとか、そして後半になると歌を歌うだとか、前作にも共通する石井イズムを結構感じる作品だった。
それだけに、もちろん普通に楽しめたけどちょっと二番煎じに感じてしまった。
主人公がお父さんってことで自分には気持ちが分かりにくかったからでもあるけど。
だけど石井監督だって20代なわけで、そもそもなんでこういうのを撮ろうと思ったのかが不思議だ。

光石研が演じる「金も地位もないけど、ダンディでいたい」っていう宮田ってオッサンが主人公で、プライドが高く家族や親友に対してかなり偉そうに振る舞ってしまう不器用なキャラクター。
彼が自転車に乗るときに、最後の直線で一着になる競争馬に自分を例えた独り言を毎回言う癖があるんだけど、これはなんとなく共感できて好き。
「宮田、依然として後方、依然として後方。」と、うまくいってないのは今だけで最後にはレースに勝てると信じ込みたいような、ただ深くは考えず実況っぽいことを言ってるだけなのか、とにかく延々と競馬の妄想をしながら独り言を言い、しかも金がないから競馬はやらないっていう堅実な性格があとからわかるっていうどうでもいいような部分にめいいっぱい意味を込めた表現にも石井イズムを感じる。

「金のことなら心配するな。父さんお金はいっぱい持ってるから」って言うけど嘘はバレバレで、子供たちからはいくら頑張っても安月給の可哀想なひとだからあんまり頼っちゃだめだと思われている悲しすぎる父ちゃん。
子供たちが立派な大人になれるのかを心配しているけど、実は親に迷惑をかけないようにバイトでお金を貯めたり本当は感謝の気持ちを持っていたりと既に結構立派なしっかりした兄妹で、居酒屋でわめいたり親友や家族に対してや職場でまともに振る舞えない安月給の父からするとうまく育ったじゃないかという対比。
この映画はお父さん世代の人が観て自分と自分の子供のことを考えさせられて「こんなおれだけど、考えてみればうちの子もまともに育ったもんだなあ」と感慨にふけるにはいいのかもしれないが、息子世代が見ると正直鬱陶しい。

「こんな時代にオジサンやってるんだから大変で当然なんだよ!」っていうセリフが前作の「中の下なんだから頑張んなきゃしょうがないでしょ!」ってセリフに当たり、共感できれば面白いんだろうが世代のせいなのか見せ方のせいなのかこれがあんまり響かなかった。
もちろんこれは自分の非を認められなかったりちょっとずれた怒り方をしてしまうキャラクターのセリフではあるんだけど、観ている方の共感を誘っているのは明らかで、大変なのは時代のせいでも年齢のせいでもなく自分のせいじゃないの?って思ってしまうと全然乗れない。

そういうわけで、親子関係と不器用なオッサンの価値観といった作品の根幹部分があまり受け入れられなかったのが残念だった。

だけど楽しめるシーンも多くて、夢の中で子供二人と楽しく遊んだあと家に帰ってくる場面で
「最後に一言言わせてくれ…。いや歌います。」
って踊り始めるという「川の底からこんにちは」のしじみ工場の社歌のシーンで味をしめた得意の演出が始まるんだが、これがなかなか良い。
息子の踊りがさりげなくキレてて、そこまでの無愛想な振る舞いとのギャップのせいかなんか笑える。

引っ越しを手伝うシーンで親友の真田に運転に気を付けるよう注意され、「おれは運転のプロだぞ!」と怒って出発した直後に事故ったトラックが映るのもベタだけどよくやったと思う。

それと前作で満島ひかりがダラダラと飲んでしまう缶ビールの銘柄がピッタリで良かったんだが、ビールのチョイスに関しては今回もバッチリだった。
行きつけの呑み屋で出てくるのが生じゃなくてキリンラガービールの瓶で、ガンコオヤジが好きそうなブランドとしてちょうどいいし、中学から親友のオッサン同士が酌み交わすにはやっぱり生より瓶の方が雰囲気出るね。
けど店の雰囲気からしてもまぁそりゃあキリンラガーだなって感じで当たり前なんだが、すごいのは缶ビール。

宅飲みのシーンで宮田はサッポロドラフトワン、真田はクリアアサヒと別の銘柄を大量に飲みテーブルが空き缶だらけになっているという場面があったんだけども、このチョイスが個人的には大好き。
あくまでおれの印象だけど、ドラフトワンは第三のビールの中でも値段が最も安い部類で、ついスイスイと飲み過ぎてしまう薄口仕様。
そしてここ数年サッポロビールが力を入れて売り出している麦とホップではなく昔から細々と売れ続けている二番手の商品であり、地味なんだけど実は第三のビール第一号という当時は革命的であったであろう伝説の商品。
かつてスゴイやつだったのに最近ではちょっとマイナーになっちまった感といい、一口の満足感よりもがぶがぶとのどごしを楽しむタイプであることといい本当に宮田が好みそうなブランドで感心した。

一方の真田はというと、のどごし生、金麦に次いで売り上げトップ3のクリアアサヒを選ぶ。
最近大プッシュされて伸びてきた歴史の浅い商品で、CMとかパッケージを見ると割と若向けな印象。
介護からの解放で自由になりちょっと背伸びしてこじゃれた帽子をかぶり出してしまったキャラクターである真田が、のどごし・金麦のようなビッグブランドとは違うが若向けでナウい売れ筋のクリアアサヒを選ぶというのはめちゃくちゃピッタリだと思う。

前回は淡麗しか出てこなかったから大人の事情で選んだのがうまくハマっただけかなと思ったけど、ここまでくるとそれは考えられない!

