Nasebanaru

アメリカで趣味と生活を綴る

旅の途中で 2

2006-12-06 03:48:48 | 旅行
昨日の文を読み返して見て、高速道路を自転車で走ってはいけないことが分かっていてどうして敢えて使っていたかの説明がなかったことに気づいた。答えは簡単、それが一番の近道だったからだ。町と町をつなぐ高速道路は最短距離で結ばれている。ほかにもローカルの道があったが、それでは時間がかかると思い、警察に注意されるのを覚悟で高速道路を使っていたのだった。

昨日の続き。

泣く泣く自転車を放棄して徒歩で高速の出口を出てみると、運良く、歩いていける距離にホテルがあったので、そこに一泊してこれからのことを考えることにした。

まず第一に自転車をもう一度購入しなければならない。東海岸まで来たとはいえ、まだ目的地のニューヨークには千マイル以上あった。じゃあ予算はいくらほどあるだろう?ここではじめて手持ちのお金がどれくらいで、今までどれくらい使ったのか明らかになった。(今も相変わらずどんぶり勘定でやっている)まあ大体想像していた範囲内の残高だったが、もともと手持ちが多くなく、(詳しく言うと、3千ドルで半年の旅を続けるつもりだった。手持ちが底をつきかけると、電車での旅に切り替えてロスの空港まで帰るつもりで周遊券を買ってきていた。)どうにか新しい自転車のために使えるのは300ドル(3万円前後)位だと見当をつけた。

次の日、ホテルのオーナーにタクシーを呼んでもらい、運転手にここから一番近くの自転車屋に連れて行ってくれと頼んだ。意外と近くに自転車屋があることがわかり、そこへ連れて行ってもらった。

そこでは白人の主人と、黒人の従業員が働いていた。

「白人と黒人は仲が悪いって聞いていたのに、変った店だな」

これが私の最初のこの店に対する印象だった。

「朝っぱらからなんか気味の悪いのが来たな」

これが彼らの私に対する最初の印象だった。(余談だが、10年後、この黒人の従業員とはこの店で再会を果たした。主人とは会えなかったが、電話番号を得て、10年前のお礼を言葉で伝えることができた。このときにさっきの第一印象の話をしてくれたのだ。)そうしてまず、300ドルで買える自転車はどれか聞いてみたが、私の旅に適していそうな自転車はどれも300ドルでは買えなかった。私は出来ない英語で必死に説明した。

「ロスから来たんだ。」
「ニューヨークまで行きたいんだ」
「手持ちが少ないんだ」

私の英語はさっぱり通じなかったが、ご主人が親切な人だったのと、私の熱意だけは伝わったのだろうか、彼の日本人の友達に電話をして、通訳を頼んでくれた。そのときは伝言を残しただけだったが、すぐに折り返し電話があった。懐かしい日本語が電話から伝わってくる。言葉が話せるっていいものだ。私はその通訳を買って出てくれた人にこれまでのいきさつを説明した。通訳の日本人の話を聞き終わったご主人は、

「壊れたのが後輪だけなのならこれからその自転車を回収しに行こう。そして後輪だけを取り替えればいい。そうすれば安く済む。」

そう言って彼の車を出してくれたのだ。私は突然の提案に戸惑いながらも、それしか道がないと思い、どこに自転車を放棄したのかこれまた必死になって説明した。あっちに行ったりこっちに行ったりしたが、ご主人は文句のひとつも言わず付き合ってくれて、ついに私の愛車を発見した。

持って帰った自転車を修理用の台に取り付け、

「後は自分でやりな、道具は使っていい」

部品と工具さえあれば修理するのは簡単だ。だがここでひとつ問題が出てきた。日本から自転車を持ってきたことは以前書いたと思うが、規格が日本とアメリカでは違うのだろう、まったく同じ大きさのリムを見つけることが出来なかった。仕方がないので一番近い大きさの物を選び、無理やりつけてみたが、後輪の変速ギヤが1段目と5段目が手元のレバーで操作できない。タイヤの大きさが違うのだから無理もない。それでも走ることは出来るようになったのだ。日本から持ってきて、一度は捨てられた愛車が、今度はアメリカ製のタイヤを取り付けて蘇ってきた。まさにこの旅を象徴しているような自転車になったことに私は満足した。

出発前にはシャワーまで使わせてもらい、何から何までこのご主人にはお世話になった。規格の違うタイヤのためにチューブと、それにあう空気入れを求め、丁重に御礼を伝えたあと、私はまた元気に出発した。

人間毎日いろいろ経験する。そうしてたいしたことでないことは忘れてゆく。だが人に良くしてもらったことは忘れられない、と誰かが言ったが、これは本当だ。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 旅の途中で | トップ | 旅の途中で Ver2 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

旅行」カテゴリの最新記事