長打力の源泉。
王の打法についてはすでに何度か述べた。トップハンドの使い方(4)。Ⅰ型だが、後半にTH側三頭筋を使ってトルクを掛ける。このとき肩内旋・前腕回内が著しい。この打法は藤井(阪急)、立浪(中日)に受け継がれたが、不思議なことに、いつしか消えてしまった。
長打力の最大の源泉が一本足打法だと考えられていて、THの使い方は注目されなかった――ということもあるのだろう。その考えは正しいのかもしれない。トレドさんのツイートをきっかけに少し考えてみた。
『スポーツの達人になる方法』で小林一敏が言及している。彼は世界新記録達成のころに王の身体的特徴を実験によって調べたそうだ。「スランプを脱出する」p34に王の言葉がある。
「1本足になった昭和47年頃は、遠くへ飛ばすことへ生き甲斐を見つけてガンガンと打っていた。これが、ピッチャーのタイミングに合わせるために徐々に1本足の高さは低くなってきた、と言える。……必要なのは荒々しい迫力と、相手ピッチャーを震わせるパワーなのだ。前に戻ろう、1本足を始めたときに戻そう。そう決めたとき2センチメートルの挑戦に入ったのだ。たかが2センチメートルと人は言う。しかし、この2センチメートルが難しい。短距離ランナーが0.01秒に命を削る思いをするように、この2センチメートルは大きな壁だった。(中略)足を高くすれば、それだけ反動がつく。反動がつくという事は、飛距離が延びるということだ。」
小林の解説は以下の通りだ。
このようにして、高い位置からの右足の振り下ろし動作が、バットの加速に密接な関係があることを、彼は把握していることが興味深い。
図15に示すように、王選手のバッティング動作をフィルムから考察すると、両足でバッターボックスに立った姿勢から右足の引き上げが始まると、それと同時にバットの先端がピッチャー側に急傾斜を始める。この右足の運動とバツトの運動が互いに逆方向の運動量をもっていて、釣り合いに役立ち、1本足での構えの移行が安定に行えるようになっていると考えられる。引き上げられた王選手の右足は、ピツチャーの手からボールが離れるのと同時に下がり始める。そのときに、引き上げのときとは反対に、バツトがキャツチャー側にバックスイングが開始される。すなわち、右足の振り下ろし運動とバックスイングが逆向きの運動量をもっているので、足の動作が反作用としてバックスイングを加速させる力を生じさせ、1本足にもかかわらず鋭いバックスイングが安定に行うことを可能にしていると考えられる。バツクスイングで後方へ向かった加速されたバットが・・・・・
ここで注目すべきは、
王選手の右足は、ピツチャーの手からボールが離れるのと同時に下がり始める。そのときに、引き上げのときとは反対に、バツトがキャツチャー側にバックスイングが開始される。
のところで、よーく見ると間違っている。
まず軽いヒッチがありグリップが捕手側に移動する。その間、右足を下ろすのを我慢している。足のポテンシャルは保たれたままなのだ。この動画(3:30頃)で荒川が言うのもそのことで、バックスイングの代償に足を下ろすのなら我慢など要らない。ヒッチのあとに左肩の外旋を伴うバックスイングが起こるが、その動作が起こってグリップがトップに至る(アメリカで言うLoad)までの間にすでに左足の動作が起こっていて、「右足の振り下ろし運動とバックスイングが逆向きの運動量をもって」はいない。
王が高く上げるのは、本人のことばを借りれば、反動をつけるためだ。そして、その反動からの振り出しを利用して左足の力強い動作を生み出し、長打力につなげる。それをバックスイングのために使ったのでは元も子もないじゃないか。