雑記-白堂別館-

雑記なう
無職止めました。
出来ることからやってみよう

第二十六節

2010-07-04 13:34:25 | Dear to me
目的地のスーパーが見えてきた。
テレビのCMや広告のチラシなんかでよく名前を聞く、結構大きなチェーン店だ。
この辺りはあまり来ることが無かったから今まで知らなかったけど、入口から見えるだけでもお店の中はだいぶ広そうだ。

お店を見上げながら「おぉー」と声をもらす私をよそに、雄二君はお店の入口まで進んでいる。
慣れた手つきでカートにカゴを積んでいるのを見た私は、置いて行かれないように少し駆け足で雄二君の所に向かう。
(もしかして・・・怒ってる?)
ゆっくり雄二君の顔を覗くと、怒っているどころか押し殺したような小さな声でクスクスッと笑っていたのだ。

「いや、ゴメン。まるで遊園地に来た子供みたいな顔してたから」
「ひどっ!同い年じゃん!?」
私は雄二君の中に間違えようもない程に、お姉さんと同じ遺伝子を見た。
と言うよりは、これが雄二君の素なのだ。半年前では当たり前だったはずの・・・
ダメだ、ダメだ。
私がそんな暗い気持ちになって、どうするの!
せっかく雄二君と一緒に買い物に来られたのだから、今はこの時間を素直に楽しまないと!
今度は隠さず笑い声をあげる雄二の隣で、香奈穂は同じ様に笑顔を見せた。

第二十五節

2010-06-24 00:25:38 | Dear to me
「ケーキってどれくらいの大きさでを作るの?」
「私と雄二君とお姉さんの三人だからこれくらいの型で作るつもりだよ」
香奈穂は両手で輪を作って雄二に見せた。
「その大きさか・・・もう少し大きいサイズって大丈夫?」
「う~ん、型があれば出来るよ。これじゃ小さかった?」
「んっ?あ・・・いや、俺じゃないよ」
雄二君は片手を横に振りつつ否定してる。
それじゃお姉さんかな?ってお姉さんどれだけ食べるんだ。
そんな失礼な想像は置いといて、いや実際食べそうだけど・・・
増える分は、持って行きたい人がいるからとのこと。
雄二君が言うには朝のお姉さんの急用とはある人のお迎えで、その人はお姉さんの昔からの知り合いらしく
「いわゆる幼なじみみたいな?」
「二人は腐れ縁だって言ってるけどね」
雄二君は何かを思い出していたのか、少し笑っていた。

その人には雄二君もよくお世話になってるから、出来たらケーキだけでも食べてもらおうっていう・・・・・・
「その人、仕事柄海外に出てることが多くて滅多にこっちに帰ってこないんだ」
二人にとってそんなに大事な人なら私も協力せずにはいられないけど・・・
「だけど、私のケーキなんかで大丈夫?」
「おいしいのを作ってくれるんでしょ?全然問題ないよ」
今日二度目の裏返りな返事が辺りに響いた。

第二十四節

2010-06-18 01:41:34 | Dear to me
雄二の家を出ていくらもしない所で、香奈穂は財布も一緒にかばんの中に入れたままなのを思い出した。

「あっ、ちょっと待って。忘れ物して来ちゃった」
「買う物のリストとか?」
「買う物は頭に入ってるから平気なんだけど、お財布が・・・」
「だったら大丈夫だよ。姉さんが朝に一旦こっちへ戻って来た時に、食材買うのに十分足りるくらいは預かってるから」

それでも全部出してもらうのは悪いと思って、雄二君の家に引き返そうとする私に「それなら」と雄二君の声が引き止めた。
「?」振り返って聞き返した私に
「おいしいケーキを頼むよ。俺も姉さんも期待してるし」
良い笑顔を見せた。

(なんて良い笑顔で、すごいフリだ)

「まっ、任せといて!」
一瞬の間があってから、香奈穂は若干声が裏返りつつもしっかりと雄二に返した。
雄二君の笑顔は今まで何回も見てきたつもりだったけど、今この笑顔を見るとお姉さんとの血の繋がりをひしひしと感じるな。

第二十三節

2010-06-10 12:58:58 | Dear to me
パーティーの当日。
香奈穂はお姉さんと食材の買い出しの為に、朝から雄二の家に来ていた。
しかし、家の中にお姉さんの姿が無い・・・のは既に分かってる。

今朝、自宅を出る頃に私と雄二君宛てでお姉さんから
「急用発生!なので帰りが遅れるゴメン。買い出しは二人で行ってきて」
慌ただしい内容のメールが届いてたのだ。

代わりに出迎えてくれた雄二君は、私を気遣って
「自分の方は大体揃ってるからメモしてくれたら一人で行ってくるよ」
優しい提案を出してくれてる。
だけど、自分で見て選びたいとちょっと強引な理由で私も一緒に行きたいと押し通した。
雄二君は少し歩くよ?との念押しに私が引かないのを見て、それ以上何も言わない代わりに
「上着を取り行ってくるから、ついでに荷物も置いて来るよ」
手を差し出してくれた。
私はお礼を言いつつバックを預けると、雄二君は座って待っててと言い残して奥に入って行った。

玄関の上がり口に腰掛けると、普段はすぐ通り過ぎるだけのこの場所にも気になる物が置いてあった。
模様は和風のそんなに珍しくない感じ花瓶で、全体的にクモの巣のような線が入っている。
気になって近付いてみればそれは線などではなく
(わっ!これ全部割れた跡なんだ)
それもただ割れているだけじゃなく、一つ一つの欠片に隙間がある。
まさか浮いてるとは思わないけど注意深く見てみれば、一回り小さな透明の花瓶に欠片が貼付けてあるのが見えた。
(ステンドグラスみたい・・・だけど既製品じゃないよね?もしかしてこの家の人の手作りなのかな~)
しげしげと見ているうちに足音が聞こえてきたので、音のする方を見るとジーパンにジャケットを羽織った雄二君がお待たせと言いながら現れた。
後で、機会があったら聞いてみよう。

第二十二節

2010-05-25 13:17:26 | Dear to me
終業式まで残り二週間くらいといった頃。
お姉さんはいつも通り、唐突に一つの提案をしてきた。

「かなちゃん。ケーキって・・・おいしいよね!」
お姉さん、さすがに今回は意図が読めました。
「お姉さん。私、最近ショートケーキの作り方教わったばっかりなんですよ!」
あとはとんとん拍子で日取りも決まった。

ケーキは作って来るつもりだったけど、運ぶ手間を考えてここで作ることになった。

「それと・・・料理の方はユウに任せれば良いから・・・あっ、かなちゃん食べれない物とかあったら先に言ってね~」

(お姉さん事もなげに言ったけど、普段は雄二君が料理担当なの!?)

何となく事情は分かる気がするけど、気になったので聞いてみる。
「んっ?そうそう叔父さんが忙しかったからって、料理もそうだけど家事のほとんどをユウがやってたみたいよ。揚げ物とかホント、ビールが進・・・いや、うん」
最後は聞かなかった事にして・・・
今時そんなに珍しくないって聞くけど、雄二君の家事してる姿ってイメージできないな。
残りの細々とした所もとんとんと決まって、
その日は雄二君の家をあとにした。


それから、毎日のように自宅の台所でケーキの猛練習に励む香奈穂の姿と、その味見に付き合う委員長の姿が見ることになった。