ということでなぜかビールの話で長くなってしまいましたが、大筋で共感できなかったにも関わらずそれなりに楽しめる作品でした。

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

2012年02月17日 01時14分39秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督 瀬田なつき 脚本 田中幸子 瀬田なつき 製作 椎名保 高野潔
音楽 木下美紗都 主題歌 柴咲コウ『サヨナラブ』
撮影 月永雄太 編集 山田佑介
配給 角川映画
公開 2010年1月22日
上映時間 110分
出演者 大政絢 染谷将太 田畑智子 鈴木京香


重めの設定を隠し味にポップな空気で奇妙な二人のやりとりを楽しむ映画。。

今日吉祥寺バウスシアターの前を通りかかったところ、「ヒミズ」の上映に合わせて園子温監督と染谷将太が舞台挨拶にくるということでいつ行ってもガラガラなのが魅力のあの映画館に行列ができていました。
思わずその列に自分も並ぼうかとも思ったけど、ちょっと方向を変えて染谷くん主演の「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」を鑑賞。

タイトルがまず怪しいし、偏見だけどライトノベル原作っていうのがあんまり信用できない気がして正直あまり期待してなかったんだが意外と面白かった。

話の構成としては大政絢が演じる情緒不安定な高校生のまーちゃんと、染谷将太が演じる謎の男の子みーくんの二人の関係やら過去のトラウマが明らかになっていきつつ、精神科医の鈴木京香やら、警察の田畑智子やらがちょっかい出してくるというもの。

まーちゃんは子供の頃誘拐犯にされた諸々のトラウマが原因で情緒不安定になっており、みーくん以外のすべてが嘘に見えるという超メンヘラ設定で結構重めな話のはずなんだが、映画のテイストとしてはそうでもない。
単に軽々しいわけでもなく、ポップな雰囲気とシリアスなストーリーの両面を合わせもった作品。
どことなくクオリティに欠陥があるというか、観ていて冷めちゃうようなシーンが結構多いのがもったいないけど、ぐちゃぐちゃながらのポップ&シリアスが楽しめる。

まずよくわからない不思議な二人が最初に会ってから皿やら何やらを投げつけてめちゃめちゃに暴れたあと仲良く遊びまわり映画鑑賞やら自転車デートやらをするだとか、理科の天体の授業に忍び込んだと思ったら宇宙空間のロマンス的なものを背景にキスシーンが始まったりだとか、素性も関係もわからない二人が醸し出す理解不能な雰囲気は素直に面白かった。

そういう奇妙な明るさというか「壊れた」感はシリアスな二人の過去に起因しているということで、子供の頃誘拐犯にされたことの回想が何回か入るんだが、何やらいろいろと痛めつけられただけではなく親まで道連れにされ、自分の手で親を殺させられたようなことをほのめかす演出もあるということで結構えぐい。
しかも一緒に誘拐&監禁されてた唯一の心の支えだった本物のみーくんにまで裏切られ、とうとうおかしくなってしまったという救いのない幼少期の話。
染谷将太はまーちゃんを救うためにみーくんを演じてたっていうオチには驚いた。

そういう面白い要素もある一方で、非常に興ざめするつまんないところも多い映画でもあると感じる。
一例としては、みーくんがちょっと良いことを言ったあとカメラに向かって「嘘だけど!」って囁くやつがそもそも安っぽいし面白くないのに何回もやるからうんざりした。
後半になると、その口癖には悲しい記憶が詰まってるんです…みたいな感じを出してくるわけで、大事なのかもしれないけどもうすこし他にうまいことできなかったのか。

それと、幼少期まーちゃんを裏切り今では通り魔になった元みーくんこと菅原道真が警察に捕まる場面で
「今年の夏も、暑くなりそうですね。」
なんて全く意味の通らないことを意味ありげに言ったときほんとに悪寒がした。
あまりにも浮いたセリフだと思うんだけど原作から無理やり引用したのかな?

あとこれは全然かまわないんだけど、気になったのがまーちゃんがみーくんの首を絞めるシーン。
大政絢の腕にあきらかに力が入ってなくて、全然絞まってなさそうなのに顔面をうっ血させて真っ赤になってる染谷将太の迫真の演技が温度差を感じて面白かった。
なんて言ってるけど大政絢も基本すごく良くて、気持ちの読めない奇妙な明るさがうまく出てたし、みーくんが田畑智子と二人で会ってたことに嫉妬して傘を振り回す狂気のジェラシー感やら、みーくんとすれ違っても気付きもしない冷たい表情もあり、観ているこっちまで振り回された気分がした。

終わり方もすごく好きで、病気の発作でみーくんのことを忘れてしまったまーちゃんに横断歩道でもう一度出会い、その場でキスして道路の車を混雑させ、なぜか風船がいっぱい飛んでる中で「僕たちは何度でも再スタートする」みたいなニュアンスで手をつないで遠くへ歩いていくのだが、めちゃくちゃで大迷惑だけど奇妙に明るくて楽しい二人らしいラストでとても好きだった。
ただそのキスシーンもあまりにぎこちなくて、ここでもクオリティの低さを露呈していたけども。

退屈に感じる場面もかなり多いのが残念だけど、面白い映画にある根本的な何かは持っている映画だと思いました。

ブリジット・ジョーンズの日記

2012年02月16日 00時56分17秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督 シャロン・マグアイア 脚本 ヘレン・フィールディング アンドリュー・デイヴィス リチャード・カーティス
原作 ヘレン・フィールディング 製作 ティム・ビーヴァン ジョナサン・カヴェンディッシュ エリック・フェルナー
製作総指揮 ヘレン・フィールディング
出演者 レニー・ゼルウィガー コリン・ファース ヒュー・グラント ジム・ブロードベント
音楽 パトリック・ドイル 撮影 スチュアート・ドライバーグ 編集 マーティン・ウォルシュ
製作会社 ミラマックス ユニバーサル・ピクチャーズ スタジオカナルワーキング・タイトル・フィルムズ
配給 ミラマックス ユニバーサル・ピクチャーズ UIP
公開 イギリス:2001年4月4日  日本:2001年9月22日
上映時間 97分


