萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

師走二日、苔―pensiveness

2020-12-02 23:42:00 | 創作短篇:日花物語
ひとり、それでも温もりは
12月2日誕生花コケ苔


師走二日、苔―pensiveness

午後、14時が銀色そまりだす。

「凍りだすな、」

声こぼれた唇かすめる冷気、ほら峪むこう白くなる。
じきここも凍るだろう、彼岸の白銀ながめてながら熱い湯気すすりこんだ。

「…は、」

チタンカップくゆらす香、ほっと息から寛げる。
切株すわる足もと微かに響く、もう地面から霜が立つ。
街はまだ秋だろう、けれど自分の里ふる冷厳に微笑んだ。

「でも好きなんだ…僕は、」

微笑んでチタンカップ口つける。
やわらかな湯気かすかに甘い、すこしだけ入れた砂糖が沁みる。
こんなふうに甘い熱いものが旨くなるとき、もう雪の時間が近い。

―こういうの学校の友だちは驚くだろうな、きっと、

白い息ほっと笑って、なんだか可笑しい。
だって朝まで新宿にいた、けれど今もう故郷の山に座る。
埃っぽい空気も高層ビルも無い、ただ聳える稜線ひそやかに銀色そめてゆく。

「好きだなあ、」

想い声になる、そうして肚ひとつまた決めてゆく。
この里が好きだ、守りたい、だから自分は都会で学び抜く。
そうして願い叶えて戻るとき、ふるさとも人も支えてゆける。

―受験の直前は登ると怒られるかな、でも手伝いあるし?

ほら考えだす、どうしたら絶えずここに座れるか?
それくらい僕はここが好きで、慕わしくて、この山懐しがみつく。

―でも役立つこと多いんだよね、山の知識は医者にとって、

言訳ほら心つぶやく、でも本当の言訳だけでもない。
だって父は山岳部だった。

―だからERに行ったと思うんだけどな、法医学からなんて普通あまりないよね?

父は専門を変えた。
その動機どこから来たのだろう?
ずっと考えている、聴きたくても今は訊けないから。

「アメリカでも登ってる?」

ふるさと白く染まる森の底、異国はるか問いかける。
きっと留学先では忙しいだろう、それでも父なら登るかもしれない。
その視界どんなだろう?

―奥多摩の山とは違うだろうな、写真でしか見たことないけど?

雄大だろう、この狭隘の稜線よりずっと。
そこに立てば嬉しいかもしれない、それでも今の席に微笑んだ。

「でも僕は、ここの医者になるよ?」

ここが好きだ、ここで生きたい。
だから今は学ぶ時、だから今は週末しか帰られない、それでも故郷いつか帰られる。
その時はきっと、この山懐いつも毎日ずっと通うだろう。

―広い世界の医者もいいけど、どうしても僕はこの山がいいな、

想い見つめる森の先、稜線ひそやかに銀色ふる。
この冷厳くるむ瞬間が好きだ、ほら?凍る森かさり靴底に霜が立つ。

「好きだな、」

でも、そろそろ帰る時間だな?
熱い湯気そっと飲みほし、立ちあがった。

「よいしょ、」

背負籠まっすぐ立ちあがり、歩きだす。
さくり登山靴に霜はじけて、山苞の背は重くとも温かい。


苔:コケ、花言葉「物思い、孤独、信頼、母性愛」

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富嶽の霜雪、冬山REAL三景

2020-12-02 18:29:07 | 写真:山岳点景
銀色まばゆい風紋、頂へ雲を吐く
山岳点景:冬富士2016.12


白銀そめる森、PM2:00の冷厳
山岳点景:冬富士の樹霜2017.12


太陽へ雲昇る、最高峰の秋から冬へ
山岳点景:冬富士2016.12


2枚目は樹霜にそまる瞬間の富士山の森、
樹霜=気温の低下で水蒸気が昇華した霜が、樹木の枝や草木など地面より高い所に付着して凍る現象です。
師走12月の富士山は積雪期×空気も凍る低温×豪風に荒れる白魔の時間・冬将軍の支配レベル別次元な冷厳の世界。
こんな厳冬期の富士山こそ好きで・ずっと行けてないなーと懐かしくなって今時期の3シーン、おうち登山なカンジで、笑
こんな光景に出会うと世界ってキレイだなーと・かじかむ零下も楽しくなります、笑
【撮影地:山梨県2016.12】

低山でも高山でも・秋は日没が早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
特に積雪期は山の難易度も変わってしまいます、標準タイム=無雪期の考えで登れば遭難死だと覚悟してくださいね?
道迷い・低体温症→遭難も増える晩秋です、積雪期は経験者同行必須で・時間×装備シッカリで楽しめますように。

緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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朱色の燈

2020-12-02 14:00:00 | 写真:山岳点景
秋拾遺、朱色ふかく燈る 
山岳点景:野茨の実2016.12


師走の山裾、凍てつく山颪に陽だまりの赤が光っていました。
きれいな朱色×黄葉の色、寒空の今日は暖色写真も温かいカンジでイイかなあと。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:山梨県富士山2合目あたり2016.12】

富士山は五合目より下は豊かな森の世界、さまざまな植物×動物に出会います。
深い森×野生獣の住処なので・地図を読む技術×熊鈴ほか技術も装備も時間もシッカリで。
また秋冬はとくに気温が急激に下がります、冬山装備なしでは低体温症→行動不能に陥りますので要注意。

緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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