ものすごく身につまされる映画。香川照之が見舞われた状況は他人事じゃない。終盤で道に倒れた彼が叫ぶ言葉は、そのまま今の僕の気持ちでもある。
とはいえ、映画自体が上出来かと言えば、そうでもない。何とも中途半端な印象を受けるのだ。
よくある言葉を使えば、「リアリティに欠ける」ってことである。だが、この映画はそもそもリアリズムを追求していない。舞台は現代の日本であるが、それはどこか現実離れしており、近未来SFに出てくる街のようにも見えるのだ。いや、もしかしたら実際に近い将来、この映画で描かれたことは現実になっているかもしれない。日本の若者がアメリカの軍隊に入れるようになったり、どう見ても真面目そうな小学生でも警察に逆らえば容赦なく留置所に閉じ込められる、なんてことが当たり前になったりする可能性は決してゼロとは言えないだろう。なんせ、知的障害を持つ青年を警官たちが袋叩きにして死なせた、という事件だって現実に起きているわけだから(ただし、警察側は否認)。すんません、話が横道に逸れちゃいました。
まあ、起こる出来事がリアリティに欠けるのはともかく、随所でセリフが生硬に感じられることは明らかに難点だ。たとえば、ソファに横たわった小泉今日子が口にする「誰か私を引っ張り上げて」とか、津田寛治がハローワークの階段で香川照之に言う「俺たちって、ゆっくり沈んでいく船みたいだな」という言葉である。どちらも役者の巧さによって印象的なセリフとなっているものの、語られていることは「そのまんま」すぎる。もうちょっと練らないと。というか、あの小泉今日子のシーンに関しては、いっそのことセリフがない方が良かったんじゃないかな。あと、次男の才能を見出した井川遙がやたら「天才」と連発する辺りは、どう考えても言葉の使い方が安直すぎる。
クレジットを見たら、脚本家は3人。そのせいかどうか分からないが、物語の組み立てが「寄せ集め」のように感じられる。役所広司が登場するくだりは取って付けたようだし、その辺りで時間軸をいじっているのも決して良策とは言えず、むしろ苦し紛れのように思えるのだ。
家庭の崩壊という小さな現実を描きつつ、国際社会に於ける日本の立ち位置にまで言及しようとした野心は高く評価したいが、いささか散漫な出来になってしまっている、というのが率直な感想である。
って、今回は妙に偉そうなことを書いてますね。失礼しました。
それはそうと、「なんちゃってビジネスマン」こと津田寛治には笑った。これは見事なハマリ役。彼をメインにしたスピンオフが観たい!
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