雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

幕間

2010-05-24 14:42:36 | Dear to me
期末試験が終わって間もない頃の事。
雄二君の家でお姉さんとのおしゃべりで、何気なく出た一言が事の始まりだった。

「かなちゃんって、普段学校とかだと何て呼ばれてるの?」

女子のおしゃべりは急に話題が飛ぶことがあるけれど、これも中々に唐突な飛び方だ。
「いやぁ、ちょっと気になっただけなんだけどね。私はさぁ、その場のノリでかなちゃんって呼んでるけど」

家だと香奈穂だし、学校の友達とかだとかなとかかなっちとかかな?

「じゃぁ、ユウからは?」

・・・
・・・・・・
ん?
呼ばれた記憶が無い?
いやいや、そんなはずは・・・
「・・・無いかもです」

短い沈黙と残念な返答にお姉さんはトーンダウンしながら「えー」と言って、一旦部屋から出て行った。

台所からお姉さんの声が聞こえて、戻ってきた時には雄二君が一緒だった。
「ユウ、ちょっとここに座りなさいな」
「俺、夕飯の準備が」
「そんな時間かかんないから」
「それより、たまには姉さんも作ろうよ。料理出来るんだから」
「シャラップ」

雄二君は何が何だか訳が分からないと言った顔をして、説明を求めるような目で私を見た。
「他人からどんな風に呼ばれてるのかって話をしてたんだけど・・・」
「ユウ!かなちゃんのこと、何て呼んでるの」

雄二は自分が何か失礼な呼び方でもしていたのかと、ここ数日の記憶を思い返して一つの結論に到る。

「うわっ!あんた、やっぱりかなちゃんのこと名前で呼んだこと無いんでしょ」
「いや、そんなことは無い・・・はず」
「だったら覚えてるでしょ!あんたって子は・・・今ここで呼び方を決めるわよ」

すごい大事になってきた。
雄二君も展開の早さについていけてなくて、言われるがままになってる。

「もちろん苗字でなんて論外よ。」
(・・・論外なんだ)
「さん付けもなんかよそよそしいわね」
(・・・確かに)
「ちゃん付け?うーん・・・かなぴょんとかも捨て難いわね」
(それは私が耐えられないです!)

「かなちゃんからリクエストとかは?」
急にこっちに振られたのでびっくりした。
私としては雄二君が呼びやすかったら、それで良いのだけれど・・・

「まぁいいわ。次からはちゃんと名前を呼ぶこと!返事は?」
お姉さんの気迫に押され、雄二君は首を縦に振るしかなかった。

「OK、なら行って良し!」
この短時間でかなり疲れた様子の雄二君は、のそっと立ち上がって台所に戻って行った。

「お姉さん、少し強引じゃないです?」
「良いのよ。名前も呼ばないなんて、あの子はあのぐらいは言っておかないとね!せっかく家に来てくれてるっていうのに」

私は好きで来ているから、そこの所は余り気にしなくても・・・
でも、雄二君がなんて呼んでくれるのかは楽しみだな!
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第二十一節

2010-05-23 18:37:41 | Dear to me
「本当はこんな話をかなちゃんに私からするべきじゃないし、してはいけないと思う・・・だけど、もし『その時』ユウのそばにかなちゃんが居てくれることがあの子にとって最善になるんじゃないかとも思うの。だから・・・まずこの質問に答えてくれる?」

お姉さんが一体何について言いたいのか、この時の私には分からなかった。
ただ、少なくとも雄二君に関することだということは理解できた。

頷きで返す私に、お姉さんは言葉を続けた。
「ユウのこと、好き?」

簡単で、だけどとても難しい質問だった。
雄二君の事が嫌いな訳はない。
だけどこの気持ちが異性として「好き」なのかと、言葉にすることがすぐには出来ない。

確かに雄二君の存在は前から心の中にあった。



でもそれは、クラスで人気の男子だったから?



もしも、雄二君のお父さんの事が無かったら?




卒業まで私達の距離が縮まることもなく別の高校に進んでいたら、この気持ちも「昔の思い出」になって終わってしまっていた?




私が今、雄二君に会いに行っているのは「カワイソウ」だと思っているから?





