あまいろ
Challenge 1 みつけた その1
穏やかな風の中を花びらが泳いでいた。
風はまだ肌寒く、富士の高嶺には雪が残っている。
だが、富士から吹く冷たい息吹の下では今、桜が大きく花開き、春を伝えている。
中でも富士の麓にある朝霞学園の富士桜は花の色といい、百本という数といい、なんとも見事なものである。
女子高ということもあり、この季節は初々しい乙女たちとの共演によって、富士桜がより艶やかに映る。
そんな乙女たちの園で今一つの物語が幕を開ける──
乙女たちの園と言ってもこの朝霞学園は俗に言うお嬢様学校ではなく、ごく普通の高校である。
その朝霞学園にやってきた新入生「皆原亜衣」によって学園に今一つの嵐が吹き荒れていた。
「皆原亜衣、とうとうウチにもやって来たってわけね」
朝霞学園の体育館は今、緊張の糸で張り詰められたような雰囲気に包まれていた。
亜衣を囲むように、どこかの部員らしき生徒たちが冷ややかな視線を浴びせている。
なぜそこまで亜衣に対する視線が冷たいのか?それには当然理由がある。
亜衣は四日前から始まった仮入部期間を利用して、陸上部、ハンドボール部、テニス部といった学園内でも実績のある部を回り、売り込みと称して部の実力者たちに勝負を挑み全て打ち負かしていたのだ。
そして、学園は今、その話題で持ちきりになっている。
そんな道場破り紛いの亜衣が歓迎されないのは至極当然のことである。
「えーと、キャプテンさんですか?」
「ええ、キャプテンの長谷川環よ。部活荒らしさん」
「そんな、部活荒らしなんてオーバーですよ」
「あなた、色んな運動部にやって来ては散々コケにして回ってるって話じゃない」
「えー、違いますよ。わたしは自分を売り込みに行ってるだけですよ。売り込むには実力を見せないとまずいじゃないですか。だからちょっとお相手をしてもらったんですよ」
「ふーん、そう言うならそれでもいいでしょう。でもね、うちは我が高の象徴と言われるバレー部よ。その意味がわかってる?」
長谷川の言うとおり、朝霞学園バレーボール部はここ三年間だけでも高校総体や選抜選手権で全国大会出場三回という実績を誇るほどの優秀な部だった。常識で考えれば、亜衣の言う売り込みなど必要のない部なのである。
「ええ、わかってますよ。たしかにバレー部は県内でも最強レベルですけど、全国優勝はまだないですよね?そういう部にこそわたしが必要じゃないかなって思いまして」
これは間違いなく、侮辱だった。亜衣もそれはわかっている。こうやって挑発することで相手が勝負を挑むように仕向けるのが亜衣の常套手段なのだった。
「へえ、言ってくれるじゃない。だけど、あなたがどう役に立つっていうのかしらね?その身長じゃスパイクもブロックもアテに出来ないでしょうから、リベロでもやろうっていうの?でも、ごめんなさいね、リベロならうちは充分間に合ってるの」
長谷川はそう強気に言い返すと、そのままクスクスと笑い出した。
そして、それに釣られるようにして他の部員たちも一斉に笑い出す。
しかし、亜衣はめげるどころか、受け流すようにして、
「あのー、わたし性格的に攻撃の方が向いてるんで、リベロはちょっと……」
と、はにかみながら答えた。
「へえ、面白い冗談を言う子ね。あなた身長のでアタッカーでもやろうというの?」
たしかに亜衣の身長は155cmとバレーボールをやるには明らかに身長が不足している。
「はい。言ってはなんですけど、この中じゃわたしが一番使えると思いますよ」
亜衣の自信に満ちた声が、広がっていた嘲笑を打ち消した。
「そう……そこまで言うのなら見せてもらおうじゃないの。あなたがうちの戦力になれるのかどうかをね。そして後悔するといいわ天下のバレー部に喧嘩を売ったことをね!」
長谷川環の鋭い視線が亜衣を突き刺す。
これでもし、亜衣の実力が半端なものだとしたら、無事に帰れるかわからない。そんな雰囲気である。
「それで、どんな方法でわたしを試すんです?」
「それはもちろん実戦で証明してもらうに決まってるじゃない。あなたに5人つけてあげる。勝負の方法は25点の1セットマッチ。それであなたが勝ったら認めてあげる」
「わかりやすくていいですね」
亜衣からすれば、望むところである。
かくして、亜衣と長谷川による1セットマッチが行われることとなった。
つづく
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そんなわけで、「あまいろ」始まりました。
「PINCH HITTER」から大体5ヶ月くらいですかね?
