“非核と平和を一体”に、草の根からの連帯を(詳報)
広島への原爆投下から79年。原水爆禁止2024年世界大会では初の試みであるフォーラム「非核平和のアジアのために―日本とアジアの運動との交流」が5日、同市内で開催されました。非核の世界と東アジアの平和構築に向けた取り組みについて活発な討論が交わされました。パネリストは日本共産党の志位和夫議長、ベトナム平和委員会のズアン・ティ・ガー事務局長、非核フィリピン連合のコラソン・ファブロス事務局長、韓国・韓信大学の李俊揆(イ・ジュンギュ)客員研究員の4氏です。4氏の冒頭発言(6日付報道)を受けて活発に行われた討論と、会場との質疑などの詳報を紹介します。
冒頭発言後のパネリストの討論
冒頭発言を受けて、パネリストによる討論が行われました。
日本共産党議長 志位和夫さん
(写真)発言する志位和夫議長=5日、広島市中区
まず、私からも、海外から参加されたみなさんに連帯のエールを送ります。
ベトナムのズアン・ティ・ガーさんが、核兵器禁止条約を進めること、ASEAN(東南アジア諸国連合)を発展させる決意とともに紹介されたベトナムの安全保障の「四つのノー」――(1)軍事同盟を結ばず、(2)第三国に対抗するために他国と結託せず、(3)外国軍基地の設置を認めず、(4)武力行使・威嚇をせず――はたいへん大事な方針だと思います。
私は、昨年12月にベトナムを訪問してグエン・フー・チョン書記長(当時)と会談しました。その場で書記長は「志位同志、あなたが座っているこの席に、この1カ月の間にバイデン大統領と習近平主席の双方が座った」(どよめき)と、そして双方に対して「四つのノー」を表明した。アメリカにも、中国にもベトナムは「四つのノー」で行くと表明したことが話題になりました。大国の関与は歓迎するが、どちらの側にもつかない。自主独立の立場です。これはベトナムの立場でもあり、ASEANの精神でもあると思います。
では日本政府はどうか。「四つのイエス」になっている(笑い)。軍事同盟イエス、ブロック政治イエス、外国軍の基地イエス、武力の威嚇・行使イエス。日本の政治を変えていかないといけないと強く思います。
フィリピンのコラソンさんは、米軍のプレゼンス(存在)が戻っているとお話をされました。中国が南シナ海で乱暴な主張をやって、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の権利主張には根拠がない、力を背景にした現状変更はいけないと言ったにもかかわらず、「そんなものは紙くずだ」と言って耳を貸そうとしない。こういう横暴な態度は反対です。
(写真)各パネリストの発言に拍手を送る参加者=5日、広島市中区
同時に、中国の行為を口実にして、アメリカが軍事的な関与を強めようとしているのは重大な問題です。そして、ここに日本も関与している。この動きに反対するフィリピン人民のたたかいに連帯の気持ちを表明します。
そのうえで、フィリピンのマルコス大統領がASEANに対してどういう姿勢を示しているか。5月にアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が行われ、その場でマルコス大統領は繰り返しASEANの中心性をしっかり守り抜くと表明しました。ASEANの中心性とは、自主独立、大国の一方の側にも立たないということです。ASEAN10カ国には、アメリカの関与が強い国も、中国の関与が強い国もありますが、ASEANの中心性、自主独立を大切にするという点では10カ国は団結していると思います。そこも大事な点です。
フィリピンの歴史的たたかいへの敬意も申し上げたい。クラークとスービックの米軍基地を撤去させた。素晴らしい歴史的偉業です。そしてフィリピンは素晴らしい外交的な資産をつくったと思います。2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議の議長を務めたカバクチュランさんはフィリピンの外交官。前向きの成果を出して、核兵器禁止条約につなげました。そしてフィリピンは核兵器禁止条約の批准国になりました。そういう伝統をつくってきたのはフィリピン民衆のたたかいだと思います。連帯を重ねて申し上げたい。(拍手)
韓国の李さんは、朝鮮半島の非核化と平和プロセスの進展を一体にやるという原則が必要だと言われた。私もその通りだと思います。朝鮮半島の非核化という目標は絶対にゆるがせにしてはならない。同時に平和プロセスを進展させなければ前に進みません。つまり北朝鮮の安全保障上の懸念にもきちんと対応する平和体制をつくる必要があります。
2018年から19年の南北合意、米朝合意はそういう方向に進もうとした。しかし、うまくいかなかった。その教訓を踏まえても、まず交渉のルートを開く、そして交渉が始まったら、この原則にそくして一体的・段階的にやる。決して急がない。できるところから一歩一歩進んで、ゆっくりと信頼醸成を図りながら前に進むことが大事だと思います。
