ニュースの効果……だけではないだろう、四人が高校に到着したときには、すでに多くの『花見客』がたむろしていた。
中には見知った顔もちらほら見え、みんな考えることは一緒なんだな、と聖花はぼんやりと思う。
雪が舞い散る日に桜が咲くという現象は、珍しいことではあるが、驚愕するほどのことではない。
だが、春に一度開花し、散ったはずの桜が、再び夏に花を付けるという現象は明らかに異常だった。
「きれいね……」
うっとりとした表情で由香。そうだね、と追従する聖花もまた、満開に咲き乱れた桜の花に目を奪われていた。
「休みの日にまで、高校に出張る価値があったな」
と言うのは山崎だ。
同じ花を見るにしても、もう少し風情ある言葉を選べないのかと、聖花は軽くムッとする。
結局のところ、誰一人この異常現象に対して不安や恐怖を抱いていなかった。
いや、ただ一人、瞳を除いて――
「どうしたのよ、言いだしっぺ。いつもなら、一人ではしゃいで周りに迷惑かけるくせに」
「……聖花がわたしをどう思っているのかよぉぉぉく分かったよ」
憮然とした表情の瞳は、聖花の服を掴み、引っ張った。
「聖花、何かおかしくなぁい?」
ぼそりと囁かれた声に、聖花が幾分真剣な表情になる。
「おかしいって、まあ、夏に桜が咲くことはあり得ないとは――」
「そうじゃなくて!」
どこか焦燥した様子の瞳が自分の眼を指した。
「わたしの眼、閉じてるの。でも、分かる――感じる。ここは、何かおかしい」
「お、落ち着きなよ。確かにあんたの行動はいつもおかしいけど、いつもの比じゃないよ?」
「だから、」 この期に及んでとぼける聖花に、瞳は声を荒げた。「ここから離れよ。何かが起こる前に――!」
最初に悲鳴を上げたのは、聖花たちと同じくらいの少女だった。
ぐらり――と、初めは小さな横揺れから始まり、次第に強く、激しくなる地震――
ついには立っていることも困難となり、あたりからたくさんの悲鳴と怒号が上がる。
「固まれ!」
近くでひときわ大きな声をあげたのは山崎。恐怖のあまり動けなくなったのだろう由香を抱きながら、聖花に手を伸ばす。
一瞬の躊躇いの後、聖花はその手を掴むべく手を伸ばすが――
「瞳!」
振り返り、俯いたまま動かない友人を呼んだ。
「なに、これ?」
振り返った拍子に、その眼に映った光景に絶句する。
地震の影響か、次々と散っていく桜の花びら。まるでそれに意思があるように、渦を巻いて視界を奪う。
「山崎くん――!」
手を伸ばしていた少年の姿はない。薄いピンク色の花びらに包みこまれていた。
「聖花……あれ」
花びらの嵐に翻弄されながら、瞳が指をさす。
揺れる地面のせいか、それとも轟々と巻き上がる花びらのせいか。
聖花と瞳の前で、校舎が捻じれるように歪んで見えた――
「――いい加減起きろ」
そんな声とともに、目を開く。
微かな頭痛とともに、「あれ?」と自分が気を失っていたことを知る。
「すごい揺れだったな……大丈夫か?」
さして心配しているようには聞こえない声音で山崎。それが気に入らなくて、「うーん」とどっちとも取れる言葉で返した。
思考がまとまらない。何か重大なことを忘れている気がする。
だが、結局思い出すことができず、のろのろと身を起すのだった。
衣服に付いた埃を払いながら、ふと、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべた。
「ねぇね、ザッキーわたしが気を失っている間にエッチなことしたでしょぉ」
「はあ?」
心底心外だと言わんばかりに山崎が顔を歪めた。「なんでおれがそんなことしなけりゃならないんだよ!」
「聖花にはしたくせに?」
と、カマをかける。朝から様子がおかしい二人。明らかに山崎が何かをやらかしたのだろう、そう高をくくっての言葉だが、当の山崎の反応は、瞳の予想とは大きくかけ離れるものだった。
