
袱紗の変わった柄があったらほしい…とつい先日書きましたが、これは定番柄。
でも、片や刺繍、片や切りビロード…なのです。
どちらも大きさは65×75センチ、大きい袱紗です。
日本刺繍の美しさについては、今までも帯などでお話したり、写真もお見せしましたが、
切りビロードはなかったよなぁと…。あるわけない、高いもん…。
袱紗ですし、わずかにダメージがありましたので、お安く入手できました。
では本日「ビロード」のお話し…といいましても、私の知識は自分好みのものばっかし。
ついでにビロードなんて高価なものは縁がないので、あんまり詳しくありません。
知っていることに、改めて調べたことを加えて書いてみます。
まずは「ビロード」と言う呼び名はポルトガル語が元になっています。
日本語では「天鵞絨(てんがじゅう)」、当て字ですが、読みの当て字と言うより「意味」の当て字?
「鶩」は「あひる」、つまり天に住むあひるの毛で織ったもの…そのくらいしなやかで毛足が柔らかくて…ですね。
英語圏ではベルベット、別珍は似て非なるもので素材の違い。
ビロードが日本に入ってきたのは、安土桃山のころですが、当然のように「特権階級」のもの。
武将がマントにしたことで有名ですね。
名前からいって、ずっと外国モノ…という気がしますが、江戸時代からは国内での生産が可能になりました。
でも、技術的にたいへん繊細で、現在はほんとにわずかに残るばかり…これがまたまた気になるところです。
今、国内で作っているビロードは「輪奈ビロード」と「切りビロード」。
元々ビロードは、織るときに糸をひっぱって出っ張らせ「輪」をつくること、
つまりタオルで言うところのパイル地、のことです。この輪の部分が「起毛」したように出っ張るので、
あの手触りが生まれるわけです。
パイルのタオル地などで面をよく見ると、糸がループになっていますね。
タオルの場合などは、よーく見ればループがちゃんと見えますが、
ビロードの場合はこの「輪」の高さが1ミリもないのです。眼を凝らして見たってわかりませんねぇ…。
この輪を作り出すためには、織るときに細い針金を一緒に織り込むのだそうで、
織った後それを引き抜くと、針金の太さ分、糸がループとして立ち上がるわけですね。
今、この細い針金を作ることが難しいのだそうです。
で、このおりあがってできた「輪」の部分がそのままなのが「輪奈(わな)ビロード」、
輪のてっぺんを切ったのが「切りビロード」というのが分け方です。
「輪」を作るのに細い針金を織り込む…という話だけは知っていたのですが、
正確なことは知りませんでしたので、探しましたらありました。
私のゴチャゴチャした説明よりも、こちらをご覧いただければ一目瞭然です。
今でも「輪奈ビロード」を作っておられる「タケツネ」さんのホームページです。
ビロードってそんなに高かったっけ?けっこうあるでしょ…ですが、あれはまず化繊が多いことと、
それとジャガード機で織っているんですね。
ジャガードというのは、イギリスで発明された「紋紙」というパンチカードを使った機械織り。
帯なども、今はほとんどが機械織りですが、その元になったもの、「自動織機」、ですね。
パンチカードの一つの穴が、糸を動かす指令を出すわけで、それで経糸と緯を交差させて柄を出します。
現在はもうパソコンが多く使われますが、実はこの「パンチ穴によって、糸を動かす」というのは、
それをかえれば模様も替わる…ということで、この原理が後に計算機やコンピュータの開発にも
大きく影響したのだそうです。計算式だの数字だのに弱い私は、なんとなく感覚的にわかるなぁ…程度です。
西陣の路地を歩くと、機械の音が聞こえてきます。昔はバッタンバッタンという「機(はた)」の音だったのでしょうが
最近はなんといいますか「カシャコンカシャコン」というような、せわしない機械音です。
あれがジャガードの機械音なのでしょうね。軒の低い町屋のたたずまい漂う路地に響く音が、
実はパソコンにも大いに役立っていたかと思うと、不思議な気がします。
さて、この切りビロードの袱紗ですが、鶴の胴体や羽、松の枝葉の部分が切りビロードでもりあがっていて、
鶴の足など細かいところは、織りあがってから描き入れています。
まずは全体柄、大きいので脚立に乗って撮ったのですが、それでも真上からは撮れませんでした。
二羽の鶴の足元に若松…ですね。鶴は一度つがいになると、一生同じ相手と連れ添うそうです。
そういうことからも、結婚などのおめでたいことに柄として使われるのですね。
切りビロードの面ですがわかりにくいですけれど…羽の間の輪郭線になっているところは
短く刈り込んであるのでしょう。黒い部分との境目を触ると「高さの違い」を感じます。
これで立体感を出しているわけです。
