快読日記

日々の読書記録

「意志道拓」長谷川穂積

2010年05月02日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《4/30読了 KKベストセラーズ 2010年刊 【ボクシング】 はせがわ・ほずみ(1980~)》

30日夜の試合中継の前に読み切りたくて。
それが負けちゃうとは。
お茶の間レベルの感想を言わせてもらえば、自身と似たタイプの対戦相手を前にして、なまじ順調だったからこそ慎重さにポコッと隙間ができちゃったって印象でした。

さて、これは4月に出た自叙伝です。
その性格のよさに胸を打たれます。
もちろんやんちゃはやんちゃなんだけど、元々の資質や育てられ方の影響か、基本が真面目で素直。
さらにプロとして実績を積むにつれて、責任感や誠実さが増す様子もよくわかります。
なんだか近頃、真面目であることが軽視されてる気がするから、「ああ、やっぱり人間根底が真面目じゃなきゃどうにもなんないな。ポジティブって真面目じゃなきゃ嘘よね。」と思いました。

そして、とにかく人の話をよく聞くらしい。
長谷川穂積の魅力は試合だけでなく、「言葉を持つボクサー」であることだと思うんです。
だからつい引き込まれる発言も多い。

あと、今ひそかに注目してる山下会長がかっこよすぎ。
例えば、初めての世界タイトル戦(対ウィラポン)の入場時、リング下で穂積の両グローブに手を掛けて言ったセリフが、
「右手は俺、左手はおまえ、ともに戦おう(117p)」だよ。
好きになってもいいですか会長!
そういえば、30日の試合中も、
会長:「何か不安はあるか」
穂積:「相手のフェイントが怖いです」
会長:「おまえのフェイントも怖いぞ」
なんて会話があったみたい。
もうっ! 山下会長素敵すぎ!
わたしも励まされたい!
(戦わないけど)
髪型もいつも決まってるしね。

とにかく、この会長と一緒に、少しゆっくり休んで、また興奮させる試合見せてもらいたいです。

「力士はなぜ四股を踏むのか? 大相撲の『なぜ?』がすべてわかる本。」工藤隆一

2010年04月08日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《4/7読了 琴剣淳弥/イラスト 日東書院 2007年刊 【相撲】 くどう・りゅういち(1949~)》

質問です。
相撲に、柔道やボクシングみたいな体重別の階級制度がないのはなぜでしょう。

答えは、筆者が日刊スポーツの記者時代にある親方から聞いたこの言葉。
「相撲はな、煎じ詰めればバランスの崩し合いのゲームなんだよ(11p)」
なるほど~!と思ったあなた、この本おすすめですよ。

この原則を知ると相撲の見方がだいぶ変わります。
だからいわゆる蹲踞(そんきょ=体を凸の形にする)の姿勢が大事なんだ。
だから立ち会いが勝敗を左右すると言われるんだ。
だから怪力・把瑠都でもまだ白鵬に勝てないんだ(時間の問題だとは思うけど)。
などなど、いろんなことがわかります。
すると相撲がますますおもしろくなりますよね。

競技としての相撲の解説以外にも、肉体論・歴史文化・相撲協会のシステムの詳細など、「大相撲のすべてをわかりやすく解説(表紙折り返し)」というアピールも嘘じゃない1冊です。

相撲界が、ただ伝統をかたくなに守っているわけではなくて、
意外と柔軟に、変化を恐れず進歩を遂げてきてるってのにも驚き、うれしくなります。

欲を言えば、巻末にでも用語の索引をつけてほしかったです。


→「横綱 朝青龍」

→「親方はつらいよ」高砂浦五郎

「プロレス八百長伝説 ケーフェイ」

2009年11月10日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《11/7読了 INFOREST MOOK(インフォレスト株式会社) 2006年刊 【プロレス】 》

随分前の話ですが、「ここがヘンだよ日本人」というテレビ番組で、「プロレスは八百長だ(だから価値がない)」と叫んだ韓国人に対して水道橋博士が「そんなの30年前のプロレスの見方だ。今そんなこと言ってプロレス見てる日本人はいない」と言っていて、わたしはテレビの前で快哉を叫んだものです。
そこから事態は逆行しているのか?というのが読後の感想です。
ミスター高橋のプロレス観には賛同するけど、あの手の暴露本は善悪以前に"野暮"なんじゃないかなあ。

プロレスの衰退は自民党一党支配の崩壊にも似ています。
そのココロは「みんなで見ないふり・暗黙の了解」が通用しなくなった(うまくないか)。
わたしたちはもう、古舘の実況に泣いたあの頃のプロレスには戻れない。
もとの十九にして返せ~♪というわけにはいかない。
しかしここでプロレスのケーフェイ(フェイクの逆読み)を議論することに何の意味があるのか、最後まで掴み切れませんでした。
記事のほとんどが無記名なのもちょっと嫌だった。
作り手の狙いが戦犯探しなのか、プロレス復興なのか、プロレスの新しい道の模索なのか、笑わせたいのか、糾弾したいのか、全くわかりませんでした。

