ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

なんたるチア、サンタルチア

2008-03-10 06:49:04 | マルジナリア
 広川太一郎が亡くなっていた。二枚目の吹替えも上手かったが、僕にとってはまず『ムーミン』のスノーク、そして『モンティ・パイソンズ・フライング・サーカス』のエリック・アイドルを、まるで当人が乗り移っているかのように演じた人である。
 エリック・アイドルは、あの劇団というかバンドというか芸術家集団の、音楽面を支えてきた人物でもあり、寸劇や映画に挿入されるボードヴィル調の楽曲は、概ね彼の自作自演だ。素晴しく出来がよく、いずれ〈Mack The Knife〉よろしくスタンダード化するに違いないと、確信できる曲も少なくない。喋くりがそのまま曲に移行していく場面等、広川氏の慎重且つ音楽的な饒舌以外では、翻訳は不可能だったろう。
 トーベ・ヤンソンに不評だった『ムーミン』への反省から、女史自身の協力を得て原作への忠実を心掛けた『楽しいムーミン一家』に、複雑な思いを抱いた視聴者は多かろう。あのシリーズに欠点があるとすれば、なによりもまず広川スノークの不在である。原作からかけ離れているとはいえ、僕らにはあのスノークを賛美する権利がある。

 軽妙にして洒脱。幼少から現在に至るまで、僕が最もかっこいいと感じてきた大人の一人だ。寂しいながらも、氏の美声と口調を思い返すに、つい笑みが泛ぶ。
 誰しもがいつか必ず此の世を去る。ひょいと帽子をとって周りの心を軽くして、微笑まじりに思い返されるよう去りたいものだと、切に望む。ありがとう。御冥福を。

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