「メジャーの打法」~ブログ編

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打法の分類(3)

2010年01月06日 | 打法

 バックサイド化。

 おそらく1980年代後半、アメリカの打法に技術革新が起こり、コンパクトな打法が考案された。ボトムハンドの『引き』を抑えてトップハンドの『押し』を強調する打法で、HPでⅢ型と呼んでいるものだ。実際にMLBの打法を変えるところまでは行かなかったと思うが(当時はテレビ中継がなかった)、この技術が『フロントサイド』の時代から『バックサイド』の時代へ移行する先駆けとなったのはまちがいないだろう。

 'Baseball Skills&Drills'ABCA(アメリカ野球コーチ協会)著という本がその新開発の技術を伝えている(簡単な紹介)。『フロントサイド』、『バックサイド』、ということばはこの本で知った。そのなかに、打者が頭に描くべきイメージのひとつとして、以下の文章がある。

Tall Loud Back Side-Short. Quiet Front Side.

As the hitter pictures his swing, he imagines the back side driving the front side out of the way. He does not want the front side to pull the back side through, an action that produces a longer, slower swing. In other words, a loud back side produces energy and force, and the quiet front side produces less initial action. In reality, both sides work together. But the front side often opens up too early, the hitter loses plate coverage, and the front shoulder pulls the weight forward, causing a slow, sweeping swing. (以下、'tall, short'の部分は省略)

バックサイドがフロントサイドを押しのけて出て行く。フロントサイドがバックサイドを引っぱり出すのではない。そうすればスイングがコンパクトになる。


 バックサイドを強調するが、現代のB型とは少しちがう。Ⅲ型はトルク打法だから、『バックサイド主体』に徹し切れてないのだ。だから、"In reality, both sides work together"などと言ったりする。

上の記述には間違いがあって、energyは生産しないが、トルクをかけるためには同じ大きさで逆方向のforce(ただし受動筋力)を発揮する必要はある。だからフロントサイドを軽視できないわけだ。
B型もトルクを使うが、バット軌道を維持するためで、ヘッド加速には使わない。


 決定的なのはトップハンドの使い方で、以下のように書かれている。

 As the hitter reaches extension, the bat arc should go through the ball. The swing is not a perfect circle. As the body rotates and bracing off occurs, the hands should take the bat through the ball in the direction the ball is to travel.
 In the mental picture of fighting for extension, the hands must be involved because they are the final summation of forces. At contact with the ball, the top hand should be facing the ball, not the sky. Although this will not always occur even on well-hit
balls, trying to get to this hand position will help the hitter fight for extension.

手首を返しながら、打球の方向にバットを突き出せ。トップハンドの掌は、上ではなく、球に向けるようにせよ。

 
 このトップハンドの使い方はと同じだ(4:10頃)。しかし、B型はちがう。この動画が的確に描いているように(2:20頃)、手首はフォロースルーで結果として返るに過ぎず、インパクトにおけるトップハンドの掌は上向きだ('palm up/palm down')。

 また本では、「腰から体幹、肩へと順次回転して行け」とも述べている。その動作のなかで、トップハンドの肘が中に掻い込まれ、最後に球に向かってバットを突き出すと手首が返るわけだ。しかし、B型はちがう。やはり上の動画が表現しているように、上下ほぼ同時に球に向かって動くのであって、いわゆる『レイト・ヒッティング』などということはやらない。

 HPで熱く語った、MLB技術史における重大事件である、『打撃の革命』(アメリカ打法からカリブ打法へ)の臨界点が、まさに、このⅢ型からB型への乗り換えなのだ。ふたつの打法に共通するバックサイド性がこの革命をお膳立てしたのはたしかだが、強調すべきは両者の違いでなければならない。そこで、両打法を象徴するものとして、トップハンドの動作のちがい、つまり、『押す』か?『引く』か?に注目したわけだ。「フロントサイドーバックサイド二分法では技術史を語り尽くすことができない」というのはこういう意味だ。


 ところでこの本の打撃部門は、おそらく、著者の一人であるMark Johnsonが担当したのだろう。そして、例の動画(下に貼っておく)の語り手とは同一人物にちがいない。・・・ということは、本を著した当時はⅢ型を教えていたが、この動画を撮ったころはB型に宗旨替えをしていた――ということになる。

13:50頃のトップハンドの使い方を見れば、本にあるような、球に向かってバットを突き出す動作も手首の返しもない。B型の動作そのものだ。


 かれはコーチ経験も長く、大学野球での実績もある。アメリカ・アマチュア球界の大物なのだ。そのかれが自分の教える技術の改変を余儀なくされるとは・・・。時代の動きの激しさを如実に物語っている。

 

 

 


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