久しぶりに海を見た。
広い海、潮風を浴びていると、普段の生活と時間の流れ方が違うような気がする…。それは子ども達が赤ちゃんだった頃のゆっくりとした時間の流れ方に似ている。
もし自分が死んだら?まだ現実的ではないと思っていた普段の会話の中で彼は「育ててくれた伊豆の海に遺骨を撒いて欲しい」と言っていた。私は泳げないから嫌だなぁ、って言ったら「じゃあ死んだらバイバイだね…」って悪戯っぽく笑った。
カズは海が好きだったなぁ。小さな頃から夏は伊豆のおばあちゃん宅で過ごしていたから、泳ぎが上手で海の生き物にも詳しかった。
伊豆の海に行きたいけれど、思い出があり過ぎて、行く道中ですら泣いちゃうと思うから…行けない。
何事も命だけは取り返しがつかないから…だから命より重いものはない。
どれだけ時間が過ぎて他人には過去の事になっても私にとっては一生越えられない出来事。
もう一生誰にも会えなくても良いからカズにだけ会わせて欲しい。
そんな普通の何気ない日常を何故私だけ?奪われてしまったのだろう?どうしてもわからない。
伊豆に遺骨を撒いたらカズの一部はこの海まで届くことあるのかな…なんて考えながら見た、夏の海。