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ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

鶴柄の袱紗

2012-02-02 19:40:57 | 着物・古布

 

袱紗の変わった柄があったらほしい…とつい先日書きましたが、これは定番柄。

でも、片や刺繍、片や切りビロード…なのです。

どちらも大きさは65×75センチ、大きい袱紗です。

 

日本刺繍の美しさについては、今までも帯などでお話したり、写真もお見せしましたが、

切りビロードはなかったよなぁと…。あるわけない、高いもん…。

袱紗ですし、わずかにダメージがありましたので、お安く入手できました。

 

では本日「ビロード」のお話し…といいましても、私の知識は自分好みのものばっかし。

ついでにビロードなんて高価なものは縁がないので、あんまり詳しくありません。

知っていることに、改めて調べたことを加えて書いてみます。

 

まずは「ビロード」と言う呼び名はポルトガル語が元になっています。

日本語では「天鵞絨(てんがじゅう)」、当て字ですが、読みの当て字と言うより「意味」の当て字?

「鶩」は「あひる」、つまり天に住むあひるの毛で織ったもの…そのくらいしなやかで毛足が柔らかくて…ですね。

英語圏ではベルベット、別珍は似て非なるもので素材の違い。

 

ビロードが日本に入ってきたのは、安土桃山のころですが、当然のように「特権階級」のもの。

武将がマントにしたことで有名ですね。

名前からいって、ずっと外国モノ…という気がしますが、江戸時代からは国内での生産が可能になりました。

でも、技術的にたいへん繊細で、現在はほんとにわずかに残るばかり…これがまたまた気になるところです。

 

今、国内で作っているビロードは「輪奈ビロード」と「切りビロード」。

元々ビロードは、織るときに糸をひっぱって出っ張らせ「輪」をつくること、

つまりタオルで言うところのパイル地、のことです。この輪の部分が「起毛」したように出っ張るので、

あの手触りが生まれるわけです。

パイルのタオル地などで面をよく見ると、糸がループになっていますね。

タオルの場合などは、よーく見ればループがちゃんと見えますが、

ビロードの場合はこの「輪」の高さが1ミリもないのです。眼を凝らして見たってわかりませんねぇ…。

この輪を作り出すためには、織るときに細い針金を一緒に織り込むのだそうで、

織った後それを引き抜くと、針金の太さ分、糸がループとして立ち上がるわけですね。

今、この細い針金を作ることが難しいのだそうです。

 

で、このおりあがってできた「輪」の部分がそのままなのが「輪奈(わな)ビロード」、

輪のてっぺんを切ったのが「切りビロード」というのが分け方です。

「輪」を作るのに細い針金を織り込む…という話だけは知っていたのですが、

正確なことは知りませんでしたので、探しましたらありました。

私のゴチャゴチャした説明よりも、こちらをご覧いただければ一目瞭然です。

今でも「輪奈ビロード」を作っておられる「タケツネ」さんのホームページです。

 

ビロードってそんなに高かったっけ?けっこうあるでしょ…ですが、あれはまず化繊が多いことと、

それとジャガード機で織っているんですね。

ジャガードというのは、イギリスで発明された「紋紙」というパンチカードを使った機械織り。

帯なども、今はほとんどが機械織りですが、その元になったもの、「自動織機」、ですね。

パンチカードの一つの穴が、糸を動かす指令を出すわけで、それで経糸と緯を交差させて柄を出します。

現在はもうパソコンが多く使われますが、実はこの「パンチ穴によって、糸を動かす」というのは、

それをかえれば模様も替わる…ということで、この原理が後に計算機やコンピュータの開発にも

大きく影響したのだそうです。計算式だの数字だのに弱い私は、なんとなく感覚的にわかるなぁ…程度です。

西陣の路地を歩くと、機械の音が聞こえてきます。昔はバッタンバッタンという「機(はた)」の音だったのでしょうが

最近はなんといいますか「カシャコンカシャコン」というような、せわしない機械音です。

あれがジャガードの機械音なのでしょうね。軒の低い町屋のたたずまい漂う路地に響く音が、

実はパソコンにも大いに役立っていたかと思うと、不思議な気がします。

 

さて、この切りビロードの袱紗ですが、鶴の胴体や羽、松の枝葉の部分が切りビロードでもりあがっていて、

鶴の足など細かいところは、織りあがってから描き入れています。

まずは全体柄、大きいので脚立に乗って撮ったのですが、それでも真上からは撮れませんでした。

 

     

 

二羽の鶴の足元に若松…ですね。鶴は一度つがいになると、一生同じ相手と連れ添うそうです。

そういうことからも、結婚などのおめでたいことに柄として使われるのですね。

切りビロードの面ですがわかりにくいですけれど…羽の間の輪郭線になっているところは

短く刈り込んであるのでしょう。黒い部分との境目を触ると「高さの違い」を感じます。

これで立体感を出しているわけです。

 

        

 

アタマの部分ですが、少し赤いところがこすれたのか剥げかげんです。ちょっと色もにじんでしまっているのが残念。

 

        

 

また、こういう袱紗はだいたい裏が赤くて、紋を染め抜いてあるものが多いのですが、

これは裏も表地と同じ生地で、紋も金色で「違い鷹の羽」。贅沢な一枚ですね。

 

