沈黙の幸、
如月十四日、銀葉金合歓―silent weal
テーブルの朝、かすかに甘いくせほろ苦い。
それから澄みわたるオレンジの香。
「…ぁ、」
浮遊感ゆらり視界がひらく、まぶしい。
カーテン開いたまま朝が降る、ダークブラウン艶やかに陽をはじく。
また寝てしまったらしい?書斎机ゆっくり肩を頭をあげて、みしり背が軋んだ。
「っ…ぅ、んー」
撓んだ背骨そのまま伸ばして腕つきあげる。
肘ぎしり肩じくり鈍痛きしむ、こわばる筋肉ゆるんで痛む。
首ぐるり回して息吐いて、あくび一つ立ちあがった。
「徹夜…しちゃったな、」
ひとりごと椅子ごとり、静かな空間そっと響く。
おだやかな光かすかな粒子が舞う、古書の埃だろう。
そういば掃除なかなか出来ていない、反省すこし微笑んで窓の錠外した。
かたん、
乾いた響きに大気が澄む。
明るい冷たさ吹きこんで、書斎こもる夜ほどかれる。
「ふぁ…あ、」
あくび伸びやかに唇が涼む、澄んだ空気そっと肺を満ちる。
もう日が昇った、知らず徹夜した朝に金色ゆれた。
「あの花かな…」
ひとりごと零れた窓、金色あわく梢ゆれる。
かすかな風ゆらす光の色、昨夜の詞が映った。
Le mimosa du souvenir
Sui ton chapeau se reposa,
Petit oiseau, petite rose,
Menacés de tuberculose.
「Le mimosa du souvenir…か、」
ミモザ、あの金色の花に何を想い謳った?
そこに栞した指は、何を想ったのだろう?
「誰が植えたんだろ、うちのミモザ…」
ひとりごと風かすめて、窓のむこう金色ゆれる。
あの花を植えたひと、その手が栞したのだろうか?
この窓あの金色を見つめて、書斎机あのページ開いて「栞」はさんで。
栞、正確には封筒はさんで。
「手紙…かな…」
白い封筒はさんだ詞、それはどんな感情だったのだろう?
その瞬間あの花は、甘く香ったのだろうか?
「おーい、おはよー」
呼びかけられて瞬いた先、黄金のむこう笑ってくれる。
見慣れた笑顔ひとつ明るくて、あくび一つ笑いかけた。
「ふぁ…おはよー」
「眠そうだねー徹夜したんでしょ?」
ミモザ揺れる先、ベランダからエプロン姿が笑ってくる。
とっくに目覚めていた、そんな幼馴染に微笑んだ。
「ん…気がついたら朝だっただけ、」
「あー机で寝ちゃったんだ?ほっぺ赤いのそれでだね、」
指摘と笑ってくれる瞳ほがらかに明るい、ほどかれる。
こんなふう笑いあえる時間きっと得難いのだろう、だから沈黙のまま温める。
Le mimosa du souvenir
Sui ton chapeau se reposa,
Petit oiseau, petite rose,
Menacés de tuberculose.
想い出のミモザが
君の帽子に安らぐ、
ちいさな鳥、ちいさな薔薇、
結核に脅されて。
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2月14日誕生花ミモザ
如月十四日、銀葉金合歓―silent weal
テーブルの朝、かすかに甘いくせほろ苦い。
それから澄みわたるオレンジの香。
「…ぁ、」
浮遊感ゆらり視界がひらく、まぶしい。
カーテン開いたまま朝が降る、ダークブラウン艶やかに陽をはじく。
また寝てしまったらしい?書斎机ゆっくり肩を頭をあげて、みしり背が軋んだ。
「っ…ぅ、んー」
撓んだ背骨そのまま伸ばして腕つきあげる。
肘ぎしり肩じくり鈍痛きしむ、こわばる筋肉ゆるんで痛む。
首ぐるり回して息吐いて、あくび一つ立ちあがった。
「徹夜…しちゃったな、」
ひとりごと椅子ごとり、静かな空間そっと響く。
おだやかな光かすかな粒子が舞う、古書の埃だろう。
そういば掃除なかなか出来ていない、反省すこし微笑んで窓の錠外した。
かたん、
乾いた響きに大気が澄む。
明るい冷たさ吹きこんで、書斎こもる夜ほどかれる。
「ふぁ…あ、」
あくび伸びやかに唇が涼む、澄んだ空気そっと肺を満ちる。
もう日が昇った、知らず徹夜した朝に金色ゆれた。
「あの花かな…」
ひとりごと零れた窓、金色あわく梢ゆれる。
かすかな風ゆらす光の色、昨夜の詞が映った。
Le mimosa du souvenir
Sui ton chapeau se reposa,
Petit oiseau, petite rose,
Menacés de tuberculose.
「Le mimosa du souvenir…か、」
ミモザ、あの金色の花に何を想い謳った?
そこに栞した指は、何を想ったのだろう?
「誰が植えたんだろ、うちのミモザ…」
ひとりごと風かすめて、窓のむこう金色ゆれる。
あの花を植えたひと、その手が栞したのだろうか?
この窓あの金色を見つめて、書斎机あのページ開いて「栞」はさんで。
栞、正確には封筒はさんで。
「手紙…かな…」
白い封筒はさんだ詞、それはどんな感情だったのだろう?
その瞬間あの花は、甘く香ったのだろうか?
「おーい、おはよー」
呼びかけられて瞬いた先、黄金のむこう笑ってくれる。
見慣れた笑顔ひとつ明るくて、あくび一つ笑いかけた。
「ふぁ…おはよー」
「眠そうだねー徹夜したんでしょ?」
ミモザ揺れる先、ベランダからエプロン姿が笑ってくる。
とっくに目覚めていた、そんな幼馴染に微笑んだ。
「ん…気がついたら朝だっただけ、」
「あー机で寝ちゃったんだ?ほっぺ赤いのそれでだね、」
指摘と笑ってくれる瞳ほがらかに明るい、ほどかれる。
こんなふう笑いあえる時間きっと得難いのだろう、だから沈黙のまま温める。
【引用詩文:Jean Cocteau「Cannes」抜粋自訳】
銀葉金合歓:ギンヨウアカシア・異称ミモザ、花言葉「友情、秘密の恋、プラトニックラブ、思いやり」
Le mimosa du souvenir
Sui ton chapeau se reposa,
Petit oiseau, petite rose,
Menacés de tuberculose.
想い出のミモザが
君の帽子に安らぐ、
ちいさな鳥、ちいさな薔薇、
結核に脅されて。
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