ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

矢立て

2008-03-05 23:04:13 | 昔の道具・暮らし
古道具つながりみたいになっちゃいましたが、煙草入れの次は「矢立」、
矢立というのは、要するに「携帯筆記具」のことですね。
元々「矢立て」は字のまんま、つまり武士が戦のときに「矢」を立てて入れて
持ち歩いた「箙(えびら)」のこと、今でも弓道では矢を入れる道具を
そう呼ぶときいたことがありますが、本当かどうかは…。
戦場で、武士はその矢立ての中に、筆記用具を入れていました。
それを「矢立て硯」といいましてそれが道具として独立した形になっても
「矢立」と呼ばれた、と物の本には書いてあります。
なぜ戦場で墨や硯が必要だったか、つまりは戦況を知らせる手紙を書くとか、
地図を広げて作戦を検討するとか…それで必要だったわけですね。

矢立ては時代が下がって独立した道具になりました。
最初は筆入れと墨壺が分かれていましたが、やがて一体化したものが考案され、
墨は液体やすって使うのではなく、もぐさや綿に含ませるようになりました。
やがてキセルや煙草入れと同じように、ただの実用品であっても、
その形や装飾には意匠を凝らすものがたくさん現れたわけです。
女持ちのものもあって、それは全体につくりが小さく、
筆も細いものが使われています。

こちらは上の写真のもの、京都は北野天満宮、天神市で見つけたもの。
小ぶりですがズシリと重いです。長さは17センチ。
とてもよく使い込まれていて、彫られているものが何なのか、
もう分かりづらくなっています。

     


蓋の飾りが打ち出の小槌なので、おめでたいものとか縁起物、獅子か虎か…、
部分名称を知らないのですが、筆を入れる部分のお尻のところは、
こんな風に獅子か虎か、しっかり銜えている形です。


     


こちらは「ネズミ」とあったんですがねぇ、よく見るとウサギに見える…。
前のに比べると実にシンプルですが、かなり大きいです、21センチ。


            


常々、矢立てというのはなんとなく「ピストル」のような形だなと、
ずーっと思っていました。それならきっと「鉄砲」の形があるのではないかと。
で、先日やーっと見つけたのですー。18センチ弱です。


    


なんと、蓋上に「三葉葵」の紋入りです。


           


徳川の時代、鉄砲は大名が勝手に作ってはいけないものでしたから、
こんな紋をシャレでつけたんでしょうね。天下御免!?
知識がないのでよく分かりませんが、鉄砲の上の部分は、
本来蓋のようなものはありませんから、これは墨壺の蓋として、
「陣笠」を模っているのではないかと思っています。
同じ頃に、小刀(ペーパーナイフ)入りの矢立て、も出ていたのですが、
両方はちと買えませんで、そっちをあきらめました。
小刀の入ったものはあんまり見ないので、それもまた探したいと思っています。

矢立てというのは携帯用筆記具ですが、外国のペンに比べて大きく違うのは
「筆記具が柔らかい」ことです。つまり筆の先ですね。
外国では羽ペン(羽の軸の硬いところ)とか木とかガラスペンとか
硬いものが、筆記具として使われました。
日本ではずっと「筆」です。実は「和紙」を長く作って巻いたもの、
これは、手に持って立てて書く事ができました。
また印刷のところでお話ししましたが、
「字」そのものが縦に流れるように書く形でしたから、
巻いた和紙を手に持って、そのままさらさらと書けたわけで、
テーブルも下敷きもいらなかったんですね。
そして実はペーパーナイフもいりませんでした。
和紙はたいへん丈夫なものですが、書き終わったあとはその少し先を折って、
ちょっと舌でスーッとなめれば、和紙はたちまちそこから切れたからです。
植物に囲まれた日本で生まれた和紙が、手紙の書き方や道具の出来具合にも、
お互いかかわりがあったということですね。

私は骨董コレクターではありませんで、高価なものじゃなくて同じ道具でも、
形のかわったものとかおもしろいもの、家族の干支にちなんだもの、
なんてのが気になるんです。ちなみに私の干支はトラですが、
残念ながら着物の柄にしたら「極ツマ」になりそうですし、
羽裏やこういった道具のトラは、ほんっとにかわいくないのです。
まぁ古ければ古いほど、実物を見たことがなかったわけですから、
そりゃ仕方がないんですけれど、みんなぎょろ眼で化け猫のようでサミシヒ!
オットは年下なので「辰」、龍は、これまたありすぎるほどありますが、
そのせいかどれも似たりよったりか、イグアナみたいなのか…。
結局息子の「子」年、ねずみちゃんが一番かわいくて形もいろいろ、
選択肢多くていろいろ楽しめるんですね。