アタマの部分ですが、少し赤いところがこすれたのか剥げかげんです。ちょっと色もにじんでしまっているのが残念。
また、こういう袱紗はだいたい裏が赤くて、紋を染め抜いてあるものが多いのですが、
これは裏も表地と同じ生地で、紋も金色で「違い鷹の羽」。贅沢な一枚ですね。
しかもこの部分は「刺繍」…。
残念ながら、折りたたんである部分の糸が緩んでいますが…。
この紋は母の実家の紋ですが…祖父の系なので女紋にはならないし、やっぱ使えない~~~。
いや、だいたいこんなりっぱな袱紗を使おうかっていう機会が、どう考えてもありませんわね。
片方ばかりでも…なので、刺繍の方もお披露目。
切りビロードの手法による「盛り上がり」の立体感も、それはそれで素晴しいのですが、
日本刺繍による鶴の羽は、更にリアルで美しいです。通常鶴といえば「白と黒で、アタマが赤」ですが、
これは全体に「紫」を基調にしています。
羽の部分、こういうところを見ると、日本刺繍はやっぱり神業だ~~と、思うのです。
羽の色のぼかし具合もいいですね。
亀さんも岩も「紫が基調」、リアルな岩の色より、優しい感じがします。
亀さんの背中も細かい刺繍。
たたんだときの曲がり部分で、首のところが少し糸がよれているだけで、
ほかの糸切れや抜けはありません。
なんと「サインと落款」も刺繍…黒い字の方、描いたみたいですよね。これもまた贅沢な一品だと思います。
こちらの袱紗は裏は赤で「蔦紋」、女紋として使われますね。
あ~「女紋」なんて、カンタンに言っちゃいけませんが、地方によって…です。
女性が嫁ぐと、嫁ぎ先の紋を使うことになりますが、女紋として代々使っているものも
自分の紋として使うこと。つまりおばあちゃんの実家の紋をお母さんが嫁に出てからも使い、
娘が生まれて嫁に行っても、またその紋を使う…という「女系紋」のことです。
上で、祖父系だから女紋にならない…と言ったのは、「違い鷹の羽」は、祖父の実家の紋で、
母方の祖母の紋は「揚羽蝶」だから…です。
紋と言うのはほんとにややこしくて「モンだいが多い」…?!
とりあえず、表地の美しさは甲乙つけがたいのですが、この「蔦紋」の方は、染め抜きだったので、
白地のところがすっかりシミだらけになっていまして…。
写真ではきれいに見えますが、実際には紅茶こぼしたようなシミが広がっています。
これで更に「格安」…だったわけです。
いつも思うのですが、今、袱紗は「使われない」ので、出ても安いんです。
これが帯で、これだけの切りビロード柄や刺繍柄だったら、おそらく手が出ない価格になります。
袱紗という使いづらいもので、例えば帯にしようかと思っても柄が大きすぎて、
首だけだのおしりだけだのになってしまうでしょうし、かといって風呂敷にはもったいないし、
かざるしかない…ので、10000円もしないのです。
ありがたいやら寂しいやら…ですが…。実家には紺地に二羽の鶴の刺繍袱紗があったはず。
眼のところに「人形手芸」用のピーズみたいな眼がはめ込んでありまして、
子供心に夜見るのはこわかったです。あれを探さねば…。
ところで、袱紗の四隅についている房ですが、金糸を使った「亀さん房」が多いのですが、
贅沢な袱紗だけあって、房まで凝ってます。
左が刺繍の方、右が切りビロードの方です。
刺繍の方の房は組紐の技術で組んだもので、たぶん「茶道具」を模したものと思います。
絹はこれだけしっかり組んであると、例えばつぶれてひしゃげていても、修正できちゃいます。
こちらはそのままのもの、
指でつまんでカタチを整えると…
こういうものを見ますと、日本の手わざをなんとかして、なんっとかして残してほしい…と思います。
さて、今度は袱紗ばかりがたまり始めました。「とんぼ民芸館」って…まとまりないんだよねぇ…どーするんだろ…。
紋がでてきたついでと言ってはなんですが、
ぜひ次回は紋について教えてください。
嫁ぎ先の紋や実家の紋が気に入らなかったら、
自分で好きに自分の紋を決めてもいいと、
以前聞いたことがあるのですが、
それは本当ですか?
ちなみに、私の嫁ぎ先の紋は
違い鷹の羽です(^_-)☆
ため息です。
コツコツと刺された方の
顔を拝みたい・・・
すてきな袱紗ですね~
なにかお役に立つことがあれば嬉しいです。
家紋については、過去にも書いていますが、
ずいぶん前ですし、もう一度書いてみましょう。
ちっとお待ちくださいね。
先にこれだけは…ですが、紋は基本的に
好きなもの、にはできないものです。
ただ、今あまりうるさくないので、
そうしてもいいですよー、と言っているという
状況があることも確かです。
いったいドレくらいの日数かかったでしょうね。
ほんとに人の手というものはすごいと思います。
この組紐も、ほんとにキレイですよ。