「メジャーの打法」~ブログ編

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打法の分類(2)

2010年01月05日 | 打法
 フロントサイドの時代。

 この動画を見ていると、いかにも「バックサイドは○で、フロントサイドは×だ」といっているようだが、そうではない。フロントサイド主体のスイングというのも存在し、打法として立派にMLBで通用する(たとえば松井)。いまどき流行らない――というだけの話だ。

 松井はかなり極端だが、現在の打法を『バックサイド主体』とするなら、それ以前、約半世紀のあいだMLBで主流だった打法を『フロントサイド主体』と表現してもかまわないだろう。ルースのスイングを見ると、ステップに至るまでに前方の運動量を得るのはバックサイドだが、右足に乗り込んでからは、おもにフロントサイドが発揮するパワーを使って、ボトムハンドで引き切っている。カップホーンスビーの時代に活用された『トップハンドの引き』が形骸化しているところにフロントサイド性を見て取ることができる。
ゴルフのスイング論では、ルースの打法と類似性の高いホーガン以降の打法について、はっきりと「左サイド重視」がうたわれているようだ。「ゴルフは逆のスポーツである」("Golf is a game of opposites")という表現まである(ナチュラル・ゴルフ:バレステロス)。


 では、カップ、ホーンスビーの打法についてはどうか?

 両者とも、ボトムハンドの引きに続いて、トップハンドの引きを活用しているところに、バックサイド重視がうかがえる。

ゴルフで言うと、ホーガンの前の時代、トップからの右手の操作に多くを依存するボビー・ジョーンズの打法に相当する。
ゴルフと野球は技術史的にかなり似通っている。互いに影響しあっているのではないか?


 ふたりのスイングは見た目にまったくちがう。下半身の動作に限っては、カップがフロントサイド、ホーンスビーがバックサイドと見ていいだろう。しかしそれよりも、カップが『ローテイショナル打法』で、ホーンスビーが『リニア(トランスファー)打法』といった方が通りがいい。この二分法は、HPでも紹介したように、長らくアメリカの打撃論の基礎概念になっていて、現在もなお使われている。日本でも知られているのはチャーリー・ローが『3割バッターへの挑戦』で取り上げたからだろう。ところが、ローがリニア打法の代表としたジョージ・ブレットもローテイショナル打法の代表的存在であるテッド・ウィリアムスも、打法的にそれほどちがいがあるようには見えない。記事を書いていても戸惑いがあったし、同じ思いをされた方も多いだろう。そのことについて、アデアはこのように述べている(『ベースボールの物理学』)。

There has been some controversy over the relative importance in batting of rotational motion and translational motion, Ted Williams emphasized the importance of rotation, and Charlie Lau emphasized translation.Of course, both are essential (as both Williams and Lau knew), and they are interrelated even as the energy of translation of the body goes into the rotary energy of the bat.

今まで何度か――回転動作と並進動作のどちらがバッティングにとって重要か――という論争があった。テッド・ウィリアムスは回転の重要性を強調し、チャーリー・ロウは並進を強調した。(ウィリアムスもロウも承知していたが)もちろんどちらも本質的だし、極端な話、体の並進運エネルギーがバットの回転エネルギーに変換されるのだから、両者は相互に関連するのである。


 アデアのいうことが正しい。つまり、ルース、ウィリアムスらのフロントサイド主体の時代に入って、ローテイショナル、リニアの二分法が意味を成さなくなってしまったのだ。C・ローは、時代遅れの概念を用いて、見えるはずのないものを見ようとしていた――というわけ。

 しかし、カップ、ホーンスビーを比べ、さらにそれをウィリアムスとブレットのちがいと比較すれば、このふたつの言葉が明確な意味を持ち、これを用いて活発な打撃論が交わされた時代があったことがわかる。そして、どちらの側でパワーを発揮しているか?というキネティックな視点もメカニズムを論じる上での重要なポイントになるだろう。

  (つづく)




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