なにもたさない、なにもひかない

口の中に違和感があった。
ランチタイム中のできごとである。
違和感となったものを取り出して見てみると、大昔虫歯に被せた金属だった。
よく、飲み込まなかったものだ。

さっそく会社を早退して、歯医者さんに駆け込む。
この歯医者さん、この地に越してきてからのかかりつけにしているのだが、過去にかかった歯医者の中で一番気に入っている。
何が良いか、といえば無駄な治療を施さないのだ。
歯が痛い、といえばその部分をつぶさに観察して、肉眼でわからなければ、その部分のみのレントゲンを撮る。
今までかかった歯医者の９割がたが、この部分が痛い、と言っても「じゃあ、全体を撮って見ましょう」ということになった。
レントゲンで撮って見てもわからないからといって、むやみやたらとドリルで採掘したりはしない。
「たぶん、知覚過敏だと思いますから、歯石を取って様子をみてみましょう。」ということで終わる。

息子は歯並びが悪いので、低学年のころに歯列矯正の相談で連れて行ったことがあるが、
「まだ、小さいから骨格も変わってくるし、急いで何とかしよう、なんて思わなくていいですよ。ある程度成長して、どうしても矯正したい、というならどこかご紹介しますけれど。」と言う。
お金さえ積めば出られる歯学部卒ではなく、きちんとした大学の歯学部卒である。
欲がないのだ。
今日も、はずれた金属を持っていくと
「新たに作ってもいいですが、せっかく歯に合っていたのだから、これをまた元に戻しておきましょう。」
と、またも儲けることに消極的発言（笑）。

この歯医者のいいところは、歯科技工士のひとも上手い、ということ。
虫歯の治療で、一度だけ歯型を取って被せてもらったことがあるが、一発でぴしっと思い通りの違和感ない歯にしてくれた。
歯石をとるのも上手。口の中を血だらけにされることなく、すっきりと取ってくれる。
私服を肥やすことに執心していないので、そんな風に安い治療費でたいして儲からないだろうけれど、設備投資はきちんとなされている。

「なにもたさない、なにもひかない。」
いつかのウィスキーのキャッチコピーじゃないけれど、こういう良心的なかかりつけを持っていると、本当に安心できるし、メンテナンスもきちんとしなくちゃ、と思う。
せっかく来たのだから、と
「歯周病って治るものなんですか？」と尋ねると
「歯周病は完治するものではありませんよ。あれは老化現象のひとつなんです。
独特の口臭がないからって歯周病ではないわけではありません。僕も貴女も歯周病です。
４０を過ぎれば９０％のひとが歯周病にかかっているんです。」と言われてしまった。
歯周病＝入れ歯・口臭
という公式をうち建てていた私は、かなりショック！
20代からすでにほとんどの人の歯周病は始まっているのだそうだ。
老化現象なので、それを止めることはできないがスピードを落すことくらいはできるらしい。
ズバリ、歯のメンテナンス。
歯磨きと定期検診。スケーリングこそが歯周病の進行を遅らせる唯一の方法らしい。
脳天に響くドリルの金属音は苦手だけれど、半年ごとにはきっちりオーラルクリーニングはしなければ、とあらためて肝に銘じた。

本日の治療費。
初診料、外れた金具の接着、スケーリングで締めて1600円也。
80歳で20本を目指すのに、安すぎる治療費だ。