だが、僕は以前からあのシリーズに違和感を持っていた。北海道犬であるカイくんは、そんなに人なつっこい性格ではないはずだ。誰にでも愛想良く尻尾を振る、というタイプには思えない。あの表情は見ようによっては笑顔に見えるが、実際のところコマーシャル撮影や日々の仕事（キャンペーンなどであちこちに駆り出されることも多いだろう）で相当ストレスが溜まっているのではないか。そんな風に思っていたのだ。
しかし、この『カイくんのココロ』を読んで納得した。動物プロダクションの代表であり、カイくんの父親的な存在である坂本さんは、常に動物の体調や精神状態を第一に考え、行動していたのだ。
そして、撮影のために新たに動物を取り寄せたときには、その子が生涯生きていけるだけの最低限の費用をギャラとして請求する。＜中略＞ 一度きりしか撮影に使われなかった動物でも、トレーナーや飼育係によって、責任と愛情を持って育てられているのだ。 ＜P.158より＞
だからこそ、カイくんは健康ときれいな毛並みを保ち、長きにわたって人気者であり続けてきたのだろう。ただし、この坂本さん、優しいだけの人物ではない。動物をチヤホヤと甘やかすわけではなく、時には厳しく「演技指導」を施し、叱るのだ。カイくんがベッドで横たわるシーンを撮った際のバトル（？）の模様は、実に読み応えがある。その場に居合わせていたら、すさまじい緊張感で言葉を発することができなかったろう。
その坂本さんが唐突に亡くなってからのカイの変化も興味深い。明らかに、人なつっこくなったそうなのだ。まあ、「単に年を取って丸くなっただけ」とか「それなりの処世術を身に付けたんじゃない？」とも言えなくないが、そんな考えは無粋の極み（だよね？）。ここはやはり、書かれている通り「坂本さんがいなくても懸命に生きていこうとする、彼なりの精一杯の努力」と受け取るべきだろう。
それにしても、本当に惜しい人を亡くしたものだ。改めて、坂本さんのご冥福を祈ります。そして、彼の遺志を受け継いで、すべての動物タレントが大切にされることを願います。
というわけで、教えられることがとても多い本でした。写真も多いので、犬が好きな人は大いにに楽しめるのではないでしょうか。お花畑での笑顔、最高です。
※誤植がいくつかあるのは残念。「芝犬」「摂種」、それに仙台市の若林区が「若松区」になってる箇所があったり。増刷の際には修正してほしいもんです。
※今回、こちら↓の懸賞に当選して本を頂戴し、感想を書かせていただきました。ありがとうございます。
http://pettrendcatcher.a-thera.jp/article/2996677.html
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