ポツリポツリと買い集めているだけなので、数は少ないし、
これどーするの、といわれてもこまるんですけれどね、
日本人がとにかく繊細で器用で美的感覚に優れていて、
暮らしの中のさまざまな道具や装飾品、小さなものでさえ、
こだわって作ったり持ったりしていたってのを、見て楽しみたいと思うのです。
かんざしも櫛も祖母にもらったのが始まり、
キセルはジサマからもらったものが始まり…。
これって実はこだわりがあるわけじゃなし、散漫で困ったものなんですが。
それでも、私が実際見たことのあるもの使ったことのあるもの、
話しにしか聞いていないもの、どれもこれも今はもう作られていないものばかり。
なんかいいなぁ…だけで、これからも集めていこうと思っています。
ちなみに「矢立て」については、兵庫県の芦屋(阪急神戸線芦屋川駅近く)に
「俵美術館」という「矢立てだけの美術館」があるんです。
一度ゼヒ、行ってみたいと思っています。


さて、昨日のタスポについては、たくさんのコメントをいただきました。
タバコは百害あって一利なし、ですが、バサマは30を少し過ぎた頃から喫煙者。
私が車の免許を取ったとき、お祝いの言葉に代えて「贈られた言葉」、
「銜えタバコで運転は、10年早いで」…。
バサマは36くらいで免許を取りましたが、バサマの服には確かに
ヤケコゲがいくつかありましたっけ。
私は42で免許取りましたが、最初なんて銜えタバコどころか、
バッグからタバコを出すことさえできませんでした。
やっと吸えるようになっても、二年前までマニュアル車でしたから、
左手は常にギアの上、ほんとに銜えバコになっちゃうんですよ。
最近はオートマですから、なんとかね。
そーまでして吸いたいものか、そーなんです。
でもねぇ、やたらと値上がりはするし、片身は狭いし、
めんどくさくなってきましたね。
禁煙はすぐにできる体質ですから、タスポとやらが始まったら、
ちーっと様子を見てみましょう。




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5 コメント

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Unknown (伊藤)
2008-03-06 06:02:21
俳聖、松尾芭蕉もこんなのを腰にさして、奥の細道を行ったんだと思います・・

ちなみに奥の細道の結びの地は、私の住む処より10
キロばかしの岐阜県大垣市船町でございます・・

結びの句
「蛤のふたみに
   わかれ行く秋ぞ」
返信する
へぇ~×たくさん (えみこ)
2008-03-06 08:45:51
感心しながら読ませていただきました。
時代劇でも矢立てを出して書をしたためる場面とか
なくなりました。
こんな凝った道具から筆を出して、スケッチとかしてみたい…
(悪筆なもので)墨は綿に含ませるのですね。
勉強になります。
返信する
Unknown (陽花)
2008-03-06 08:49:13
矢立て凝っていて素適ですね。
私の目がおかしいのか何度見ても
コウノトリに見えてしまいました。
着物の時代ならではの物ですね。
返信する
Unknown (蝸牛)
2008-03-06 20:09:31
昔から・・矢立てが欲しくって・・
とうとう一本手に入れました。

矢立てや、たばこ入れ、根付け、
それから・・文鎮や水滴・・魅力的な小物が多いですね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2008-03-06 23:43:34
矢立てはじめの句は、実ははあんまり
好きではありません。なんかねぇウツクシクなくて。
結びの句は、元々が寂しさを表す句ではありますが
秋ってので、益々わびしいですね。
でもほんと、さらりと作るところがすごい!

矢立て腰に差して、ぶらりと歩いてみたいものです。
発句はヌキで…。


えみこ様
必要は発明の母ってヤツですね。
こういうものの細工は、見ててあきません。
凝りすぎて「これほんとに腰に挿して使ったの?
なんてのもありますが、装飾品として、
美しさ珍しさ優先ですね。
昨日のグルグルまわすキセルいれなんて、
一服するまでに知恵の輪やってるみたいですよ。


陽花様
説明不足と写真のデキの悪さですみません。
左上がアタマ、左下の小さい丸二つが足、
背中に大きな丸い鈴をふたつ乗せているように
見えます。最初ひょうたんかと思ったのですが、
よく見ると違うんです。だいぶすりへってますから。


蝸牛様
矢立てって今はつかわないけれど、いいものですね。
「文鎮」に使えます、なんて出てますよ。
ちなみに肩もたたけますです。こらこら。
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