ステレオタイプ的な英国アラサー独身女の生活。妙に共感してしまうし笑える楽しい雰囲気の映画。

有名だし気楽に観れそうだったのでいまさらながら平日の夜に鑑賞。
特に斬新な設定や展開をするわけではなく、ごく普通っぽいことを描いた良作でした。

アラサー独身女のあるあるネタ風の演出が全編に散りばめられてるのが面白かった。
始まってすぐ、ワインをがぶがぶ飲みながらラジオから流れる懐メロにノって踊りやらエアドラムやらをするシーンは「あるあるwww」とアラサーでも女でもなんでもないのに間違って共感してしまうほど楽しかった。
これのおかげで最初っからブリジットジョーンズの人となりが理解できるし映画の雰囲気もわかるということで、観客を入り込ませる素晴らしいシーンだと言わざるを得ない。

女性ならではの話としては、勝負の日にハデなパンツと履き心地のいいオバサンパンツで迷った末オバサンパンツを選び、狙ってた彼と初のベッドインでそのオバサンパンツをお披露目する羽目になってしまうというのもあったのだが、こういうくだらな面白いエピソードをラストの大事なシーンのフリとしてさりげなく出してくるところにセンスを感じる。

あと独身だから金はあるのか、結構いい家に住んでて女友達といつも遊んでる(その内1人は女ではなくゲイ)ってのもステレオタイプ的な独身女性像として飲み込み易いね。

そんなブリジットに、男前で仕事のできるいわゆるイケてる男のヒュー・グラントと弁護士で堅いけど誠実そうなインテリ系のコリン・ファースの二人のオトコが現れるモテ期が到来する。
ちなみにコリン・ファースは、先に英国王のスピーチを見た自分としては英国王にしか見えなかった。

二人のオトコの間で揺れ動き、最終的に「地味だけどワタシのことを大事にしてくれる!」みたいなノリで堅物のコリン・ファースを選びそうになるものの、結局二人とも似たようなもんでくだらないオトコ!
アタシは独身のまま生きてアラフォーにでもなんでもなってやるわ!
って感じで終わりそうになる素振りを見せる話の流れは好き。

そこで終わってもありだなーとか思っていたら英国王ことコリン・ファースが怒涛の攻めを見せてイッキにいい感じになり、とうとうベッドインって時にブリジットの日記を見つけてしまうんですね。
ブリジット・ジョーンズが勝負下着に履き替えてるため別室にいる間に。
ここからのクライマックスがこの映画で非常に好きなところなんだが、出会った頃からの自分の悪口が綴られている日記を読んだ英国王(?)はその場から出て行ってしまうんだが、ブリジット・ジョーンズは慌てて下半身下着姿で雪の中彼を追いかけ、ついに見つけて

ブリジット「日記の中のことは戯言だらけよ!」

なんてもう意味のわからんことをいうわけだ。
弁護士であり英国王である(?)彼はプライドが高いし、そんなこと言ってもキレられちゃうぜ!
って残念な想像をしていたのに意外にも、

英国王「知ってるさ、だから新しいのを買ったよ」

と、新品の日記帳のプレゼント。
これはね・・・・本当にカッコいい。
あれほどカリカリしていたキャラクターが急に見せる器の大きさに惚れ惚れとしてしまいました。
こういうことをサラッと言える男になりたいね。

逆によくわかんなかったのは、ブリジットのお母さんがジャパネットたかたみたいなオッサンと不倫するエピソード。
あれも最終的にはお父さんが仏でも小物に見えそうなほどの器の大きさを見せつけて夫婦仲直りになるわけだけど、これに関しては理解できん。
ブリジットのエピソードでは笑えるだけでなく妙に共感してしまうような親近感をすごく感じたんだが、お母さんのエピソードに関しては“若者だけじゃなくそのお母さん世代もお盛んなのよ”みたいなジェネレーション的な広がりを無理矢理広げられた感が印象に残るだけで、作品に残した意味は乏しいと思う。
わざわざ電話してきて娘相手にジャパネットたかたのグチを言い、「でもカレ夜はすごいのよ!」みたいな下ネタ言うのには思わず笑ったけども。
だけどおれは下ネタは基本笑ってしまうのだからたいしたことないというか、この下ネタが頭にあるせいで最後お父さんが寛大に不倫を許すシーンが素直に喜べないんだよ!
誰が観ても理解できるようなベタでわかりやすい演出でアラサー独身女以外でも間違って共感してしまいそうな雰囲気が出来上がってるにも関わらず、女を喜ばしとけば丸く収まるみたいな展開がちょっと残念。

とはいえ終始本当に愉快で、ここまで人を楽しくさせられるものは映画に限らずなかなかないと思う。
面白いコメディ映画を見るといつも思うけど、やっぱり重要なのは“笑い”以上に“楽しさ”だなあ。
主人公の生活・恋愛をめぐっていろんな笑いや共感を生むラブコメのお手本のような名作だった。

