下見に行った時の印象は良かった。建物自体が新しく、清潔な印象を受ける。ロビーも広々としているし、リハビリ施設もある。陽当たりも良さそうだ。前の病院も悪くなかったが、ちょっと設備が古かった。ここに移れば、けっこう楽しく過ごせるんじゃないか。僕も母も、そう思った。だが、それは大間違いだった。
最初に驚いたのは、看護師が父を部屋に入れたあと、紙オムツが20枚ぐらい入った袋を次々と開けて、その紙オムツを棚の中へしまい込んだ時である。そりゃあ、どっちみち使うことにはなるだろう。でも、開封しなくてもいいじゃん。衛生面から考えても密封されたまま入れておいた方がいいだろうし、開けるなら一袋で充分なはずだ。
食事の時にも驚いた。母が付き添っていない時に看護師が食べさせてくれるのを見たのだが、口の中に無理矢理入れる、という感じなのだ。ある程度強引に食べさせなきゃならないのは理解できるが、それまでの病院での看護師さんなら「食べなきゃ直らんよ」とか言いながら笑顔で食べさせていた。しかし、新しい病院の看護師は、閉じた口にスプーンを押し当てて、それを押してねじ込ませようとする。口調も荒々しい。結局この時の父は何も口にせず、それ以降は毎回必ず身内が食事に付き添うようにした。
それに、この病院食が不味かった。母は「あんなの食えたもんじゃない」と言った。僕も少しだけ食べてみて、それを痛感した。もちろん、病人用だから味付けが簡素であるのは当然だが、前の病院のものとは全然違った味気なさだった。しかも、出される段階で冷えていた。
この病院で父が過ごしたのは、ほんの一週間程度だった。もっとマシな病院に移っていれば、もう少し長生きできたかもしれない。だが、今さらそれを言っても仕方ないだろう。
忘れられないのは、死因などについて説明する医師の狼狽ぶりである。レントゲン写真が見つからずオタオタしながら探す姿を見て、こっちが「落ち着いてください」と言いたくなったほどだ。看護師たちも妙に浮き足立っているというかオロオロしているというか、やたら「人の死」に慣れていない感じだった。アンタら、ずっと病院で働いてきたんじゃないのか? そこに現れた葬儀会社の担当者の仕事ぶりがやたらテキパキしていたのが、ものすごく頼もしく思えたものだ。
当然だが、父がいなくなった部屋を片付けた時は慌ただしかった。アレもコレも捨てよう、ソレは持って帰ろう、という具合に急いで分別し、部屋を明け渡した。棚の中には大量の紙オムツ。入院してからほとんど食事を摂らなかった父は、排泄の回数もわずかだった。なので、何十枚もの未使用の紙オムツが残っていたわけである。「処分しておきましょうか」と聞かれたら「はい」と答えるしかない。悠長に考える余裕はないんだから。
そして、しばらく経ったあと、病院からの請求書を受け取った母は憤慨した。バカ高いのである。基本料金はともかく、あれやこれやと上乗せされて大層な額になっていたらしい。その中には、使わずじまいの紙オムツ代も含まれていた。あの病院、紙オムツ会社と結託してやがったのか?
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