「メジャーの打法」~ブログ編

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H・キルブルー

2011年05月22日 | 打法

 トップハンド(TH)の動作。

 村上 豊は『科学する野球』打撃篇p65にタイ・カップのこの写真を載せ、以下のような注釈をつけた。

タイ カップ選手は、高めの球を打つのに、後ろの腕の肘をベルト・ハイ(ベルトの高さ)に保ち、バットの先を立ててレベル(地面に水平ではない)打ちを行っていた。・・・


 しかしそれが間違いであることはこの動画(1:03頃)を見ればあきらかだ。彼はまずBHで引き、さらにTHで『引く』。腰の回転を活用するから、ホーンスビーのリニアに対して、ローテイショナルなⅣ型だ。したがって、彼のスイングにあのような格好をする局面は存在しない。あの写真は、カップの特徴あるグリップを見せるために、カメラに対してポーズを取ったものに過ぎないのだ。

 カップに関する言説は、検証が不可能であるがゆえに、科学的命題とはなりえない。しかし、打撃論において、彼のスイング・メカニズムを論議する価値を否定することにも無理がある。つまり、打撃論議を科学の中に包含することはできないのだ。したがって曖昧さが付きまとうのは仕方ないところだが、上の例で見るように、資料を駆使して言説の信憑性を検討することはできる。映像資料が飛躍的に豊かになった今の時代は打撃論の質を高めるいいチャンスなのだ。


 キルブルーが死んだ。来日しなかったのであまり馴染みはないのだが、生涯で573本の本塁打(歴代9位)を打ったスラッガーだ。そこで殿堂にあるこの動画を見みてみたが、トップハンドの動作はカップを思い起させる。ついこの間、トップハンドの使い方で、ホーンスビー、J・ジャクソンを取り上げたが、そのときカップには言及しなかった。Ⅰ型に適当な『後継者』が見当たらなかったからだ。しかし、やはりいたのだ。

 カップのトップハンドは、他のふたりとは異なり、三頭筋を使わないことに特徴がある。大胸筋で振り回すのだ。このようなスイングについて、アデアは『ベースボールの物理学』で以下のように述べている。

Players of yesteryear who emphasized precision-like Wee Willie Keeler; who "hit 'em where they ain't"-often used long arcs and reduced the angular velocity. Ty Cobb and Honus Wagner both separated their hands on the bat and swept the bat through the hitting zone, adding to the angular accuracy of their hitting (though Cobb, especially, would often bring his hands together early in the swing).

 しかしこのワグナーはⅠ型だし、本塁打王3回のゲーリックもカップと同じ打法だから、話半分に聞いておいた方がいいだろう。

 Ⅳ型からⅠ型への移行にあたって、THの動作が以下のように継承されたことになる。

ホーンスビー → ウィリアムス
ジャクソン → ルース
カップ   → キルブルー


 BHの引き主体の打法に変ったのだから、TH動作の多様性が保障されてもおかしくはないだろう。ウィリアムスはホーンスビーを、ルースはジャクソンを真似たとされているが、キルブルーの場合はどうか?カップやゲーリックから(直接ではないにせよ)技術の伝達があったのだろうか?

Ⅰ型の時代に入ってしばらくは、THでバットに加える力は長軸に沿ったものだった。上の三者の打撃はそのようなものだ。しかしやがて長軸に直角に『押す』技法が開発され、スイングはさらに多様化した。ベンチは、三頭筋を使わない点でキルブルーと同じだが、バットを押している。

 しかしこのTH動作はⅠ型からⅡ型への移行に伴って消滅した。バット加速をTHの引きに頼るⅠ型では、三頭筋を使わずにバットに十分なパワーを付与することはできないのだ。


 さて、もうひとりキルブルーの打撃フォームから思い浮かべた打者がいる。デレク・ジーターだ。かつて彼の写真をサイトの表紙に載せていた時期があった。ちょっと変っているとは言え、現代のMLBを代表するB型だと思ったからだ。しかし最近になって、腰の回転で打っているように思えてきた。つまりⅠ型だ。しかも、キルブルーとTHが同じだとすると、トルクも掛けてないことになる。とんでもない思い込みをしていたものだ。

キルブルーとジーターでかなり違って見えるのは、やはりジーターには腸腰筋の収縮があるからだろう。ここにある動画を見るとそのように感じる。

 



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