ミッション:インポッシブル2

2012年02月14日 00時09分55秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督:ジョン・ウー 脚本 ロバート・タウン
原案 ロナルド・D・ムーア ブラノン・ブラーガ 原作 ブルーズ・ゲラー
製作 トム・クルーズ ポーラ・ワグナー
製作総指揮 テレンス・チャン ポール・ヒッチコック
音楽 BT ハンス・ジマー  撮影 ジェフリー・L・キンボール
編集 スティーヴン・ケンパー クリスチャン・ワグナー
製作会社 クルーズ/ワグナー・プロダクションズ  配給 パラマウント映画
公開 アメリカ 2000年5月24日 日本 2000年7月8日
上映時間 123分
出演:トム・クルーズ ダグレイ・スコット サンディ・ニュートン ヴィング・レイムス リチャード・ロクスバーグ


天才スパイのキメキメ演出を憎めない笑いで味付けする傑作。新手のラブコメスパイアクション。


昨年末からミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコルが大々的に公開されており、第1作目と4作目(ゴースト・プロトコル)がめちゃくちゃ面白かったため今さらながら鑑賞。
まずミッション:インポッシブルシリーズはトム・クルーズ演じるカリスマスパイのイーサン・ハント以外は登場人物も全然違うし、監督が毎回違うんだが、思ってた以上に一作一作の雰囲気の違いが大きいことに驚いた。

まず結構頭脳戦チックというか、騙すか騙されるか誰が何を考えているのかわからない疑心暗鬼感とド派手なアクションの融合で、本格スパイ映画って感じの「ミッション:インポッシブル1」。
それとは対照的に仲間とワイワイしながらミッションに臨み、その仲間達の心境も織り込んだストーリーや、すごいんだけど微妙に使えないハイテクなスパイ道具などちょっと温かみのある「ゴースト・プロトコル」
そして今回観た「ミッション:インポッシブル2」は、エリートスパイキザ野郎が女を奪い合う新しいタイプのアクションラブコメディだと思った。
10年前の映画に新しいタイプとかいうのもおかしいし別に似たようなタイプの映画はほかにも結構あるのかもしれないけども。

クールなエリートスパイ同士が女をめぐって争う姿が妙におかしく見えるし、同時にそれが大げさなアクションシーンを動機付ける理由にもなるわけで、観てる方まで燃えてくるめっちゃくちゃ面白い作品だと思いました。
1作目、4作目が面白過ぎたため期待しすぎないでおこうとか思っていたのに、むしろこの2作目が一番好きかも。

4作目のゴースト・プロトコルは1作目に比べるとかなりふざけてるというか、ちょっとクスッとくる演出が多いなあという印象だったが、2作目もどちらかというとゴースト・プロトコル寄りのクスッと仕様。

まず冒頭が命がけのロッククライミングシーンで、かなり危険なことを実はバカンスでやっていたという始まり方からしてカッコイイ&小笑いのコラボを予感させる。

今回のイーサンはなかなかのチャラ男で、指令によりビジネスパートナーとして民間人のドロボー美女を誘い込むはずがなぜか男女関係の方向に誘ってしまいベッドインするわけだがその間にいろんな見どころが盛り込まれる。
盗人に自分を認めさせるイーサンの頭脳プレイやらカーアクションやら、クサクサの口説き文句など、カッコよさとアホくささの絶妙なバランスがことごとくツボを刺激して、これから緊迫のミッションが始まるっていうのにニヤニヤが止まらなくなってしまうわけですよ。

今回イーサンの敵となる男・アンブローズはかなり危険な人口ウイルスとそのワクチンで一儲けしようと考えてるワルなんだが、こいつが実は先ほどの女の元彼。
アンブローズとイーサン・ハントはウィルスの件と彼女の件、そしてその他の諸事情といろいろ憎み合う関係になるわけで、こういう高次元のやつらが派手なアクション演出を見せつけながら対決するのがちょー面白い。
なんとなくバカバカしく感じて笑っちゃうような、純粋にすごくカッコイイような、とにかく観ていてエキサイティングしてしまうことに間違いはない。

この二人が最後一騎打ちで戦うシーンが結構長めにあるんですが、これを見ているときの大興奮&ニヤニヤは他ではまず味わえないと思う。
特にバイクで正面に向き合い、お互い全速で近づいてからのウィリー→ジャンプ!→空中戦!の流れはふざけてるとしか思えないマジキチな決闘。
これほど笑いとハラハラドキドキが共存したのは生涯で初めてのことだったと思う。

この映画を面白くしてるのは、イーサンの敵にあたるアンブローズが完全に悪役なのに元カノをいまだに好きで、大事にしたいって気持ちを見せてくるところ。
人口ウィルスの件やらイーサンとの確執を生んだアレコレやらもともとイヤなやつなんだがそれは全部職場での顔なわけで、プライベートでは元彼女のことを忘れられない一途で不器用な男っていう二面性から、ちょっと応援したくなってきちゃう部分も出てくるんだよね。
その情のせいでワルの組織の人たちにも迷惑をかけるのはトップとしていかがなものかと思うけども。

そんなわけで、女をめぐりスパイ同士が憎しみ合い激しく戦う様がカッコイイんだけどちょっと笑える、いわばスパイアクションラブコメディとしてすっごく面白い作品だったと思います。

ウォーリー

2012年02月13日 00時13分19秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督 アンドリュー・スタントン  脚本 アンドリュー・スタントン ジム・リードン
製作 ジム・モリス 製作総指揮 ジョン・ラセター ピーター・ドクター
音楽 トーマス・ニューマン 主題歌 ピーター・ガブリエル『ダウン・トゥ・アース』
編集 ステファン・シェファー 配給 ウォルト・ディズニー・スタジオ
公開 アメリカ 2008年6月27日 日本 2008年12月5日
上映時間 97分


