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ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

Gretsch Viking

2006-11-13 03:39:26 | ギター
 一生ぶんのギターを持っている。Rickenbackerなんか四本もあるぞ凄いでしょう。人一倍、見栄っ張りな性格だから、そろそろ写真を並べて「僕のコレクションです」というのをやらかしたいのだが、幸か不幸かデジタルカメラを持っていない。いつか買ったら暴走することだろう。

 珍奇で不人気に終わったモデルが、「なんなんだろうね、これ」という調子で投げ売りされているのを見ると、つい有り金をはたいて提げて帰ってしまう癖があった。
 のちに相場が形成され、びっくりするような値段になっていたりする。典型的なのがGretschのVikingで、これは絃も張れないような状態で店の表に置かれていた。人気の高いWhite Falconの色違いである。ホワイトファルコンはその名の通り真っ白だが、ヴァイキングは渋いサンバースト。有名な愛用者はエルヴィス・プレスリー。というより他には見たことがない。
 エルヴィスのギターだ! と驚嘆した。僕と同じ1964年製だという。高い飾りに終わっても構わないという気持ちで買って帰った。年月をかけて弾ける状態に直した。

 昔から高級品であったわりに、グレッチというのは造りがいい加減な楽器で、あちこち接着は剥がれているわ、塗装は溶けかけているわ、見た目重視のヴィブラートは機能しないわで、苦労させられたよ。
 ボディの接着が剥がれ、異様な箇所に口の開いている楽器をいかにして直すか? これは簡単。東急ハンズなどにTitebondという強力な木工用ボンドが売られている。これを塗って、十分間くらい手で抑えつけるかテーピングしておけば、綺麗にくっついてしまう。タイトボンドは水溶性なので、さいあく失敗しても蒸気で剥がれてくれる。木工用ボンドでいいのか、と驚かれるかもしれないが、多くの楽器職人がこれで接着しているのだ。
 経年変化でべとべとになった塗装は、上からクリア塗装するか、変質していない層が顔を出すまで磨きあげるほかない。僕は後者を選んだ。でかいので苦労した。
 ヴィブラートは交換せざるを得なかった。パーツはすべて持っているからいつでも元に戻せるが、みずから崩壊し続けているような、あの状態を歓迎する人はいないだろう。

 ベニヤで出来たいい加減な箱に、ユニークな構造のピックアップ・マイク。これがグレッチの本質だ。サスティンのことなんか一切考慮されていない。音色を擬音にすれば「びよん」である。
 しかし一流のミュージシャンの感性は凄い。ザ・ビートルズの《ペイパーバック・ライター》のイントロは、この「びよん」をファズに通した音。ザ・フーの『フーズ・ネクスト』は「ずがずがごおお」というグレッチでなければ出しえない音に満ちている。
 最近その良さを再認識し、ライヴでも使いたいものだと思いはじめた。

 そうそう、古いグレッチやVoxのギターは、裏にベルトによる瑕を避けるための座布団みたいなパッドが付いている。僕のヴァイキングにも。
 肩から提げるたび、ぶはっと埃が立って仕方がないので、一度、浴槽につけて洗濯した。水が灰色になった。

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