北東アジアに多国間の枠組みをつくることは私も大賛成です。この問題を解決するためには、米朝、南北とともに、日朝協議が大事です。日本が果たすべき役割は非常に大きい。南北も米朝も戦争状態にありますが、日朝は戦争状態にはないからです。日朝平壌宣言に基づいて日本が多国間の枠組みをつくる突破口を開き、6カ国協議のような多国間の枠組みを展望することが大事だと考えています。
先日、欧州左翼党前議長のビアバウムさんと会談し、欧州の平和勢力も、北大西洋条約機構(NATO)の拡大という同じ問題に直面していることが議論になりました。アメリカの「統合抑止」の名で、同盟国をすべて「対中国」の軍事戦略の中に組み込もうとしており、NATO、日本、韓国を結びつけ、フィリピンも誘いこもうとしている。ですから、アメリカのこの戦略に各国で連帯して対抗していこうということも申し上げたい。(拍手)
非核フィリピン連合事務局長 コラソン・ファブロスさん
(写真)発言するコラソン・ファブロス氏=5日、広島市中区
日本も「四つのイエス」になっているのは残念なことです。シャングリラ会合でのマルコス大統領の発言を知ることができて本当に良かった。ただ、残念ながらマルコス大統領の政策はそれと折り合いません。ぜひ、「東アジア平和提言」をマルコス大統領にも届けてほしい。(笑い)
ベトナムの同志のお話も意義深いものでした。1970年代、私はまだ学生でしたが、ベトナム戦争からたくさんのことを学びました。「四つのノー」は、まさにベトナム戦争の勝利の産物であると思っています。
韓国の李俊揆さんのお話について、北朝鮮と韓国に終戦をもたらすことが非常に重要だと思います。同時に、南北対話が一刻も早く再開されることが急務だと思います。人道的にも、家族が離れ離れになっている状態を一刻も早く解決することが重要です。
ベトナム平和委員会事務局長 ズアン・ティ・ガーさん
(写真)発言するズアン・ティ・ガー氏=5日、広島市中区
ベトナムの外交政策に対するポジティブな発言をいただけて大変うれしく思います。
今年はベトナムがフランスからの独立を果たしてから75周年です。それを記念して、ベトナム国内の各地でさまざまなイベントが行われました。戦争終結、独立についてのお祝いであると同時に、教育的な観点でも取り組みが行われました。主眼になったのは、未来の世代の人たちに対しての教育啓蒙(けいもう)活動でした。主権を守ることの大切さ、重要性について若者たちに教え、先人が果たしてきたさまざまなたたかい、その中での犠牲についても彼らに知ってもらうことです。
「四つのノー」に付け加えて、もう一つご紹介したいのが、「三つの柱」――誰がこの外交を担っていくかということです。一つは政党=共産党で、一つは国家で、もう一つの柱が市民社会です。人々同士の対話、交流を非常に重視しています。
韓国 韓信大学客員研究員 李俊揆さん
(写真)発言する李俊揆氏=5日、広島市中区
最近、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、韓国は共産全体主義とたたかうという表現をします。こういう現状を見てみれば暗い現状だと考えてしまいますが、この地域では人的交流、文化的接触、経済的統合のような流れは歴史的に最高の、お互いを身近に感じる、そのような時代でもあると私は思っています。そう考えれば、むしろ私たちには一つの希望もあると思います。例えば、ミャンマーのクーデターで若者たちがSNSを使ってメッセージを発信したり、封鎖された国境を越えて海外の仲間と交流をして情報交換をしたり、連帯する。そのような時代でもあるのです。
朝鮮半島の平和プロセスで、私も日本の役割は重要だと思っています。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の時代、2回も会ったこの地域の首脳は、小泉純一郎首相(当時)だけでした。その点を見ながら、今までの朝鮮半島と日本の関係をつくり直すアプローチをしてほしいと思います。
参加者との質疑応答
フォーラムは、参加者とパネリストとの質疑応答に移りました。
「中国脅威」論にどう対応していくか
■志位
この問題については、2008年の日中共同声明で、「双方は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」と合意し、今日まで引き継がれています。ですから国会でも、政府は中国を「脅威」だと決して言えません。日中両政府は「互いに脅威とならない」と認めている。そうであれば、日本は敵基地攻撃能力を保有しない、大軍拡はやらない。中国は、東シナ海での力ずくの現状変更はやらない。そのような前向きの行動による友好と協力関係への転換が求められます。
