goo blog サービス終了のお知らせ 

雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

第十七節

2010-05-03 11:01:54 | Dear to me
ホッと一息ついたところで、クッキーを持って来ていたのを思い出した。
かばんに入れてある包みを取り出すと、雄二君が少し不思議そうにこちらを見てきた。
「あのね・・・これクッキー持ってきたんだけど、甘いものって苦手?」
雄二君はこちらも見たまま、少し間をおいてから、
「いや、甘いのは嫌いじゃ無いよ。ありがとう。」
気のせいかもしれないけど、雄二君が笑った気がした。
私は、変に気恥ずかしくなって
「たくさん持ってきてあるから、遠慮しないでどんどん食べてね」
少しまくし立てる様に言いながらクッキーの入った包みを開いて、こたつの上に置いた。
雄二君は包みの中を覗いて、シナモンのクッキーを選んで食べ始めた。
好みかなとも思ったけど、もう一つがココアクッキーだからだよねと自己完結で自分もクッキーを一つ摘んだ。

二人とも特に会話が弾むことも無く、時折クッキーをかじる音とココアをすする音が聞こえるだけで、時間だけが過ぎる。

・・・これは気まずい。状況だけ見るとなんかいい感じに見えなくないけど・・・
いや、待った。
男の子の家で二人っきりなんて、普通に考えなくても何してんの私。
(お姉さん早く!早く帰って来て!)

そんな私の心の叫びが通じたらしい。
玄関が開く音がして、「ただいま!」と元気な声がした。
程なくして、身震いさせながら買い物袋を抱えたお姉さんが入って来た。
「う~~さむ!乾電池買ってきたわよって・・・・・・オジャマ?」
いやいや、お姉さん待ちですよ?なんて内心でツッコミを入れてみるけれど、さすがに口には出せない。
「何言ってんだよ。姉さんが呼んだんだろ。」代わりに雄二君が答えた。
「いや、まぁそうなんだけどね。かなちゃんゴメンネ!チャイムの電池切れてて、しかもこの家予備が置いてないもんだから近くまで買いに行ってたのよ。あっ、ユウ私にも暖かいの一つ」
勢い良くまくし立てると、まるでウェイターに注文を頼むように雄二君に手を上げる。
雄二君は特に何も言うことなく、のそっと立ち上がり奥に入っていった。
それに入れ代わるようにお姉さんがこたつの中に入って来た。
「うーん生き返るわぁ~。んっ!?クッキーがあるじゃない」
私の持ってきたクッキーが、お姉さんの興味を引いたようだ。
私が勧めると、嬉しそうに二つ三つとクッキーを平らげた。
「うん、おいしいわぁ。でも、これってもしかして手作り?」
まばらなクッキーの形を見ながら、お姉さんは私に尋ねた。

第十六節

2010-05-03 07:22:02 | Dear to me
(・・・もしかして?)
「えっと、あのね、お姉さんからお誘いがあって、それで・・・」
しどろもどろになる。そもそも雄二君の携帯でお姉さんが電話したのだから、私が来る事くらいは知っているはず。

いや、そうじゃない。
そうじゃなくて、普段出てこないであろう雄二君が応対に出てきたってことは・・・
「ごめん、姉さんなら今、買い物に出てる」
(あぁ~やっぱり!)
雄二君が出てきた時点で薄々そうじゃないかと思ったけど、お姉さんもわざわざこんなタイミングで買い物に行くなんて・・・

「姉さんならすぐに帰ってくるけど・・・寒いから中に入って待つ?」

お言葉に甘えて、お家の中に入れてもらうことにした。
今日はいつもより寒くて、外にいると風邪を引いてしまいそうだ。
(それに人目も気になるし・・・)

部屋に入ると、前に来た時には無かったこたつが置いてある。
私の家には、置いてないのでちょっと新鮮だった。
好奇心に負けて足を入れると、あるはずの床が無い。
油断してバランスを崩してしまい、少し変な声が出た。
一回出て毛布をめくって中を見ると、いわゆる掘ごたつになっているではないか。
こたつですら珍しいのに、掘ごたつなんて初めてだからちょっと感動した。

掘ごたつの中で足をぶらぶらさせながら満喫していると、奥の台所らしい所に入った雄二君がトレイを持って戻ってきた。
「レンジに入れて熱くなってるから、気を付けて」
目の前に出されたホットココアからは、ココアとミルクの甘い匂いが湯気と一緒に漂っている。
雄二君にお礼を言って、ゆっくり一口飲むとお腹の中から温かさが広がっていった。

第十五節

2010-05-02 11:01:01 | Dear to me
期末試験の終了日は部活もお休みだし、残ってする用事もない。

友達とテストがどんな出来だったとか話しながら帰っていると、カバンから着信音が聞こえた。
この着信音は雄二君の携帯に設定してる曲だ。
雄二君はテスト期間中、保健室の方でテストを受けてたみたいで教室で姿を見ることはなかった。