「地獄のアングル」永島勝司

2009年07月23日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《7/18読了 イースト・プレス 2005年刊 【プロレス】 ながしま・かつし(1943~)》

「プロレス地獄変」でも劇画化されていた長州力のプロレス団体WJ、その設立から崩壊まで約2年間の顛末記です。

この会社の滑稽なほどの杜撰さ、どこかで見たと思ったら、上杉隆「官邸崩壊」の安倍内閣にそっくりです。
スタート時がピークってとこも うり二つ。
そもそもプレイヤーと経営者は求められる資質がまるで違うんだから、長州は看板レスラーに、永島はしかけ屋に徹し、経営はプロを招いて金のことは任せちゃうってわけにはいかなかったのか――なんて言ってみたところであとの祭ですが。
一連の騒動の真相は藪の中で、関わった人それぞれに言い分があるのでしょう。
しかし見切り発車で、前につんのめるように始まった発足当初から、やることなすことすべてが裏目に出る様子はまるで何かの祟り。悲惨です。
選手を乗せた飛行機が、会場がある北海道上空まで来ながら天候のため着陸できずに羽田に引き返すあたりでは、笑いが込み上げるほどでした。
ものすごい運のなさです。
長州はこの後どうなってしまうんでしょう(;_;)元ファンクラブ会員としても心配なところです。

それにしても、やはり印象に残るのは猪木の存在。
要所要所に登場する猪木の魔性っぷりがたまりません。

結局この本は、周囲を翻弄する魔性の男・猪木に尽くして捨てられた(っていうか、愛されてなかった)傷心の永島が、新しい恋人・長州と手を取り合って小さなお店を開いたはいいけど、猪木の影を払拭できずにどつぼにはまって倒産した、みたいな話です。
永島氏は「俺と猪木は腐れ縁だ」なんて言うけど、賭けてもいい、猪木はそんなこと1ミリだって思っていない。
片思いだったんです。
今更ながら、猪木恐るべし。
なんだか分からないけど、猛毒の美味なんでしょう、きっと。
つまりこの本も猪木本かよ!というのが率直な感想です。

「プロレス『地獄変』」原田久仁信

2009年07月03日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《6/25読了 別冊宝島1630 宝島社 2009年刊 【プロレス 劇画】 はらだ・くにちか(1951~)》

長州力率いるプロレス団体WJの発足から、瞬く間に崩壊した顛末、
阿修羅・原や大巨人アンドレの実像など、
プロレス界の味わい深いエピソード満載のノンフィクション劇画。

ここで描かれる長州の愚鈍さ(としか言いようがない)には素でヘコんでしまいましたが、それはさておき。


この作品がすごいのは、これ自体が「プロレス」だという点に尽きます。
つまり、リングの上の「プロレス」を取り巻く人間が繰り広げるドラマ全体が「プロレス」であり、
それを取材して劇画化することは、もう揺るぎのない「プロレス」です。

「プロレス」とは何か?
この際じっくり考え抜きたい気もしますが、
帰ってこれなくなりそうなのでやめたいと思います。

「プロレス『悪夢の10年』を問う」別冊宝島編集部

2009年02月11日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《2/9読了 宝島SUGOI文庫(宝島社) 2009年刊 (2008年に同社から刊行された「別冊宝島1523「プロレス『悪夢の10年』を問う」を改訂して文庫化) 【プロレス】》

71年生まれのわたしは、お茶の間にプロレスがあった最後の方の世代です。
猪木、ハンセン、ブロディ、藤波、長州といったスターに素直にわくわくして、
木村、谷津、小林邦昭、越中あたりの元気に活気づき、
木戸修や星野勘太郎、浜口、大熊の闘いっぷりに泣く――。
強い、弱い、華やか、渋い、面白い、それぞれのポジションがあって、ドラマがあって、
"かっこ悪いことは なんてかっこいいんだろう"的な熱がある。
改めて、古舘伊知郎の功績は大きいと思います。

ところが。
「本当に強いのは誰か」と、みんなでワイワイ騒ぐうちは楽しかったのに、
それをまともに受けて「ガチで」みたいな人が目立つようになって、
牧歌的プロレスファンがマニアに浸食され、プロレスの見方は痩せてしまいました。
イマジネーションと情の欠如。
この本にはとくにそれを強く感じます。
ターザン山本へのインタビューなんか、未熟な子供がおじいさんを責め立ててるみたいで、読んでてしんどいし不毛です。


プロレス衰退にはいくつもの理由がありますが、
見る側が距離感を失ったってこともあります。
近視眼的になり、笑えなくなり、その結果、愛じゃなくなる。

そんなわけで、この本がプロレスの何になるのか、理解に苦しみました。
この種のプロレスマニアがよかれと思っていじり倒し、角を矯めて牛を殺してしまったのでしょう。
「プロレスの死」を実感させられる1冊でした。