台湾問題については、平和的解決に徹する。中国による武力行使にも、日米の軍事的な関与も反対です。ましてや「台湾有事は日本有事」という議論は百害あって一利なしで、断固反対です。
若い世代にどう運動を引き継いでいくか
■ガー
平和活動の中で次世代の育成は非常に大事なことです。同時に、ネット上にさまざまな情報がとびかう中で、次世代の育成、若者に平和活動に興味を持ってもらう、関心を持ってもらう活動そのものは、大変な困難が伴うということをみんなで認めたいと思います。
ベトナムでの平和教育の取り組みで大事にしているのは、自分自身の頭で平和の大切さ、独立の大切さについて考えてもらうということです。先生たちが国連の模擬会議のようなものを開催して、特定のトピックを決めて討論してもらうというようなことです。ネットの普及で、子どもたちも自分自身で情報を得るようになりました。この模擬会議では、大人たちから解決方法を提示するのではなくて、みずから解決方法を考えて議論するという取り組みです。
■コラソン
フィリピンは若い国で、人口の6割から7割が若者という感じです。ですから、平和運動の活動家の多くはまだ学生だったりするので、大学内での活動が重要になっています。
しかし私たちにとっての課題は、若い世代にどうやって必要な情報を届けるかということです。例えば動画でいうと、なるべく短くて視覚的にカラフルで鮮やかなものが多い。そういう時代にあって、自分たちがどういうふうに情報を編集して届けるかが一つの課題だと思います。
■李
若者、若い世代を決めつけないことです。韓国でも、2012年に(かつての独裁政権の娘である)朴槿恵(パク・クネ)が大統領に当選したときに、最近の若者たちは保守化していると言われました。しかし、その朴槿恵をキャンドルデモで弾劾したのは若者たちです。ロシア大使館前で毎週末にやっている反戦デモの参加者は普通の青年たちです。
朝鮮半島の非核化と平和体制、朝鮮学校差別について
■志位
北朝鮮との関係では核・ミサイル・拉致問題を解決し、過去の清算をきちんとやらないといけない。こうした課題を包括的に解決する、日朝平壌宣言の基本精神に即した取り組みが必要です。
朝鮮学校への差別は決して許してはなりません。過去の歴史――侵略戦争と植民地支配に対する真摯(しんし)な反省があってこそ平和と信頼をつくることができます。例えばベルギーの国王がコンゴ支配について謝罪しました。過去の植民地支配や奴隷制度に対しては、いついかなるときのものであれ、過去にさかのぼって清算しなければならないというのが、2001年の国連ダーバン会議で確認されていることなのです。
■李
朝鮮学校の問題は、マイノリティーの権利の問題として認識していただきたい。つまりそれは、ただ北朝鮮につながっているとか、つながっていないとか、そういう問題だけじゃなく、日本社会が、どのようにマイノリティー民族に接していくのか、どのように包容していくのかという、そのような問題なのです。
ASEANの精神を「プラス8カ国」に広げるには何から始めたらよいか
■志位
ASEANの対話の習慣、中心性――自主独立の精神を北東アジアに広げていくためには、粘り強い努力が必要です。まずは一つ一つの国の政治を変えないといけない。日本では、対米従属の政治を根本から変えなくちゃいけない。
同時に、国際関係から変化をつくっていくことも大切だと思います。インドネシアに行ったときに、ASEANの成功の秘訣(ひけつ)を聞くと「良い対話の習慣がある。しかし北東アジアには対話の習慣が欠けている。ぜひ対話の習慣を北東アジアに広げてほしい」と言われました。ASEANは粘り強い対話で半世紀かかって平和の共同体をつくりあげました。一歩一歩、対話の習慣を北東アジアにも広げていきたい。
軍事同盟をなくすための市民社会の課題は何か
■志位
端的に三つの点をあげたいと思います。一つは軍事同盟そのものが有害で危険であることを事実に基づいて告発し、これをなくす国民の多数派をそれぞれの国の中でつくっていくことです。
二つ目に、軍事同盟への賛否はいろいろあっても、まずは緊急の課題に光をあてて外交の力で平和をつくっていく。今日お話しした「東アジア平和提言」もその一つです。外交で東アジアを平和な地域にしていく。これに軍事同盟の是非を超えて取り組んでいく。そうした努力で平和なアジアをつくることは、軍事同盟の存在基盤そのものをなくしていくことにつながります。
最後に国際連帯です。アメリカが「統合抑止」で世界中の軍事同盟を一つに束ねる動きを強めています。これに対して、まさにグローバルに国際連帯を強めていく必要があるのではないか。日本の沖縄にもぜひ連帯をいただきたいと思います。