セリフなしで表現される無垢な愛に感動するアニメーション映画。

なぜだか微妙に手に取りにくい雰囲気があったんだけど気になってて、ふとしたタイミングに鑑賞。
そしたら想定を大きく上回る面白さで、ほんと見れてよかった。

廃れた地球でゴミ処理の仕事を誰のためでもなくおそらく何世紀もこなし続けてきたロボットのウォーリーが主人公なんだけど、仕事中に気に入ったものは持ち帰ってコレクションしていたり、映画を観たりもするかなり人間臭い部分のあるかわいいヤツ。
この映画はウォーリーを初めとしたロボットたちがいちいちかわいいのが大きな魅力。

地球でひたすらゴミをまとめていたウォーリーと、未来の地球人が住む宇宙船から来たイブが出会い、仲良くなっていくんだけどもロボット同士の愛っていうのが意外と面白い。
正直見る前は「ロボット同士とかわけわかんね!」ってスタンスだったのだがこれがすごく良くて、男とか女とか子供とか老人とか余計な情報がないから誰が見ても主人公のウォーリーに素直に感情移入できるっていうすごい設定。
一緒に見ていた彼女がウォーリーを女だと思って見てたってのを聞いてほんとにびっくりした。

未来の人間たちもでっぷりと太ってて醜いんだけど、やっぱりちょっとかわいらしくていいやつ。
最終的には地球に戻って農業を始めて、地球の緑を取り戻そうっていう決断にいたるわけなんだが、おれだったらあれほど安泰な暮らしのできる宇宙から戻って新しく自分たちの地球を作りなおそうっていうガッツを持てる自信がないけど、きちんと希望を重視するさすがのディズニークオリティにやっぱり感動してしまいますぜ。

ペットと同じで、しゃべらないからこそ余計なことを言わなくてかわいいし、しゃべらないからこそ見ている方に何を考えてるのかを察させる面白さがあるんじゃないかとも思う。
老若男女がそれぞれ自分の解釈で楽しめるすごい作品でした。

愛のむきだし

2012年02月12日 00時16分03秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督・脚本・原案 園子温 
出演者 西島隆弘 満島ひかり 安藤サクラ 尾上寛之、清水優、永岡佑、広澤草、玄覺悠子、中村麻美、渡辺真起子、渡部篤郎、他
ゲスト出演 紅音ほたる、板尾創路、岩松了、大口広司、大久保鷹、岡田正、倉本美津留、ジェイ・ウエスト、深水元基、雨宮亜衣、吹越満、古屋兎丸、堀部圭亮、宮台真司、日向ななみ他
音楽 原田智英 主題歌 ゆらゆら帝国 編集 伊藤潤一
配給 ファントム・フィルム
公開 2009年1月31日
上映時間 237分


罪、変態、宗教、愛をめぐる4時間。“むきだし”って感じの弾けた映画。

話題の園子温監督作品で、上映時間が約4時間とめちゃくちゃ長いけどかなり評価の高い映画ということでいまさらながら鑑賞。
すご過ぎてびっくりした。

主人公のお父さんが神父で懺悔しないと怒るもんだから虫も殺せない真面目な少年が罪を作らなければならなくなり、不良グループに入ったぐらいまではまだ良かったもののアクロバット盗撮の団体に入り、盗撮魔になってしまうのが冒頭。
このアクロバットな盗撮アクションやら、撮れた時のキメ顔のカッコよさとやってることのカッコ悪さのギャップやらが腹筋に激しく襲いかかる笑える作品。
そのキメ顔はDVDのジャケットにもなってるんだが、まさか盗撮してるときの顔には見えないね。

そんなアクロバット盗撮の師匠に言われた「心から勃起しろ」っていう指導とは裏腹に勃起したことがないAAAの西島隆弘演じるユウ。
そんなユウが満島ひかり演じるヨーコに出会って初めて勃起して、初めて心から盗撮したいと思えるパンチラに出会うっていうかなり変態チックな世界が出来上がるところまでで上巻が終わり。

「恋の罪」「ヒミズ」そして「冷たい熱帯魚」に比べるとかなりポップで、コメディな寄り映画だった。
それに加えてマジメなお父さんが変な女と仲良くなってしまったことからおかしくなってしまい、ユウもだんだん道を踏み外してしまうあたりの「普通から外れていってしまう怖さ」みたいな園子温らしさもある。

後半になると今度はそのヨーコについて詳しく描かれるんだが、これが何故かちょっとチープに描かれてる。
父親の虐待のせいで極端に男性を嫌うようになったという設定もちょっと安易な気がするし、ユウにとって探し求めていたマリア様に見えてしまう=恋に落ちる演出の見せ方もチープ感満載。
さらに出会った翌日同じクラスに転校して来たり、ユウが自分を助けてくれた“サソリ”だとは知らずに二人が夜な夜なお互いのことを思い出すシーンは思いっきりチープ。
それがポップに楽しめるから面白いんだけども。

その後ヨーコは謎の女コイケに騙されてレズビアンに目覚めたりインチキ宗教団体に入ったりして、一方のユウはコイケに盗撮をばらされて学校を退学になったりアダルト業界で働かされたりと結構大変なことになっていくという怒涛のストーリー展開。
終盤になると宗教団体からヨーコを連れ戻すためになかなか強引なことをやってのけるわけで、このなりふりかまわないパッションがいわゆる「愛のむきだし」。

軟禁してみたり教会に入信してみたり、最後には爆弾やらで強引に突入するユウの情熱に圧倒されました。
「ヒミズ」「恋の罪」は詩を読むシーンが印象的だったけど、似たような演出としてこの作品はインチキ宗教の教典を読むシーンがあった。
インチキ宗教の言ってることでもそれを信じてしまっているひとが読むと重みのある大切な教えに聞こえて、宗教から連れ戻そうとすることの難しさを感じるすごいシーンだった。

