ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

現実的な選択

2008-02-17 09:52:31 | 他の機材
 さて本格的な機材レポート。全国五百万人(推定)のパンドラ五号ことPX5Dを買おうかどうしようかと迷い続けているギタリスト及びベーシスト諸姉兄、お待たせしました。
 せんのソケースロックで僕は、以下の二系統を使い分けた。
 ラヂコンズ:スタインバーガー似のAria ProII→KORG PX5D→Roland JC120(NORMALチャンネル)
 ラヂオデパート:Rickenbacker 360/12→Laney VC15(DRIVEチャンネル)

 アリア(アリスト)は書いてきたとおり改造しまくってあるものの、僕にとって満点のギターではない。しかしパンドラ五号を通せば、どんな楽器でもある程度の音になるようだ。かといってギターやピックアップの特長、個性が死ぬ訳でもない。コイルタップに対する反応等、むしろ敏感過ぎる程。
 プリセットのモジュレーションやエコーが華美な事からも(だから僕は随分カットしている)、底、中価格帯の楽器の、決して煌びやかではない鳴りを想定し、モデリング、プログラミングしてあるのだと想像する。頼もしい。
 アリストはボディが小さいせいか帯域の上下が寸詰まった印象で、アンプ直結だと「むむ」という瞬間もある(録ると、そうでもない)のだが、パンドラ経由だと気にならない。小さい物同士だし、二つ一組の楽器として捉える方法論は有用かもしれない。

 苦手なJCに繋いだのは、余計な色が付くと調子が狂うと判断したから。パンドラはアンプの上に置き、本体のボタンで音色を切り替えていた。このとき本体が振動すると、スプリングリヴァーブを蹴ったようなノイズを発する事があって、少々困った。床置きにする人は、どんなに足の指が器用でもフットスウィッチを使ったほうがいい。
「うお、どんなアンプ使ってんですか」とギター好きの若者が飛びついてきて――不思議のない程度の音を作れた。と思うのは俺だけか? でも太朗や奥野も誉めてくれたし。実体がデジタル小匣とボリュームを絞ったJCであるにも拘わらず、心地よいフィードバック感があったし、且つ不自然なタイムラグも無い。
 大きな問題が生じるとすれば、「すみません偽物なんです」と感じているギタリストの内面に於いてだろう。本物は本物で使ってきたけれど運ぶのが面倒、という僕のようなギター弾きにこそ向いている機材かもしれない。

 話は逸れるが、どうも日本のギター弾きは非現実的と申しますか――。
 欧米のギター弾きによる製品レポートなど読むに、たいへん実利的で、例えば安い練習用アンプをして「教会で演奏しているので、この二台をステレオで使っています。コンパクトカーのトランクに入って便利」、或いは「アンプを買ったんだがとても家では鳴らせない音量だったので、D.I.Y.でこんな工夫をして――」といった調子のものが多い。
 翻って日本の記述はしばしば、「これまでの50Wのヘッドでは非力なので、100Wに買い換えました」といった風で、一体どんな爆音でライヴをやっているのか、ギターか耳が壊れているんじゃないかと心配になる。本物志向を誤解しているというか、楽器店のセールストークが見事というか。
 屋根裏は決して小さくはないライヴハウスだが、僕の場合15wのアンプでも音がでかいと云われる。その昔、クラブチッタなんかで演奏していた頃だって、30wのコンボ一つで充分だった。ソケースロックのような小さなハコだと、JCで云えばボリューム2とか3が限度。練習スタジオも然り。ヘッドルームに余裕があるにも程があるので、どうかもっと小さなアンプを置いてくださいと常々祈っているのだが。

 パンドラ五号に話を戻す。これで作る激しい歪みには未だ正解が見えず、今回は使わなかった。繰り返すが音色が悪いのではない。あくまでボリューム操作の問題。
 使ったのはロカビリィ系のクランチ(+スラップエコー)を中心に、アコースティックのシミュレイション、アンディ・サマーズかパット・メセニィみたいな音色。僕はギター側でもちまちま音色を変えるので、この三つの切替えがお客にとって劇的だったかどうかは、正直なところ疑問。メセニィ風にクリーンでソロを弾きまくるというのは僕にとって珍しい経験で、面白かったけれど。
 逆にスローボウと呼ばれる、ピッキングのアタックを消した音(ヴァイオリン奏法のシミュレイト)が予想外に効果的で、お客が「あれ?」という顔でこちらを見る。通常使用はロカビリィ音に絞って、他はスローボウのような飛び道具に振り分けた方が楽しかったかもしれない。

 個人的結論。PX5Dを僕は今後とも使う。最悪でもJCがあればライヴを凌げるのだから、保険のつもりで持ち歩く。チューニングメーターも入ってるしね。

 ついでにもう一系統についてざざざざざっと。
 ラヂデパが久々にリッケンバッカー(サライ)だったのは、渾身の新曲〈きっと食べてね〉のソロが十二絃の特性全開で、六絃だと再現しにくいから。他に長尺ソロのないセットだし、なんとか凌げるだろうと。
 リハーサル時はブースターを介してプロソニックに繋いでいた。音作りの魔術師をこっそりと自認する僕だが、これは我ながら今ひとつの音色で、前回気づいた整流部の切替え機能を駆使しても、やはり駄目。駄目音のままリハーサルを凌いだのち、片隅にレイニィが在るのを見つけ、本番では急遽そちらに直結。
 おお、張りのある音。しかし照明との兼合いでだいぶノイズが出る(そう云えば緑牛のマイクをタップした時も出ていた。天井が低いからだろう)。さいわいサライはフェイズや直並列を変えられるよう改造してある。ノイズの少ないフェイズアウト/直列のポジションのみ使用。シングルコイルのギターに、こういう地味な改造は意外と役立つのでお薦めです。
 アンプ側はゲインを上げてマスターボリュームを絞るだけの、普通の歪みセッティング――なのに余り歪まない。サライの出力事情もあろうけれど、これほど歪まないアンプも昨今珍しい。使った事はないがHIWATTも歪みにくいらしいね。近い設計なのかもしれない。十二絃らしい音には違いないからそれで良しとした。あ、十二絃を歪ませて使う方が珍しいのか。
 サスティン稼ぎに、僕には珍しく僅かながらリヴァーブを掛けていた。VC15のこれは使い易い。わざとらしさが無く、さり気なく距離感が加わっていく。
 ギターがリペアから帰ってきたままで自力で絃を張っていなかった為、途中チューニングの狂いに苦労する。リッケンバッカーの十二絃は、ヘッドがスロットになっている側の張り方に、ちょっとしたコツがあるのだ。ちゃんと自分で張り直しておけばよかった。屋根裏までには替えておきます。