どれだけ走ったのだろうか。荒い息をつくリヴァの姿に、聖花は胸が痛くなった。
「聖花、手を見せて。ひどい傷だ」
言うが早いか、聖花の手を取るリヴァ。聖花は思わず手を振り払って叫んだ。「わたしのことよりも、アリオーシュを助けて!」
「……アリオーシュ?」
ようやく事態を把握したらしい、リヴァが目を剥いた。「こ、これは――なんだ?」
轟々と鳴り響く風の音に、リヴァはようやく気がついたらしい。聖花は脱力そうになりながらも、リヴァに説明した。
「あの中に、わたしを助けてくれた人がいるの。あの黒い風は、わたしを狙ってきた人で――」
言い切る前に、リヴァが手で制した。
「……そうだろうね」
そのどこか余裕を感じさせる態度に、聖花は口をわななかせると、
「アリオーシュ……ぼくが知っている彼女なら、この程度の障害――」
突然、黒い風の一部が弾けた。
「――取るに足らない事だろうね」
「ば、馬鹿な!」
風を裂いて、悲鳴に似た声が響き渡る。
「なんだ、これは……貴様、体のうちに何を飼っている!」
風の勢いが弱まっていく。黒い風を飲み込むように、真っ赤な炎が食指を伸ばす。
「――わたしの身体は、わたしの物よ」
どこか、愁いに帯びた声――風と炎の合間から、アリオーシュの姿が見えた。
「アリオーシュ!」
半泣きになりながら、聖花は叫んだ。
「おの……れ! このままでは、終らんぞ!」
風の一部が矢じりのように変化すると、聖花を狙って打ち出された。
「えっ?」
我ながら間抜けな声だ。はたから見ると、自分は相当、呆けた顔をしているに違いない。
後になって、そう自虐するくらいに聖花は愚かで、普通の人間だった。
「聖花!」
いち早く異変に気がついたリヴァが、その傷だらけの腕を引く。
だが、まるで予想していたかのように、黒い矢じりは聖花の胸を捉えていた。
「魂の欠片も残すな――エレメンタラー」
ぱんっ! と風船が弾けるような音とともに、矢じりはその姿を消した。
「……え? なに、が?」
その場にへたり込んだ聖花が呟く。
その視線の先で、アリオーシュが鬱陶しそうに手を振った。
黒い風は炎に飲まれ、老人は断末魔を上げることもなく、消えてしまった。
「……あら、久しぶりね。リヴァ。
あなたがここにいるということは、狐は勧誘に失敗したのかしら?」
自然に、まるで、何事も無かったようにアリオーシュが言う。
その身体の周りに、炎の残滓が絡みついていた。
「エレメンタラーを収めろ、アリオーシュ。
――それとも、この場でぼくを焼き殺そうというのか?」
苦々しそうにリヴァが言った。
「……昔のように、アーシュとは呼んでくれないのね」愁いを帯びた表情でアリオーシュ。「どうして、わたしがあなたを殺さなければならないの?」
すう――とアリオーシュの目が細まった。
「聖花、手を見せて。ひどい傷だ」
言うが早いか、聖花の手を取るリヴァ。聖花は思わず手を振り払って叫んだ。「わたしのことよりも、アリオーシュを助けて!」
「……アリオーシュ?」
ようやく事態を把握したらしい、リヴァが目を剥いた。「こ、これは――なんだ?」
轟々と鳴り響く風の音に、リヴァはようやく気がついたらしい。聖花は脱力そうになりながらも、リヴァに説明した。
「あの中に、わたしを助けてくれた人がいるの。あの黒い風は、わたしを狙ってきた人で――」
言い切る前に、リヴァが手で制した。
「……そうだろうね」
そのどこか余裕を感じさせる態度に、聖花は口をわななかせると、
「アリオーシュ……ぼくが知っている彼女なら、この程度の障害――」
突然、黒い風の一部が弾けた。
「――取るに足らない事だろうね」
「ば、馬鹿な!」
風を裂いて、悲鳴に似た声が響き渡る。
「なんだ、これは……貴様、体のうちに何を飼っている!」
風の勢いが弱まっていく。黒い風を飲み込むように、真っ赤な炎が食指を伸ばす。
「――わたしの身体は、わたしの物よ」
どこか、愁いに帯びた声――風と炎の合間から、アリオーシュの姿が見えた。
「アリオーシュ!」
半泣きになりながら、聖花は叫んだ。
「おの……れ! このままでは、終らんぞ!」
風の一部が矢じりのように変化すると、聖花を狙って打ち出された。
「えっ?」
我ながら間抜けな声だ。はたから見ると、自分は相当、呆けた顔をしているに違いない。
後になって、そう自虐するくらいに聖花は愚かで、普通の人間だった。
「聖花!」
いち早く異変に気がついたリヴァが、その傷だらけの腕を引く。
だが、まるで予想していたかのように、黒い矢じりは聖花の胸を捉えていた。
「魂の欠片も残すな――エレメンタラー」
ぱんっ! と風船が弾けるような音とともに、矢じりはその姿を消した。
「……え? なに、が?」
その場にへたり込んだ聖花が呟く。
その視線の先で、アリオーシュが鬱陶しそうに手を振った。
黒い風は炎に飲まれ、老人は断末魔を上げることもなく、消えてしまった。
「……あら、久しぶりね。リヴァ。
あなたがここにいるということは、狐は勧誘に失敗したのかしら?」
自然に、まるで、何事も無かったようにアリオーシュが言う。
その身体の周りに、炎の残滓が絡みついていた。
「エレメンタラーを収めろ、アリオーシュ。
――それとも、この場でぼくを焼き殺そうというのか?」
苦々しそうにリヴァが言った。
「……昔のように、アーシュとは呼んでくれないのね」愁いを帯びた表情でアリオーシュ。「どうして、わたしがあなたを殺さなければならないの?」
すう――とアリオーシュの目が細まった。