何も考えず、ただ歩き続けよう……そう、思っていたのに――
聖花は何度も立ち止まり、そのたびに目を拭った。
痛む心に何度も挫けそうになりながら、引きずるように足を動かす。
木々の香りの中に、微かに埃の臭いが混じり、心臓が否応になく早鐘を打つ。
――怖い。
できることなら、今すぐ逃げ出したい。
身体が震える。覚悟を決めたはず、なのに――
「見てよ、ノーチェ。獲物が自らやってきたわ」
不意に淡々とした声が響き、聖花は悲鳴を上げた。
頭上から音もなく降り立ったミスト。怪訝な表情で聖花を覗く。
「……呆れた。なにをしに戻ってきたのよ、あんた」
思わず後ずさった聖花は、その背中に柔らかい感触を感じ振り返った。
いつの間に回り込んだのだろうか、白い巨狼ノーチェが双眸を光らせていた。
「ピュラはどうしたのさ」
どこかイライラした様子でミストが口火を切った。「まさか、あんたの一人残して逃げちゃった?」
一転して、憐れむような視線を送るミストに、聖花が声を張り上げた。
「ピュラはそんなことしない!」
「どうだか」
嘲笑うミスト。聖花は恐怖を忘れ、ミストに掴みかかっていた。「ピュラを悪く言うと、許さないよ!」
「……へぇ」
あっさりと腕を振り払ったミスト。「どういう風に許さないの?」
聖花は無言でナイフを抜いた。「これが、答えよ」
聖花は何度も立ち止まり、そのたびに目を拭った。
痛む心に何度も挫けそうになりながら、引きずるように足を動かす。
木々の香りの中に、微かに埃の臭いが混じり、心臓が否応になく早鐘を打つ。
――怖い。
できることなら、今すぐ逃げ出したい。
身体が震える。覚悟を決めたはず、なのに――
「見てよ、ノーチェ。獲物が自らやってきたわ」
不意に淡々とした声が響き、聖花は悲鳴を上げた。
頭上から音もなく降り立ったミスト。怪訝な表情で聖花を覗く。
「……呆れた。なにをしに戻ってきたのよ、あんた」
思わず後ずさった聖花は、その背中に柔らかい感触を感じ振り返った。
いつの間に回り込んだのだろうか、白い巨狼ノーチェが双眸を光らせていた。
「ピュラはどうしたのさ」
どこかイライラした様子でミストが口火を切った。「まさか、あんたの一人残して逃げちゃった?」
一転して、憐れむような視線を送るミストに、聖花が声を張り上げた。
「ピュラはそんなことしない!」
「どうだか」
嘲笑うミスト。聖花は恐怖を忘れ、ミストに掴みかかっていた。「ピュラを悪く言うと、許さないよ!」
「……へぇ」
あっさりと腕を振り払ったミスト。「どういう風に許さないの?」
聖花は無言でナイフを抜いた。「これが、答えよ」