今回は1話をいくつかに区切っていこうと思いますのでよろしくお願いします。
なので次は1話その2になりますね。
小説にコメントしていただいた場合はコメント欄でお返事しますね。
Challenge 1 みつけた その1
穏やかな風の中を花びらが泳いでいた。
風はまだ肌寒く、富士の高嶺には雪が残っている。
だが、富士から吹く冷たい息吹の下では今、桜が大きく花開き、春を伝えている。
中でも富士の麓にある朝霞学園の富士桜は花の色といい、百本という数といい、なんとも見事なものである。
女子高ということもあり、この季節は初々しい乙女たちとの共演によって、富士桜がより艶やかに映る。
そんな乙女たちの園で今一つの物語が幕を開ける──
乙女たちの園と言ってもこの朝霞学園は俗に言うお嬢様学校ではなく、ごく普通の高校である。
その朝霞学園にやってきた新入生「皆原亜衣」によって学園に今一つの嵐が吹き荒れていた。
「皆原亜衣、とうとうウチにもやって来たってわけね」
朝霞学園の体育館は今、緊張の糸で張り詰められたような雰囲気に包まれていた。
亜衣を囲むように、どこかの部員らしき生徒たちが冷ややかな視線を浴びせている。
なぜそこまで亜衣に対する視線が冷たいのか?それには当然理由がある。
亜衣は四日前から始まった仮入部期間を利用して、陸上部、ハンドボール部、テニス部といった学園内でも実績のある部を回り、売り込みと称して部の実力者たちに勝負を挑み全て打ち負かしていたのだ。
そして、学園は今、その話題で持ちきりになっている。
そんな道場破り紛いの亜衣が歓迎されないのは至極当然のことである。
「えーと、キャプテンさんですか?」
「ええ、キャプテンの長谷川環よ。部活荒らしさん」
「そんな、部活荒らしなんてオーバーですよ」
「あなた、色んな運動部にやって来ては散々コケにして回ってるって話じゃない」
「えー、違いますよ。わたしは自分を売り込みに行ってるだけですよ。売り込むには実力を見せないとまずいじゃないですか。だからちょっとお相手をしてもらったんですよ」
「ふーん、そう言うならそれでもいいでしょう。でもね、うちは我が高の象徴と言われるバレー部よ。その意味がわかってる?」
長谷川の言うとおり、朝霞学園バレーボール部はここ三年間だけでも高校総体や選抜選手権で全国大会出場三回という実績を誇るほどの優秀な部だった。常識で考えれば、亜衣の言う売り込みなど必要のない部なのである。
「ええ、わかってますよ。たしかにバレー部は県内でも最強レベルですけど、全国優勝はまだないですよね?そういう部にこそわたしが必要じゃないかなって思いまして」
これは間違いなく、侮辱だった。亜衣もそれはわかっている。こうやって挑発することで相手が勝負を挑むように仕向けるのが亜衣の常套手段なのだった。
「へえ、言ってくれるじゃない。だけど、あなたがどう役に立つっていうのかしらね?その身長じゃスパイクもブロックもアテに出来ないでしょうから、リベロでもやろうっていうの?でも、ごめんなさいね、リベロならうちは充分間に合ってるの」
長谷川はそう強気に言い返すと、そのままクスクスと笑い出した。
そして、それに釣られるようにして他の部員たちも一斉に笑い出す。
しかし、亜衣はめげるどころか、受け流すようにして、
「あのー、わたし性格的に攻撃の方が向いてるんで、リベロはちょっと……」
と、はにかみながら答えた。
「へえ、面白い冗談を言う子ね。あなた身長のでアタッカーでもやろうというの?」
たしかに亜衣の身長は155cmとバレーボールをやるには明らかに身長が不足している。
「はい。言ってはなんですけど、この中じゃわたしが一番使えると思いますよ」
亜衣の自信に満ちた声が、広がっていた嘲笑を打ち消した。
「そう……そこまで言うのなら見せてもらおうじゃないの。あなたがうちの戦力になれるのかどうかをね。そして後悔するといいわ天下のバレー部に喧嘩を売ったことをね!」
長谷川環の鋭い視線が亜衣を突き刺す。
これでもし、亜衣の実力が半端なものだとしたら、無事に帰れるかわからない。そんな雰囲気である。
「それで、どんな方法でわたしを試すんです?」
「それはもちろん実戦で証明してもらうに決まってるじゃない。あなたに5人つけてあげる。勝負の方法は25点の1セットマッチ。それであなたが勝ったら認めてあげる」
「わかりやすくていいですね」
亜衣からすれば、望むところである。
かくして、亜衣と長谷川による1セットマッチが行われることとなった。
つづく
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そんなわけで、「あまいろ」始まりました。
「PINCH HITTER」から大体5ヶ月くらいですかね?
今回は1話をいくつかに区切っていこうと思いますのでよろしくお願いします。
なので次は1話その2になりますね。
小説にコメントしていただいた場合はコメント欄でお返事しますね。
>夜美羽さん
女性主役だと基本恋愛系ですが、「あまいろ」はスポーツ主体でやっていきます。
タイトルと物語がどう関係してくるのか、想像しながら読んでいただけると幸いです。
>蟻さん
どうもこんばんは~。
とりあえず蟻さんもひと段落付いたようでよかったです。
はい、無い知恵絞って書いておりますですw
また次回もよろしくお願いします。
>あひぃさん
どうもお待たせしました(別に待ってない?)
亜衣は割りと自分の好みの女の子の要素を入れてみました。
どんな勝負になるのかお楽しみに。
主人公(かな?)ちゃんかわいい^p^
亜衣ちゃんと長谷川さんの勝負、期待してます!
小説すごいです・・・!!!
自分で書いてるんですよね??
凄いですっ><!!!
私は絶対こういうのかけないから尊敬・・・!!
続き楽しみに待ってますね!!
次の話待っておりますよ・・・むふ((
亜衣ちゃんがどんなふうに
活躍してくれるのか、楽しみです♪