永いようで短い時間の後、香奈穂は真っ直ぐに向き合って自分の中のありのままの言葉でその問いに答えた。






車が家につく頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
お母さんには保護者同伴で出掛けると言ってあるから、ひとまず怒られることはないだろう。

別れ際「じゃあ、またね」とお姉さんに言われたけど、笑顔で返せたかあまり自信がない。

お姉さんもそれを知っているから、多くは言わず車は走り去って行った。

空に息を吐くととても白い。

・・・もうすぐ、雪の季節だ。
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第二十節

2010-05-22 01:39:33 | Dear to me
その日から三日に一回くらいのペースで、雄二君の家にお呼ばれするようになっていった。
ちょっと前だったら考えられない位、学校以外での雄二君の事を知ることが出来た。
それだけで私としては嬉しい話なのだけれど・・・
(そうはいっても雄二君と直接顔を合わせるなんて、数えるくらいだしな・・・)

お姉さんはお姉さんで、初めて会った日の「ヒマ!」発言は心底な本音のようで、週末になると
「かなちゃんさえ良ければ泊まっていってもいいのに~」
なんて、かなり本気の口調のお誘いに私が丁重に辞退するのが一連の流れになってしまった。


そんな楽しい時間が過ぎていく中、私は・・・
私の事をお姉さんが気をかけてくれる理由が、ちょっとしたお節介からだけじゃなくて・・・
別の理由もあった事を、それからそう日が経たない頃に教えてもらえるのだった。


ある休日に隣町のショッピングモールで冬のバーゲンがあるからと誘ってもらい、お姉さんの運転で連れていってもらった。
人込みに揉まれながら、服を見たりゲームセンターに行ってみたり・・・
散々遊び尽くしたあと、モールの中にあるカフェでその独白は始まった。

―かなちゃん、少し・・・真面目なお話があるの―

お姉さんのこれまでに見たことの無い真剣な表情に、香奈穂は何時になく緊張した。
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第十九節

2010-05-19 18:03:27 | Dear to me
台所からトレイを持った雄二君が戻ってきた。
「何してるんだよ、姉さんほら、ココア」
お姉さんの前にココアを置いた雄二君は、トレイを持ってまた奥の方に行ってしまった。

「ユウったら一丁前に照れてんのかねぇ」
雄二君が行った方を見ながら、お姉さんはニヤニヤッと笑っていた。
または私は「?」な顔になった。
「あの子、今は感情を表に出すのが少し下手になってるけど、だからって何も感じてない訳じゃ無いからねぇ。女の子と二人っきりの所を私に見られて焦ってるんじゃない?」
それはまるっきり私にもあてはまるので、改めて気恥ずかしくなる。
お姉さんの顔が見れない。
「でもね」その声に顔を上げるとさっきとは違う微笑んだ顔があった。
「ユウね、かなちゃんが来ること結構喜んでると思うわよ。あの子会いたくない相手だったら、たぶん部屋から出てこようとしないもの」
(へぇ~・・・・・・えぇー!)
香奈穂は動揺を隠しきれない。
(いやいや、落ち着け私。別にアレとかそういう話じゃなくて、そうよそういう話じゃない。そうじゃないけど・・・)
「だからどんどん家に来てちょうだいねぇ~。私も楽しいし・・・って、かなちゃんどしたの?顔すごい真っ赤にしちゃって」
お姉さん、天然ですか?天然ですよね!だめだ、恥ずかし過ぎる。

このあと、お姉さんと話したことがほとんど頭に入らないまま、気付けば日も暮れて私は雄二君の家をあとにした。
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第十八節

2010-05-04 03:31:11 | Dear to me
頭の中で、必死に上手い理由を考える。
「私のお母さん、パティシエなんですよ!私もたまに家で作ってて、まだこんな簡単なものしか作れてないですけど・・・」
取って付けた様な理由だけれど、別に嘘を付いていない。
お母さんの働いてるお店はここよりもう少し市内の方にあって、地元のフリーペーパーとかにも紹介されるくらい評判の良いお店だ。
仕事中のお母さんは、お菓子作りが好きなんだなぁって感じるくらい輝いてて、その姿は見ててすごいカッコいい。

私にもその遺伝子が息づいているようで、自分でお菓子を作り始めてからどんどん興味が尽きない。
お母さんの時間がある時は色々と教えてもらっているけど、今の腕前だとまだまだ自慢にはならないかも。

「あぁ~あのお店ね。残念なことに私はまだ行った事無いけど、名前くらいは知ってるよ。なるほどねぇ、これは有名になるわけだわ」
お姉さんの言葉の流れに、私は「?」な顔になって、その理由をお姉さんに尋ねた。
「このクッキーの味と、かなちゃんがお母さんの事を話す顔を見てれば分かるよ・・・って、我ながらくさいセリフだねぇ」
お姉さんはまたひょいとクッキーを頬張る。
私も何だかそうかなと思いながら、褒められた嬉しさで聞き入ってしまった。
「ちょ、ちょっとかなちゃん黙らないでよ。なんか私、ものすごい一人で恥ずかしいじゃないの」
お姉さんは照れ隠しのように、私の肩をパシパシ叩いた。
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