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雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

第十二節

2010-05-01 10:15:49 | Dear to me
私をナンパしてきた女の人は、自分の事を雄二君の従姉さんなのだと名乗った。
今、家に一人しかいない雄二君のために時々様子を見に来ているのだそうだ。

「ホントは私の実家の方に呼んでも良かったけど、この時期の転校は色々と大変だしねー。それに、今はあの子の周りの環境を変えない方がいいんじゃいかと思ってね。私の方は、住んでるマンションが近いし。」

それでか・・・と、香奈穂は部屋の中を見ると雄二が一人でやっているとは思えないほどに片付けられていた。
色々と喋る内、最初の頃の緊張感は無くなり、ちょっとした疑問が浮かんだ。

(お姉さんって何をしてる人なんだろ?度々来てあげてるみたいだけど、今日は平日だし時間もまだ早いし・・・)

「どっかした?」
その声で「はっ」と我に返ると、すぐ目の前でお姉さんが私の顔を覗き込んでいた。
思わぬ不意打ちにビックリして、ヒャッ!とひっくり返ってしまった。
「そんなに驚かなくてもぉ~」とむくれるお姉さんはまるで同い年に見えて、そのギャップに笑いを堪えることが出来無くなった。
笑う私を見ながら、不思議そうな顔をして一緒に笑い出したお姉さんを見て、私はますますお姉さんの事が好きになった。
こんなに力強いお姉さんが居るならば雄二君の元気もきっとすぐに戻ってくるに違いない。

第十一節

2010-05-01 04:02:11 | Dear to me
「はいはい、どちら様~?」
玄関口を勢いよく開けて出て来たのは、見たことの無い若い女の人だった。
・・・・・・誰?
さっきの表札を見る限り雄二君にお姉さんはいないみたいだし、お母さんにしてはあまりにも若すぎる。
どうみたって二十代だ。
委員長もまったく知らない人の登場に、二の句を継げないようでいる。
鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をしている私達を、しげしげと見ていた女の人の目線は委員長の胸の辺りで止まった。
何を見てるのかと女の人の目線を追うと、その目的が解った。
私達が着ている学校指定のカッターシャツ、その胸ポケットには校章の刺繍がワンポイントで入っている。
それを確認して納得した女の人は、そのまま顔を委員長の目線まで上げて、雄二の通ってる学校の子?と聞いて来た。
委員長は半ばパニックになりながら用件を伝えて、預かってきたノートを女の人に手渡した。

受け取ってお礼を言った女の人は、もう一度私達を見ながら

「君たち、おヒマ?お茶してかない?」

おどけた調子で、まるでナンパされているみたいだ。
委員長は塾があるからと言って断り、そちらの君は?と聞かれた私は少し考えてから心の内がばれてしまわないよう、控えめに返事をした。

第十節

2010-04-30 06:27:24 | Dear to me
帰る準備が終わった私は、委員長と一緒に雄二君の家に向かった。
私と・・・多分委員長も、雄二君の家に行ったことが無い。
だけど二人とも住んでいる地区が近いから、行き方を聞けば大体の道は分かった。
それに先生の話によると、雄二君の家は目立っていて見つけやすいらしい。


私達は雄二君の家に行く道すがら、沈黙を紛らわせるためいろいろと話しをした。
日頃話したことがなかったので、初めはもうすぐあるテストの話題だけだったけど、段々とお互いの趣味や最近あったことで盛り上がった。
意外にも同じ小説にはまっている事が分かった。今まで周りにこの話題で喋れる人がいなかったから、これは思わぬ収穫だ。

先生から教えられていた目印を曲がると、一軒の家が目についた。
周りの今風な家の中に建つその家は、私の目にはとても浮いて見えた。
古そうな一階建ての慎ましやかお家で、『目立つ』と言っていた言葉から、恐らくここがそうなのだろう。
家の前まで行くと雄二君の名前が入った表札が取り付けてある。
インターホン押してみると奥から反応があった。
近づいて来る足音が聞こえ、玄関のドアが開く。

中から出て来たのは、見た事のない若い女の人だった。

第九節

2010-04-29 05:24:02 | Dear to me
それから一ヶ月、時間はあっという間に過ぎた。
雄二と香奈穂の距離は変わった様子もなく、雄二の心に光りが戻って来ることはなかった。
・・・ただ、雄二はあの日倒れてから、段々と学校を休みがちになってしまった。


あと幾らとしないうちに、期末試験がやって来る。この時期のテストの成績は進路を左右する位に大事なものだ。
最近、雄二君は調子が良くないようでここ数日も欠席している。
そうでなくても、今の状態だと勉強自体に身が入らないと思う。
ただ雄二君の事も心配だけれど、私も人の事ばかり考えていられるほど余裕があるわけじゃない。
テスト準備期間中、部活はお休みだ。
私を含めて何人かが、放課後に教室で残って自習をしていた。
今回は国語と理科が難関で、覚えなきゃいけない所が沢山ある。

二時間位経ってきりも良かったので、今日は帰ることにした。
筆記用具を片付けていると後ろから声をかけられた。
その相手はクラス委員長だった。
普段あまり話さないので、なんだろうと思って話を聞くと、

「雄二君の家まで、一緒に授業のノートを届けに行ってほしいの。」

突然の申し出だった。
彼女は先生から、委員長として雄二君に授業のノートを届けるように頼まれたが、一人で行くのは不安なようだ。
先生にしても、わざわざ女子に頼まなくてもいいのに・・・
内気な彼女にすれば男子に頼むよりも、私に頼む方が楽だったのだろう。
私も断る理由はないので、彼女に付いていくことにした。

第八節

2010-04-27 11:47:59 | Dear to me
また少しの時間が過ぎて、自分の状況に香奈穂が気付き始めた頃、静かに雄二の目が開いた。
まだ完全に覚めきっていないのか、声をあげるでもなく、周りをゆっくりと見ている。
それから自分と手を繋いでいる香奈穂を見た。香奈穂の頭は混乱してうまく働かず、言葉にならない声しか出ない。
何か言わなきゃ、と焦る香奈穂にかけられた言葉は予想もしないものだった。

「温かい・・・」

思いがけない言葉だった。
けれどその反面、感情のこもった言葉がとても嬉しかった。
その嬉しさを言葉にして雄二に返したかったが、ノックの音に驚いてしまい果たす事が出来なかった。
扉を開けて現れたのは、用事から帰って来た先生だった。香奈穂はその姿に慌てて手を引っ込めた。
雄二は動じた様子もなく、ベットから降りて部屋を出ていこうとした。
けれど室内にいるため、自分が履物を穿いて無いことに気付くと香奈穂に向かって、
靴はどこ?
と先程とはうってかわって抑揚のない声で聞いて来た。
香奈穂がしどろもどろになりながら答えると、雄二は言葉なく歩き出した。
扉の前の先生に呼び止められ、体調について受け答えしたあと部屋を出ていくまでの間、香奈穂は身動き一つ出来なかった。
先生は雄二を見送るとさっきと同じく机に戻り仕事を始めた。
香奈穂は恐る恐る先生に聞いた。
「・・・あの・・・先生、何時から見てました?」
先生は少し考える素振りを見せると一言、
「・・・香奈穂さん、熱があるか計っていく?」
とだけ言った。
香奈穂は最初意味が分からなかったが、次第に雄二君から言われた言葉を揶揄しているのだと分かると、本当に熱が出そうな位に顔が赤くなった。