陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その166・キックベース

2010-06-29 09:05:38 | 日記
 冬も深まる。グラウンドが雪に閉ざされる前に、最後の体育が行われた。体育授業の責任者(独裁者)であるオレは、「第1回まやまカチョー杯争奪キックベース選手権大会」と銘打ち、この時間を盛りあげることに余念がなかった。大会自体はすでに数回行われているのだが、毎回「○○杯」の部分だけをすげ替えて開催している。オレが書いた台本で、名前をかかげられた本人(えらいひと)におバカな開会宣言をさせるのが恒例となっていた。もちろんMVP杯も粘土で自作して持ちこみ、万全を期しての開幕だ。
 「まやまカチョー」は、例の昼休みのキャッチボールにいつも参加してくれていたおもろいおっちゃんだ。ほがらかで、働き者で、気前がいい。よく自腹でスイカやアイス、ナシなどを差し入れてくれるので、みんなこのひとのことが大好きだった。オレも大好きだったが、カチョー杯を開催していいか?と伺いをたてにいくと、「よっしゃ」といって勝利チーム賞に缶ビール一箱をどかんとカンパしてくれたため、もっと好きになった。
 この大会は熱かった。好天に恵まれたこともあって、みんな思う存分に汗をかいた。もう生涯で、芝生の上をこんなにも全力で駆け回ることはないかもしれない。そう思うと、ほんわかとした雰囲気の中にも真剣にプレーするクラスメイトたちの横顔に、かるく切ないものがよぎった。
 ツカチンとオレは偶然同じチームに入った。この男はスポーツが万能で、なにをやらせても小憎らしいほど達者にこなす。だけどこのオレも、学生時代はラグビー部のフォワード、草野球チームではキャッチャーをまかされていたのだ。ヤツには負けない自信がある。今日という今日は女子の前で、どっちがかっこいいか白黒をつけねばなるまい。オレは意気込んで試合にのぞんだ。
 キックベースは、ピッチャーがドッヂボールをホームベースに向かってころがし、バッターがそれを蹴り飛ばしてベースを回る、サッカーと野球がごっちゃになったような遊びだ。いうまでもなく、キック力が勝負を分ける。ラグビーでキックも経験していたオレは、初回からぽこぽことボールを左右に打ち分け、細かい安打を重ねることにした。というのも、相手チームには、昼休み野球部キャプテンで元高校球児でもある「αっち」がいて、外野から冷静な目で戦局をながめていたのだ。策略家のαっちは、周囲にいちいち守備位置を細かく指示する。だったらその裏をかいてやればいいのだ。敵も昼休み野球部の沽券にかけて本気を出してきている。それを逆手にとったオレの打ち分けは、見事な頭脳プレーだった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園