        

 

しかもこの部分は「刺繍」…。

 

        

 

残念ながら、折りたたんである部分の糸が緩んでいますが…。

この紋は母の実家の紋ですが…祖父の系なので女紋にはならないし、やっぱ使えない~~~。

いや、だいたいこんなりっぱな袱紗を使おうかっていう機会が、どう考えてもありませんわね。

 

片方ばかりでも…なので、刺繍の方もお披露目。

切りビロードの手法による「盛り上がり」の立体感も、それはそれで素晴しいのですが、

日本刺繍による鶴の羽は、更にリアルで美しいです。通常鶴といえば「白と黒で、アタマが赤」ですが、

これは全体に「紫」を基調にしています。

    

      

 

羽の部分、こういうところを見ると、日本刺繍はやっぱり神業だ~~と、思うのです。

羽の色のぼかし具合もいいですね。

 

      

 

亀さんも岩も「紫が基調」、リアルな岩の色より、優しい感じがします。

亀さんの背中も細かい刺繍。

 

        

 

たたんだときの曲がり部分で、首のところが少し糸がよれているだけで、

ほかの糸切れや抜けはありません。

なんと「サインと落款」も刺繍…黒い字の方、描いたみたいですよね。これもまた贅沢な一品だと思います。

 

                    

 

こちらの袱紗は裏は赤で「蔦紋」、女紋として使われますね。

あ~「女紋」なんて、カンタンに言っちゃいけませんが、地方によって…です。

女性が嫁ぐと、嫁ぎ先の紋を使うことになりますが、女紋として代々使っているものも

自分の紋として使うこと。つまりおばあちゃんの実家の紋をお母さんが嫁に出てからも使い、

娘が生まれて嫁に行っても、またその紋を使う…という「女系紋」のことです。

上で、祖父系だから女紋にならない…と言ったのは、「違い鷹の羽」は、祖父の実家の紋で、

母方の祖母の紋は「揚羽蝶」だから…です。

 

紋と言うのはほんとにややこしくて「モンだいが多い」…?!

とりあえず、表地の美しさは甲乙つけがたいのですが、この「蔦紋」の方は、染め抜きだったので、

白地のところがすっかりシミだらけになっていまして…。

 

        

 

写真ではきれいに見えますが、実際には紅茶こぼしたようなシミが広がっています。

これで更に「格安」…だったわけです。

 

いつも思うのですが、今、袱紗は「使われない」ので、出ても安いんです。

これが帯で、これだけの切りビロード柄や刺繍柄だったら、おそらく手が出ない価格になります。

袱紗という使いづらいもので、例えば帯にしようかと思っても柄が大きすぎて、

首だけだのおしりだけだのになってしまうでしょうし、かといって風呂敷にはもったいないし、

かざるしかない…ので、10000円もしないのです。

ありがたいやら寂しいやら…ですが…。実家には紺地に二羽の鶴の刺繍袱紗があったはず。

眼のところに「人形手芸」用のピーズみたいな眼がはめ込んでありまして、

子供心に夜見るのはこわかったです。あれを探さねば…。

 

ところで、袱紗の四隅についている房ですが、金糸を使った「亀さん房」が多いのですが、

贅沢な袱紗だけあって、房まで凝ってます。

左が刺繍の方、右が切りビロードの方です。

 

         

 

刺繍の方の房は組紐の技術で組んだもので、たぶん「茶道具」を模したものと思います。

絹はこれだけしっかり組んであると、例えばつぶれてひしゃげていても、修正できちゃいます。

こちらはそのままのもの、

 

         

 

指でつまんでカタチを整えると…

 

         

 

こういうものを見ますと、日本の手わざをなんとかして、なんっとかして残してほしい…と思います。

さて、今度は袱紗ばかりがたまり始めました。「とんぼ民芸館」って…まとまりないんだよねぇ…どーするんだろ…。


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4 コメント

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Unknown (すてぃんきー)
2012-02-03 00:08:09
いつもながら、とってもためになります♪
紋がでてきたついでと言ってはなんですが、
ぜひ次回は紋について教えてください。
嫁ぎ先の紋や実家の紋が気に入らなかったら、
自分で好きに自分の紋を決めてもいいと、
以前聞いたことがあるのですが、
それは本当ですか?
ちなみに、私の嫁ぎ先の紋は
違い鷹の羽です(^_-)☆
返信する
Unknown (陽花)
2012-02-03 17:45:40
刺繍の鶴さん見ているだけで
ため息です。
コツコツと刺された方の
顔を拝みたい・・・
すてきな袱紗ですね~

返信する
Unknown (とんぼ)
2012-02-03 17:46:22
すてぃんきー様

なにかお役に立つことがあれば嬉しいです。

家紋については、過去にも書いていますが、
ずいぶん前ですし、もう一度書いてみましょう。
ちっとお待ちくださいね。
先にこれだけは…ですが、紋は基本的に
好きなもの、にはできないものです。
ただ、今あまりうるさくないので、
そうしてもいいですよー、と言っているという
状況があることも確かです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2012-02-03 17:48:05
陽花様

いったいドレくらいの日数かかったでしょうね。
ほんとに人の手というものはすごいと思います。
この組紐も、ほんとにキレイですよ。
返信する

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