ちょっとしたはずみからどんどん現実離れしたとんでもないことになっていってしまうスリル感が園子温作品の魅力だが、主人公が道を踏み外すことに関して不本意な「冷たい熱帯魚」「ヒミズ」、迷いながらどんどん自ら踏み外してしまう「恋の罪」に対して、やる気満々なんでもやるぜっていうハチャメチャなスタンスのユウが主人公ということで、他の作品よりもポップで楽しく見れる作りになっていると思う。

というわけで長々と書いちゃいましたが、園監督得意のちょっとズレた世界が繰り出すスリル感と笑いが見事に融合した傑作でした。
ただし時間も2倍になっちゃってるわけで、今度はコメディ側に力を入れて120分以内のちょっとクセのあるコメディ映画を撮って欲しいと思わせられる作品だった。

パッチギ!

2012年02月08日 23時11分37秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督 井筒和幸  脚本 井筒和幸 羽原大介
製作 シネカノン ハピネット・ピクチャーズ 衛星劇場 メモリーテック S・D・P(スターダストプロモーション)
製作総指揮 李鳳宇
出演者 塩谷瞬 沢尻エリカ 高岡蒼佑 小出恵介 波岡一喜 尾上寛之 オダギリジョー ケンドーコバヤシ
音楽 加藤和彦 撮影 山本英夫
編集 冨田伸子 配給 シネカノン
公開 2005年1月22日 上映時間 119分


イケメンの童貞がフォークミュージックに目覚め、在日朝鮮人の美少女といい感じになるヤンキー映画。

主演の塩谷瞬はあまり知らなかったけど小出恵介と醸し出す童貞感やら、沢尻エリカとのロマンスやら、オダギリジョーと変な雰囲気でギター練習する感じやらなかなか良かった!

モテようとしてビートルズの髪型を真似たりギターを始めたり、ポルノ映画観たり、仲良し童貞コンビの感じが出てた。
まあ童貞にしては大事なところでめちゃめちゃ積極的だしコミュ力高いしギターの上達がすごいし、そもそも顔がイケメン過ぎるって矛盾はあったけども。
それと途中から小出恵介の出番がぱったり消えたのには残念!

甘酸っぱい恋愛描写は、朝鮮語を練習して電話でコンサートに誘うとこやら、在日朝鮮人の宴会に突入して一緒に演奏するとこやら、徐々に距離が近づいていく感じがわかりやすくて楽しめた。
ラストの車のシーンもさわやかで素敵。

オダギリジョーに習って覚えるギターっていう要素に関しても沢尻エリカと仲良くなるためだけの使い捨てではなくて、朝鮮半島の南北断裂を話題に出すきっかけにしたり(かなりの説明口調だったが)、童貞が自己実現する良さやら、当時の流行を感じさせる演出にもなるし、なによりオダギリジョーのフリーダムな感じが魅力的なキャラクター。

ということで、“朝鮮学校の子を好きになった童貞だけど、音楽をきっかけに仲良くなれた”みたいな映画としては面白かったです。
が、好き嫌いの問題だけど、この映画のヤンキー要素がおれにとってはむちゃくちゃ邪魔だった。
街を歩けばいちいちケンコバ率いる空手流のチンピラとケンカになり割と長めにバイオレンスなシーンが始まるんだが、ああいうヤンキーのケンカシーンて何が面白いのか少しも理解できん。
ごくせんとかクローズが流行るぐらいだから需要はあるんだろうが。

高岡蒼甫の演じた役がひどくて、国に戻ってサッカー選手としてワールドカップを目指すとか意味わからんし、セフレを妊娠させたくだりもしつこくてイライラしてたら最終的になぜか感動的な話にしようとしてて無茶苦茶。
高岡蒼甫は「さんかく」の百瀬みたいなダメDQN役をやらせれば最高の男なのにもったいない。
おれの嗜好に反してこのパッチギでの役が結構評価されてるらしいのだが。

ヤンキーノリの文句でもう一つ言えば、ケンカで逃げてた尾上寛之がトラックから落ちてきた鉄の棒で頭打って死に、お葬式が開かれるまでのくだりはなんだったんだろうか。
葬式で塩谷瞬が日本の若者を代表して在日朝鮮人軍団にお説教されるのなんて場の趣旨とまったく関係のない唐突な展開で、在日朝鮮人が秘める日本人への嫌悪感を無理にでもどこかで描いときたいっていう作る側の意図が露骨でさめる。

ヤンキーエピソードを全部なくして小出恵介の童貞エピソードやらオダギリジョーのフリーダムな世界観を深く掘り下げて欲しかったな。
残すとしても最初のバスをひっくり返すとこだけでいいや。
逆に言えば、ヤンキー映画なのにヤンキー要素を抜いても楽しめるって思う人がいるぐらい(おれだけか?)いろいろと楽しみ所の多い作品。
ワルの要素嫌いだから「ディパーテッド」から一切のマフィアをカットしろ!っていう人はいないだろうからね。

ところで沢尻エリカが意地悪じゃないのと高岡蒼甫がダメ男じゃないのが意外だったけど、考えてみれば別に当時二人ともそんなイメージなかったもんな。

てなわけで、好きなところも嫌いなところもいっぱいある映画だった。
ヤンキーものが大丈夫ならすごくハマるんだろうと思う。
この年のキネマ旬報ベストテンで第1位の作品。