「横綱 朝青龍」

2008年09月10日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
※再投稿です。

《9/4読了 撮影・企画・構成/野村誠一 取材・文/長谷川昌一 ゴマブックス 2008年刊 【相撲】》

世間は今、ポスト福田でもりあがっていますが、わたしはポスト北の湖の方がずっと気掛かりです。
落ちるところまで落ちたとデーモン閣下をして言わしめた角界。
あらゆることに鈍すぎる北の湖には一刻も早く辞めてもらって、新理事長には北の富士親方に就任してもらったら少しは変わるんじゃないかと一縷の望みを抱いています。

そんなわけで朝青龍の話題の写真集です。
この笑顔を見るとついつられて笑ってしまいます。
天真爛漫と言ったら言い過ぎですか。
すみません。

でも、モンゴルの地平線をバックにみんなと並んでジャンプしてる姿なんて、アフリカに帰ったライオンの子供みたいでとにかくかわいい。
写真も素敵ですが、インタビューも読み応えがあります。
ライターが朝青龍べったりではなくて、むしろ意地悪なくらいの質問をやたらぶつけるのですが、
どれに対しても驚くほど素直に答えています。
朝青龍という人が持つ、無防備なほどの正直さがよく伝わって来ます。

さらにぐっとくるのは特等床山・床寿の談話です。
率直かつ温かい、この男っぷりには惚れ惚れしました。

絶賛しすぎですか。

「親方はつらいよ」高砂浦五郎

2008年09月07日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
《9/6読了 文春新書 2008年刊 【相撲】 たかさご・うらごろう(1955~)》


力士にとって親方は父親も同然というイメージがありますが、高砂親方はむしろ母性的だと思いました。
やんちゃな弟子に手こずりながらも、温かく許容する様子は丹下段平のようでもあります。
弟子について話すときの「あの子、この子」という表現もお母さんみたいで、思わず頬がゆるみます。

そして、本人の資質と可塑性、親方との相性など、いろんな要素が相俟って、人を育てるってすごくドラマティックでおもしろいんだな~ってことも感じました。
例えば、朝青龍と1つ年下の朝赤龍とを比較して、
気性が激しくてよく泣く朝青龍より、決して涙を見せない落ち着いた性格で、体格も優れていた朝赤龍の方が強くなると思っていた、と回想しています。
問答無用の支配的な親方だったら、朝青龍はもっと"よい子"になっていたかもしれませんが横綱にはなれなかったでしょう。
巡り合わせって不思議ですね。
いろいろあったけど(これからもあるだろうけど)、実は相性のいい師弟なのかも。

あと、高見山(現・東関親方)と富士櫻(現・中村親方)から受けた恩について何度も触れているのもよかった。

朝青龍写真集と併せて、横審の"ベティちゃん(自称)"内●牧子氏にもおすすめしたい1冊です。

「元気です!!!」春 一番 幻冬舎

2007年03月09日 | プロレス・相撲・ボクシングなど
「あなたにはヒーローがいますか。」


「猪木信者」という言葉があって、それを名乗る人も大勢いるが、
「猪木に取り憑かれた男」といったらもうこの春一番を置いて他にいない。

愛する対象を手に入れたい、という思いには成就する可能性がある。
しかし対象そのものになりたい!という希望は決して叶えられることがない。
春一番のように、狂おしいほどの憧れに端を発したそれ一本のモノマネ芸人の胸中というのは、一体、どうなっているのだろう。

ちょうどこれを読んでいた先日「アメトーク」に「ワンポイント芸人」として春一番がでていた。
ダンディ坂野やエスパー伊東などと並び、居心地悪そうにしている姿を見て、胸が締め付けられる思いがした。
そのうち、結局、この番組のねらいは、彼らを嗤うことであるような気さえしてきて、わたしの被害妄想はどんどん膨らみ、終始、春一番だけを見つめ、一方的にその心中を察し、いたたまれない思いを抱えたまま就寝した。
見るんじゃなかった。

春一番が、どんなに猪木に恋してきたか。
簡単な生い立ちから芸能界入りのエピソード、そして3ヶ月以上に及ぶ闘病の顛末までが語られるこの本を読むと、
なんだか運の悪い男だなあとちょっと気が滅入ってしまう場面もあるが、
彼が自分のすべて(命までも!)を差し出して猪木を求め続けている熱気が伝わってきて、ものすごく悩ましい。
芸人としての仕事が増える中で出演した「お笑いウルトラクイズ」の話が伏線となり、一時期流れた、春一番重病説の真相が後半に語られている。
そこからの復帰を果たし「元気です!!!」と顔を上げるところで本を閉じることができるので、
「元気があればなんでもできる」という猪木の帯の言葉が読者の全身に回るしかけになっているのだ。

「燃える闘魂って効くんだねえ」(188p 医師の言葉)

「あなたにはヒーローがいますか」(201p)
そのヒーローが、長嶋茂雄とか徳川家康とかだったらよかったのに。
悪魔に恋したのが運の尽き。
などと言いつつ、悪魔に魅入られた春一番がかなりうらやましかったりして。