「メジャーの打法」~ブログ編

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Welch 1995 (3)

2011年05月30日 | 打法

 打撃のバイオメカニクス的基礎。
 
 ローテイショナルとリニアの二種類あるという話から、そのバイオメカニクス的考察を回避して、以下の文章へと続く。

Regardless of individual mechanics, the hip segment is accelerated around the axis of the trunk to a maximum velocity. This increases the velocity of the entire system moving in the intended direction. The hip segment is then decelerated, as the shoulder segment is accelerated, utilizing the kinetic link principle (4,11,13).

 さらに続けて、肩が減速しバットへとエネルギーが転移する――となるわけだが、アデアの言葉(下に日本語訳がある)を借りると、インパクトの様子はこうなる。

For many batters, the energy transfer from body to bat is nearly completeーthe forward motion and rotation of the body is stopped almost completely when the bat crosses the plate.

静止したグリップを中心(実際の中心は打者の体側)にバットが回転し、バットの遠心力に対して、打者は(ハンマー投げのように)体を反らして向心力を掛けるわけだ。

 しかし、これはⅠ型の動作原理であって、例えばディマジオのようなスイングについてのみ言えることなのだ。Ⅱ型(Ⅲ型)には使えない。ⅡB型を例に取ると、下半身を土台にして、THの突き型動作によってバットを振り出す。エネルギー生産の主体は上半身だ。打者はインパクトまでエネルギーを生産し続け、バットを(THで)引き続ける。アデアモデル(錘のついたロープ)で考えれば、「グリップの描く曲線の接線方向に力を加えるから、その勢いが衰えず曲率がほぼ一定なら、錘は曲線軌道の接線上にあって、グリップと同じ曲率で、スピードを増しつつインパクトを迎える」とザックリ理解しも構わないだろう。したがって、アデアの言うようなインパクトにはならない。バットの遠心力は考える必要はなく、グリップの曲線軌道を担保するのは地面反力だが、後ろ→前の交替があり、両足の偶力によって回転させる局面はない。それをWelchはリニアと言ったわけだ(ペドロイアゲレーロ)。

 "to provide a foundation for the biomechanical study of hitting and ・・・"というこの論文のもくろみは完全に失敗した。

Additional studies are being conducted and will focus specifically on:1) the relationship between the rotational and linear components of weight transfer, 2) the specific interaction of segments involved in the kinetic link, and 3) the acceleration and power with which the bat moves into contact with the ball.

と書いているが、この研究の上に打撃のバイオメカニクスを構築することなどできない。このデルガド(動画の後半にある、A型)のスイングで、腰や肩の横回転だけ測ってどうなると言うのだ?

だから彼はこれに続く論文を出せなかった。追跡調査あるいはその道の専門家の助言で、間違いに気付いたのだろう。歴史的経緯からすれば10年足らずでリニア・タイプが圧倒的多数となり、上記のような運動連鎖理論の適用も断念せざるを得なくなったはずだ。

トレドさんによると、川村卓「野球動作と指導環境の課題から―」『体育の科学』Vol.56 No.9、2006のデータからは、「キューバの打者は腰よりも肩が先に回る」と読み取れるそうだ。(キューバの打者は肩甲骨外転B型)


 打撃論の基礎を構築するには時代が悪かった。悪過ぎた。しかも新しいスイングに対する知見がないから、データから新時代の息吹を感じ取ることもできなかった。しかし、まぁ、データは当時の混沌とした状況を見事にとらえているのだから、打撃技術史的には貴重かもしれない。


 この研究の基本的欠陥はバットに加える力をセンサーバットを用いて測れなかったことだ。逆動力学的解が求まらないということもあるが、バットに加える力が打法を特徴付けるからだ。Ⅰ型の本質はあくまで下半身(および体幹)のエネルギー生産様式だが、これをバットに伝えるのはBHになる。Ⅱの中核はTH側上半身の動作だが、その様子はTHでバットに加える力に反映する。したがって、ローテイショナル、リニアの違いは力にくっきりと現れたはずで、探究心を掻き立てられたことだろう。現在圧倒的多数派であるⅡ型についても、センサーバットを用いた計測を行わなければ、打撃論のバイオメカニクス的進展はない。
 しかし、『証文の出し遅れ』の感は否めない。「THで引く」などというのはもはや常識となってしまい、話題の中心はそんなところにはないからだ。学者の皆さん、もう少しテレビで野球を見るなどして『教養』を身につけないと、いつまで経っても能天気な論文を出し続けることになりますよ。

 (この項終り)



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