英国王のスピーチ

2012年01月30日 22時16分48秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督 トム・フーパー  脚本 デヴィッド・サイドラー
製作 イアン・キャニング エミール・シャーマン ガレス・アンウィン
製作総指揮 ポ-ル・ブレット マーク・フォリーニョ ジェフリー・ラッシュ ティム・スミス ハーヴェイ・ワインスタイン ボブ・ワインスタイン
音楽 アレクサンドル・デプラ 撮影 ダニー・コーエン 編集 タリク・アンウォー
出演者 コリン・ファース ヘレナ・ボナム=カーター ジェフリー・ラッシュ


子供の頃から吃音症で人前で話すなんてとんでもないような人が急に繰り上がって王になり、妻やカウンセラーに支えられスピーチの特訓をする話。

2011年のアカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞と三冠を獲った歴史に残る超大作。
世界中に認められた作品だし周囲の評判も良いということで楽しみにしてたんだが、ちょっと期待しすぎたか。。。

もともと登場人物を好きになれない作品が嫌いで、この映画はその点であまり合わなかった。
主人公のジョージ6世はうまくしゃべれないけどプライドは高くてキレやすいという日本の引きニート殺人鬼みたいな性格のオッサンで、どうしても好きになれない。
それだから子供の頃からの障害を努力と周囲の協力で乗り越える成長物語にも関わらず全く応援する気になれず話にのれなかった!

カウンセラーの先生に「私の父は王だ!兄も王だ!お前なんかブルワリーの息子の田舎者だろ!私に指図するな!」とか本心から言ってるわけではないにせよこいつどういう神経してんだよ…って思ってしまうわけで、確かにカウンセラーの先生も干渉し過ぎる節はあるけど、どうも登場人物に共感できなくて気持ちがどんどん映画から離れていってしまう。
吃音みたいなわかりやすい原因だけではなくて人とうまく接することができない性格を描きたかったのかもしれないが、やっぱり映画の主役としてどこか憧れを持たせる要素とか共感できる要素とかがないと映画自体の興味が削がれる!

敏腕カウンセラーも権力に屈さずビシバシ指導するのはカッコイイけども映画の登場人物としてはちょっとインパクトに欠ける印象。
奥さんに関してはは愛で優しく包んでくれる感じやら上品そうな雰囲気が良かったけども。

オッサンが主人公の成長物語だし英国王の実話だし、もう少し大人にならないとわからないのかもな。

亀は意外と速く泳ぐ

2012年01月29日 22時49分04秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督・脚本:三木聡 製作:橋本直樹
出演;上野樹里 蒼井優 岩松了 ふせえり 松重豊 村松利史 緋田康人 要 潤 森下能幸 松岡俊介 水橋研二 温水洋一 岡本信人 嶋田久作 伊武雅刀
公開:2005年7月
上映時間:90分


平凡すぎて非凡なほど普通の主婦がスパイになりかけるが、いろいろ出来事はあるもののやっぱり平凡を卒業できない映画。

上野樹里演じる平凡な主婦のその平凡っぷりを見せつける序盤が最高に面白かった。

おばさんに平然とぶつかられまくったりバスに素通りされたり、人には自分が見えてすらいないんじゃないかと疑うほど存在感がない主婦が主人公。
自分を必要としてくれるのはペットの亀だけで単身赴任中の夫すら電話しても亀太郎のエサやりの心配しかしていないという始末。
しかもその夫は中肉中背という平凡っぷり。
それは別にいいだろってのがクスっとくる。

学生時代に好きだった加藤先輩(要潤)に再会するくだりも最高に面白くて、学生時代前髪をカッコよくなびかせてていた先輩がハゲてヅラかぶってるんだけど、それでも当時さながらにカッコつけてるし子供と奥さんが絶妙にイケてない。

そんな平凡極まりない主婦が急な階段を駆け上がっていたところおぞましい数のリンゴが雪崩のように落ちてきたためその場に寝転び、そこでちょうど視野に入ったスパイ募集の小さな広告を見つける。
これが一見くだらないけどリンゴの量があまりにやりすぎですごく滑稽だし、ツイてない平凡な主婦がその人らしい形で非現実的な世界への入り口と出会ってしまう重要な意味のある場面で、この映画のピークと言っても過言ではない素敵な演出だと思う。

その広告をきっかけにスパイになり、目立たないためにこれまで以上に平凡に過ごさなくてはならなくなってからの展開も面白くて、先輩スパイの岩松了・ふせえり夫婦との絡みは笑えた。
ファミレスで最も店員の印象に残らないメニューを頼んだつもりがそうでもなかったりスーパーで最も目立たない買い物をしてみたり、くじ引きで当たりを引きそうになり目立ってしまいそうなピンチでは物陰から岩松了とふせえりがこっそり見つめていたり。

ハリウッドの大作コメディとは違った日本人向けの微妙な小笑いが立て続けに提供され続けるもんだから本当に楽しくて、もしこのままのふざけた雰囲気でおかしなスパイミッションに繰り出され、怒涛のトンデモ演出が続いたとしたらこれまでの生涯で最高の映画になったと思う。
それなのに中盤以降みるみると失速していってしまったのが本当に残念だった。

1.5倍速で観てるんじゃないかってほどテンポの速かった前半に比べると後半はストーリーに大した展開もなくダラダラとした印象を受けるし、面白演出もなくて街の人たちが実はスパイだったっていう説明ばっかり。

