陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その162・自分次第

2010-06-24 10:39:21 | 日記
 学校のろくろ授業は、茶陶の「生産」から発展し、完全な自由制作へと移っていった。ここからは各自で課題を決め、卒業後の生活にリアルに必要となる特定の技能をそれぞれに伸ばしていくのだ。目指す道によって、今しなければならない課題はひとりひとりちがってくる。自分が欲しいのは、正確なろくろ技術なのか、フリーな創造性なのか、磁器の挽き方なのか、土くれの造形方なのか、釉調なのか、焼きなのか、装飾なのか、絵付けなのか・・・そういうチョイスの幅が許されはじめた。
 自分次第というのは結構なプレッシャーだ。責任が突きつけられるのだから。「生活力の確保」という職業訓練校における主題は、まさにこの時期につちかわれるべきものだ。数ヶ月後の自身の姿を思い描きながら、のこされた時間を最大限に活用しなければならない。
 一方、自分次第=気楽という解釈もできる。就職活動によって(←オレには無縁だった)、すでに大半のクラスメイトの進路は確定している。中には「OL」や「営業」という道を選び、作陶技術も土の感触もまったく関係なくなった者もいるのだ。その人物たちに、必死で腕前を磨く職人見習いたちと等質の向上心を求めるのは酷だろう。そんな事情もあり、基本カリキュラムともいうべきものを終えたクラス内には、明日に向けたプロ意識と、安堵感と名を借りたたるみとが相半ばしはじめた。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園