軟禁されて、三日が経とうとしていた。
エピメテウスは一通りのストレッチをこなすと、大きくあくびを漏らした。ベッド以外に調度品のないこの部屋は、とにかく退屈すぎる。
外の景色でも眺められれば、それでもまだ暇つぶしになるのだろうが、残念ながらこの部屋には窓一つない。そもそも、部屋、と言っていいものだろうか。
そこは塔だった。
窓どころか、扉すらない。唯一というか、屋根というものがないため、空を見上げることはできるが自由に空を飛べる翼がなければ、出ることも出来ない。
――塔と言うよりも、井戸の底だな。
横になると、丸く切り取られた青い空が睡魔を呼び寄せる。
平和なものだ。数日前には命を落としかけた場所とは思えないほどに。
欲望に負け、瞳を閉じるとすぐさま全身を睡魔が包み込む。いよいよ眠りに落ちそうになったとき――
ひらり、とまるで木の葉が舞い降りるように、降ってきた影。エピメテウスは目も開けずに言った。
「リーザか……少しやつれたか?」
「そういうことは、私の姿を見ていってくださいな」
苦笑する気配。ぽすんっ、と軽い衝撃と共に、ベッドが軋む。
「寝てばかりでは、体も鈍るでしょう」
「軟禁の次は説教か?」
「まさか」細い指がエピメテウスの指と絡む。「泣きにきました」
それだけ呟くと、エアリーズはエピメテウスの胸を叩いた。
「ここは、私の泣き場所です」
疲れもあったのだろう、エアリーズは泣くだけ泣いてそのまま眠ってしまった。
その長い髪を撫でながら、エピメテウスは改めて自分の罪の深さを思う。エアリーズはこうして、誰知らず一人で泣いていたのだろう。
ふと、手を止めて空を見上げた。暖かな陽光と、風に乗って歌声が聞こえたからだ。
「――死せる魂を純化する歌か」
白き魔女姫は、何を思って歌うのだろうか……。ぼんやりと、そんなことを考え、苦笑する。
何をいまさら、と。
視線を感じて振り返ると、エアリーズと目があった。
覚醒していないのだろう、焦点の合わないぼんやりとした瞳に、その瞬間に光が宿る。
「きゃっ」
がばっ、と身を起こし、衣服の裾をわたわたと直す。耳まで真っ赤になったエアリーズは、怒るでもなく、恥じるでもなく、悲しげに苦笑すると、それを隠すように大きく伸びをした。
「久しぶりに、よく眠れた気がします」
「……そいつはよかったな」
呆れたように応え返すと、エアリーズは立ち上がって服に付いたほこりを落とした。
「なんだ、もう行くのか?」
まだぼんやりしているのか、おぼつかない足取りのエアリーズ。できる限り落ち込んだような声音で言うと、意外そうな顔でエアリーズは振り返った。
「あなたは、まだここにいるつもりですか?」
おもむろに取り出した鍵束を見せると、巧妙に隠された鍵穴に差し込む。
ありえないほどスムーズに開いたレンガの扉の向こうで、天使の女性は怒ったように言った。
「早く出てくださいな。パンドラたちが待っていますよ」
唖然としながらも、三日ぶりに外へ出た。
見上げた空は、やはり青く、そして広かった。
エピメテウスは一通りのストレッチをこなすと、大きくあくびを漏らした。ベッド以外に調度品のないこの部屋は、とにかく退屈すぎる。
外の景色でも眺められれば、それでもまだ暇つぶしになるのだろうが、残念ながらこの部屋には窓一つない。そもそも、部屋、と言っていいものだろうか。
そこは塔だった。
窓どころか、扉すらない。唯一というか、屋根というものがないため、空を見上げることはできるが自由に空を飛べる翼がなければ、出ることも出来ない。
――塔と言うよりも、井戸の底だな。
横になると、丸く切り取られた青い空が睡魔を呼び寄せる。
平和なものだ。数日前には命を落としかけた場所とは思えないほどに。
欲望に負け、瞳を閉じるとすぐさま全身を睡魔が包み込む。いよいよ眠りに落ちそうになったとき――
ひらり、とまるで木の葉が舞い降りるように、降ってきた影。エピメテウスは目も開けずに言った。
「リーザか……少しやつれたか?」
「そういうことは、私の姿を見ていってくださいな」
苦笑する気配。ぽすんっ、と軽い衝撃と共に、ベッドが軋む。
「寝てばかりでは、体も鈍るでしょう」
「軟禁の次は説教か?」
「まさか」細い指がエピメテウスの指と絡む。「泣きにきました」
それだけ呟くと、エアリーズはエピメテウスの胸を叩いた。
「ここは、私の泣き場所です」
疲れもあったのだろう、エアリーズは泣くだけ泣いてそのまま眠ってしまった。
その長い髪を撫でながら、エピメテウスは改めて自分の罪の深さを思う。エアリーズはこうして、誰知らず一人で泣いていたのだろう。
ふと、手を止めて空を見上げた。暖かな陽光と、風に乗って歌声が聞こえたからだ。
「――死せる魂を純化する歌か」
白き魔女姫は、何を思って歌うのだろうか……。ぼんやりと、そんなことを考え、苦笑する。
何をいまさら、と。
視線を感じて振り返ると、エアリーズと目があった。
覚醒していないのだろう、焦点の合わないぼんやりとした瞳に、その瞬間に光が宿る。
「きゃっ」
がばっ、と身を起こし、衣服の裾をわたわたと直す。耳まで真っ赤になったエアリーズは、怒るでもなく、恥じるでもなく、悲しげに苦笑すると、それを隠すように大きく伸びをした。
「久しぶりに、よく眠れた気がします」
「……そいつはよかったな」
呆れたように応え返すと、エアリーズは立ち上がって服に付いたほこりを落とした。
「なんだ、もう行くのか?」
まだぼんやりしているのか、おぼつかない足取りのエアリーズ。できる限り落ち込んだような声音で言うと、意外そうな顔でエアリーズは振り返った。
「あなたは、まだここにいるつもりですか?」
おもむろに取り出した鍵束を見せると、巧妙に隠された鍵穴に差し込む。
ありえないほどスムーズに開いたレンガの扉の向こうで、天使の女性は怒ったように言った。
「早く出てくださいな。パンドラたちが待っていますよ」
唖然としながらも、三日ぶりに外へ出た。
見上げた空は、やはり青く、そして広かった。