個人的に最も残念だったのは、上野樹里が好きだったほどほどのラーメンを出すラーメン屋の店主が実はスパイで、目立たないためにほどほどの味のラーメンをあえて作っていたけど、最後の晩餐になるかもしれない日にめちゃくちゃおいしいラーメンを作り仲間と二人で食べながらあまりのおいしさに泣いてしまうシーン。
この状況設定からいってそのラーメンは絶対においしそうに見えなきゃいけないはずなのに、正直全然まずそうだったのに心底ガッカリした。
見るからに小汚い店で出てくる普通のラーメンだし、撮影の都合なのか麺は伸びきってるように見えて、役者の食べ方もなんだかいまいちでくそまずそうだった。
演技が上手か下手かとかおれはあんまりわかんないし気にもしないけど、さすがにこれは泣くほどおいしいって思ってる人の食べ方じゃないだろってひどく冷めた。

蒼井優もせっかく前半に多く登場させてキャラを立たせたのに後半はほぼ出番なし。
序盤に出てくる突飛なキャラクターとして相対的に上野樹里を平凡に見せるための役割しか担ってなかったのはもったいないと思う。

せっかく前半に素晴らしい設定を作りこんだのだからそこからどんどん話を掘り下げてくれればよかったものを、その設定を大事に守って全く進展なし。
最後まで上野樹里は平凡なままで、スパイミッションの内容も明らかにならないままだし、蒼井優は戻ってこないまま変なオチに使われるし、亀はもう関係なくなるし、「平凡なひとはずっと何も変わらず平凡なまま平和に過ごすよ」みたいなことをやりたかったのだろうか。
結局スパイの仕事ひとつもしないまま終わるとかありかよ。。。
スパイから抜けるときに返した500万円が別ルートで同額手に入りやっぱり元通りになるっていう流れからして、変化のない凡人の暮らしみたいな感じにしたかったのか知らんが、やっぱり登場人物に変化が見えないと退屈だよなあ。

序盤が本当に面白かっただけに、どうしてこうなってしまったんだろうと心底残念な気持ちになる作品だった。

ハモンハモン

2012年01月29日 17時41分02秒 | 映画(DVDで鑑賞)
監督:ビガス・ルナ 脚本:クーカ・カルナス
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ  音楽:ニコラ・ピオバーニ
製作:アンドレス・ビセンテ・ゴメス
出演:ペネロペ・クルス(シルビア)、ジョルディ・モリャ(ホセルイス)、ハビエル・バルデム(ラウル)、ステファニア・サンドレッリ(コンチータ)、アンナ・ガリエナ(カルメン)、フアン・ディエゴ(マヌエル)
公開 1992年9月2日 (スペイン) 1993年7月24日 (日本)
上映時間 93分


想像を遥かに上回るドロドロの極み。

ペネロペクルス&ハビエルバルデムの大物スペイン人俳優夫婦が20年も前に共演したスペイン映画ということで気になって観てみたんですが、とんでもない作品でした。

登場人物としてはペネロペクルス演じる「シルビア」と「シルビアの母」、シルビアの婚約者の「ホセ」と「ホセの両親」、そしてハビエルバルデム演じる「ラウル」の主に6人なんだが、この6人がもう見事にぐちゃぐちゃに入り乱れる。

あらすじを簡単に書いてしまうと、シルビア&ホセのカップルは妊娠して結婚を決意するがホセの親は反対。
別れさせるためにガチムチイケメンのラウルを雇ってシルビアを誘惑させる。
最初は婚約していると突っぱねていたシルビアだが婚約者のホセが結構うざいのと、ラウルの熱烈なアピールでついに恋に落ちてしまう。
最初はビジネスのために近づいたはずが、本気で愛し合う二人。

そこの二人がくっつくのは映画のあらすじとしては自然なことだと思うけど、その脇でホセがシルビアの母と大人の関係になるのと、息子とシルビアを別れさせるために雇ったはずのラウルとホセの母が同じく大人の関係になるという驚きの超展開はいくらなんでもカオス。
ついでにシルビアの母はホセの父ともかつて不倫関係にあったというおまけ設定もある。
しかもこの変態セクロスシーンが無駄に丁寧に描かれる情熱の国スペインクオリティ。

婚約者を取られて怒ったホセがラウルに殺意を抱いたため、シルビアはそれを止めるようにホセの父に頼みに行く。
しかし、シルビアとホセの父がここでなぜかキス!
いい具合にドロドロの六角関係が形成されたところで、ラストシーンに入る。

ホセが復讐のためにラウルのもとに到着すると、ラウルはちょうどホセの母とセクロス中!
相当ショッキングなはずだけど、もはやそれにはあまり触れずホセvsラウルの殺し合いが始まるが、返り討ちにあいホセ死亡。

その愛憎地獄の現場に一足遅れて到着する残りの三人。
幾重にも絡み合う男女6人が一堂に会しとんでもない修羅場になるかと思いきや、シルビア&ホセの父、ラウル&ホセの母、シルビアの母&ホセの死体の三つのペアになり美しい夕日とBGMをバックに抱擁をして終わりという信じられないラストシーン。
渋いながらに情熱的な恋愛を想わせるそのBGMがこのめちゃめちゃなラストシーンを“美しい愛のカタチ”っぽく美化してくるのもポイント。

途中でもペットのブタをバイクでひき殺しちゃったから丸焼きにして食べるとか、浮気を知って怒り狂ったホセが「そいつのキンタマなんて引きちぎれちまえ!ちくしょうタマなんかくたばれ!タマなんかくたばれ!」となぜか怒りの矛先をキンタマに向けて牛のオブジェのキンタマを殴りまくるところとか、常識を大きく飛び越えたとんでもない展開の連続でした。

ペネロペとハビバルにとってスターダムへの大きな一歩になったというこの映画ですが、時代と文化の違いが強すぎるせいもあるのか素直に共感するというよりは少し距離を置いたところから引いて楽しむしかないような、想定の遥か上を行く奇妙な映画でした。