「……なあ、瞳。聖花って――誰だ?」
中には見知った顔もちらほら見え、みんな考えることは一緒なんだな、と聖花はぼんやりと思う。
雪が舞い散る日に桜が咲くという現象は、珍しいことではあるが、驚愕するほどのことではない。
だが、春に一度開花し、散ったはずの桜が、再び夏に花を付けるという現象は明らかに異常だった。
「きれいね……」
うっとりとした表情で由香。そうだね、と追従する聖花もまた、満開に咲き乱れた桜の花に目を奪われていた。
「休みの日にまで、高校に出張る価値があったな」
と言うのは山崎だ。
同じ花を見るにしても、もう少し風情ある言葉を選べないのかと、聖花は軽くムッとする。
結局のところ、誰一人この異常現象に対して不安や恐怖を抱いていなかった。
いや、ただ一人、瞳を除いて――
「どうしたのよ、言いだしっぺ。いつもなら、一人ではしゃいで周りに迷惑かけるくせに」
「……聖花がわたしをどう思っているのかよぉぉぉく分かったよ」
憮然とした表情の瞳は、聖花の服を掴み、引っ張った。
「聖花、何かおかしくなぁい?」
ぼそりと囁かれた声に、聖花が幾分真剣な表情になる。
「おかしいって、まあ、夏に桜が咲くことはあり得ないとは――」
「そうじゃなくて!」
どこか焦燥した様子の瞳が自分の眼を指した。
「わたしの眼、閉じてるの。でも、分かる――感じる。ここは、何かおかしい」
「お、落ち着きなよ。確かにあんたの行動はいつもおかしいけど、いつもの比じゃないよ?」
「だから、」 この期に及んでとぼける聖花に、瞳は声を荒げた。「ここから離れよ。何かが起こる前に――!」
最初に悲鳴を上げたのは、聖花たちと同じくらいの少女だった。
ぐらり――と、初めは小さな横揺れから始まり、次第に強く、激しくなる地震――
ついには立っていることも困難となり、あたりからたくさんの悲鳴と怒号が上がる。
「固まれ!」
近くでひときわ大きな声をあげたのは山崎。恐怖のあまり動けなくなったのだろう由香を抱きながら、聖花に手を伸ばす。
一瞬の躊躇いの後、聖花はその手を掴むべく手を伸ばすが――
「瞳!」
振り返り、俯いたまま動かない友人を呼んだ。
「なに、これ?」
振り返った拍子に、その眼に映った光景に絶句する。
地震の影響か、次々と散っていく桜の花びら。まるでそれに意思があるように、渦を巻いて視界を奪う。
「山崎くん――!」
手を伸ばしていた少年の姿はない。薄いピンク色の花びらに包みこまれていた。
「聖花……あれ」
花びらの嵐に翻弄されながら、瞳が指をさす。
揺れる地面のせいか、それとも轟々と巻き上がる花びらのせいか。
聖花と瞳の前で、校舎が捻じれるように歪んで見えた――
「――いい加減起きろ」
そんな声とともに、目を開く。
微かな頭痛とともに、「あれ?」と自分が気を失っていたことを知る。
「すごい揺れだったな……大丈夫か?」
さして心配しているようには聞こえない声音で山崎。それが気に入らなくて、「うーん」とどっちとも取れる言葉で返した。
思考がまとまらない。何か重大なことを忘れている気がする。
だが、結局思い出すことができず、のろのろと身を起すのだった。
衣服に付いた埃を払いながら、ふと、悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべた。
「ねぇね、ザッキーわたしが気を失っている間にエッチなことしたでしょぉ」
「はあ?」
心底心外だと言わんばかりに山崎が顔を歪めた。「なんでおれがそんなことしなけりゃならないんだよ!」
「聖花にはしたくせに?」
と、カマをかける。朝から様子がおかしい二人。明らかに山崎が何かをやらかしたのだろう、そう高をくくっての言葉だが、当の山崎の反応は、瞳の予想とは大きくかけ離れるものだった。
「……なあ、瞳。聖花って――誰だ?」