少し期待をしつつも電話に出ると、その期待を裏切らずお姉さんの声が聞こえてきた。
お茶でも飲もうとのお誘いで、それを断る理由なんてないので荷物を置いてからおじゃましますと伝えて携帯をしまった。
一緒に帰っていた友達に用が出来たから、と言うと「彼氏?」なんて茶化されてしまった。
強く否定すると逆に疑われそうなので、知り合いのお姉さんだと微妙にはぐらかしておいて帰りを急いだ。

家に帰ってから着替えを済ませる。
すぐに出ようかと思ったけれど、さすがに手ぶらでお邪魔するのは気が引ける。
何か無かったかなと台所を見ると、作り置きしておいたクッキーがあったのを思い出した。
味と形は問題ないと思うけど、いきなり手作りかぁ。
うーん・・・・・・ クッキーは手頃な箱に包んで急いで雄二君の家に向かった。

途中で知ってる人に会わないかと少し気にしてみたけど、特にそんな事も無く家の前に辿り着いた。
(まだ来るの二回目だし、しかも一人で。緊張するなぁ・・・)
そうは言っても、ずっとここに立ってるわけにも行かない。
恐る恐るインターホンを押してみる・・・けれどもカチッと言うだけで中からも反応が無かった。
試しにもう何回か押してみても結果は変わらない。
もしかして故障中?・・・どうしよう
(家の中には居るよね?)
そっと門を開いて、玄関のドアを直接ノックした。
今度は奥から足音がして、ドアが開いた。
けれど、中から出て来たのはお姉さんでなく雄二君だった。

第十四節

2010-05-01 18:43:20 | Dear to me
良し!決まり~と、お姉さんは奥の部屋に自分の携帯を取りに行った。
しかし、帰って来たお姉さんは少し不満そうな顔をしている。
聞くと携帯を自分のアパートに忘れたとぼやいた。
だけど、手にはしっかりと携帯を持ってる・・・?

その携帯は雄二君のモノだった。ひとまずはこれでお願い~とお姉さんはシブシブ言いながら、私の携帯と赤外線通信で番号の交換をした。
だけれど内心ごめんなさいと思いつつ、私はこの小さな偶然がとても嬉しかった。
別に雄二君の番号が分かったからと言って、すぐに何かあるって訳じゃない。だけど今まで何も無かった所からほんの少しでも繋がりが出来た。
それが素直にとても嬉しかったのだ。

雄二君の家を出て自分の家に着くと、奥から母の声でみんな食べてるから早く荷物下ろして来なさいと聞こえたので、急いで着替えて食事を済ませた。
食事の間も、今日のことは二言三言聞かれただけでそれ以上は何も言われなかった。

お風呂に入ってさっぱりした所で、部屋に戻る。
携帯を見ると、メールが来ているのに気が付いた。
フォルダを開いて確認すると雄二君の携帯からのメールで、たぶんお姉さんからだろうなと思いつつ少し期待を込めて本文を読むと、

プリントとノート助かった
届けてくれてありがとう
雄二

思いもしない雄二君からの言葉に声にならない声が出た!
サプライズにしたってこのメールは嬉しすぎる。
お姉さんに感謝しつつすぐにメールを保存して、何度もメールを眺めながらその日はぐっすりと眠りに就いた。

第十三節

2010-05-01 10:16:27 | Dear to me
プリントを届けに来ただけなので、あまり長居し過ぎるのも迷惑かもしれない。
そろそろ失礼しようと香奈穂が横に置いたカバンを自分の方に引き寄せた時、横ポケットに入れていた携帯から着信を知らせるライトが光っているのが見えた。
着信が数件入っていて、そのすべてが母親からだった。
お姉さんに断りを入れてから慌てて電話するとほとんど間を置かずに繋がって、すぐに受話器の向こうから「もしもし香奈穂?今どこにいるの?」と畳み掛けてくる母親の声が聞こえて来た。
かいつまんで、ノートを届けていたことと話し込んでいて遅れたことを伝えると、
「何も無いなら良いけど、一応テストなんだから早く帰らないとお友達にも迷惑がかかるんだから。こっちもご飯ももう出来てるからね」
そう言って電話は切れた。
怒っていたって訳じゃなくて、ただ心配してくれたのだろう。
携帯をカバンに入れようとするとお姉さんに手を掴まれて一言

「カナちゃん番号交換しよ!」

空いた手で人差し指を立てながら、

「ほら、ユウが学校でどんな風にしてるのか知ってたいし」

「それにほらこの前みたいに何かあった時に私が対応しようにも連絡先が都合上私の実家にしてもらってるから、こっちに届けてもらう時にひとクッション入って遅れるのよ」

「それにアパートは近所でもこの時間じゃ、おしゃべりする人がいないから退屈なのよ。ユウも部屋にいて全然構ってくれないし・・・」

矢継ぎ早に迫られて私は勢いのまま、教えます!教えますから!!と返してしまった。