同時に、世界のどの国であっても覇権主義を許さない。この原則が必要です。ロシア覇権主義によるウクライナ侵略を許さない。イスラエルも覇権主義です。許さない。世界のどの国であっても、覇権主義を許さない。中国による東シナ海や南シナ海での覇権主義も許さない。世界のどの国であっても国連憲章や国際法に背く覇権的な行動を許さない、「国連憲章を守る」というシングルスタンダードで世界が団結するということが大事だと思います。
■コラソン
志位さんに全面的に賛成です。軍事同盟がもたらす危険性を徹底的に知らせ、人々がどんな形で軍事同盟に苦しめられてきたのかについて共通の認識を高めることが大事だと思います。そして、暮らし・生活、命、環境にどう影響しているのかを知らせるということが重要だと思います。
国家が同盟を推し進めるならば、市民社会は個人レベルでの市民同士の同盟を推進していく必要があると思います。インターネットが普及する中で、いろんな情報にアクセスしやすくなりましたし、人々に情報を届けるのも簡単になりました。それを活用してさまざまな国の人々との団結を強める人間市民との外交努力を強めていきたい。
■李
志位さん、コラソンさんの話に大賛成です。一つ付け加えると、日本に在日米軍がいなければ、北朝鮮が日本を攻撃する理由がありません。軍事基地は攻撃目標でもあり、軍事同盟は、それに対抗する軍事同盟を呼び込むという悪循環をもたらします。
オルタナティブ(代替案)を丁寧に説明していかなければならないことも強調したい。東北アジアの多国間の枠組みや東北アジア非核地帯構想などのビジョンを丁寧に説明しながら運動を展開するこが必要だと思います。
パネリストのまとめの討論
この後、各地での運動、沖縄県での米兵による性的暴行に対する告発など参加者の発言が行われ、パネリストによるまとめの討論に入りました。
■李
朝鮮半島と東アジアの緊張が高まっており、南シナ海や台湾海峡で偶発的な衝突が全面戦争にエスカレーションしてしまう危険性があるのは事実だと思います。そういう時だから、予防外交が求められています。政府間の外交の問題ではなく民間の役割――危険な地域の住民同士が集まって、危険な地域だというメッセージを発信し警鐘をならす。そういう行動も含めて、市民の対話と連帯を拡大していくことが必要だと思います。
■コラソン
最後に励ましの言葉を。粘り強くたたかいを進めていくことが必要です。勝利を勝ち取るのは簡単ではありません。ときには、なかなか進まないことにイライラするかもしれませんが、少しずつでも小さな勝利を勝ち取りながら、たたかいを一歩ずつ積み上げていくことが必要です。
本当の平和を確立するためには長いたたかいが必要です。たたかいを若い人々に引き継ぎながら、若い人たちが光となってくれるように励まし続ける必要があると思います。
■ガー
なぜ私たちが広島に集っているのかということに思いをはせたいのですが、来年は(被爆80年という)大きな年になります。
どうやってこの運動を構築し壮大な運動をつくり上げて核兵器廃絶に向かっていくか、生きているうちに核兵器廃絶という被爆者の悲願にどうやったら達成することができるかとそうしたことを考え実践する役割を担っているのだと思います。80年にはまだ1年ありますから、この1年であらゆる努力を積み重ねていかなければなりません。
■志位
平和をつくり出す主体は何かについて申し上げたい。結論から言いますと、各国政府、市民社会、そして個人です。
核兵器禁止条約のことを考えてみますと、まず条約をリードしたいくつかの政府がありました。二つ目に、市民社会運動がなければ、この条約は絶対につくれなかった。各国の核兵器廃絶運動、日本の原水爆禁止運動といった、市民社会の役割がこんなに大きくなっているときはありません。
そして三つ目に、個人の力が、いよいよ平和をつくる上で重要になっています。被爆者の皆さんの訴え――被団協の藤森俊希さんや、カナダ在住のサーロー節子さんの訴えが議場を圧して、国際政治を揺さぶりました。
こうした経験を東アジアの平和構築でも、ぜひ生かしたい。この課題を政府まかせにするわけにいきません。市民社会と個人が頑張る必要があります。そして、国際連帯が何よりも大切です。そうした力を集めて、非核の世界と平和なアジアをぜひ実現したいと思います。
広島への原爆投下から79年。原水爆禁止2024年世界大会では初の試みであるフォーラム「非核平和のアジアのために―日本とアジアの運動との交流」が5日、同市内で開催されました。非核の世界と東アジアの平和構築に向けた取り組みについて活発な討論が交わされました。パネリストは日本共産党の志位和夫議長、ベトナム平和委員会のズアン・ティ・ガー事務局長、非核フィリピン連合のコラソン・ファブロス事務局長、韓国・韓信大学の李俊揆(イ・ジュンギュ)客員研究員の4氏です。4氏の冒頭発言(6日付報道)を受けて活発に行われた討論と、会場との質疑などの詳報を紹介します。
冒頭発言後のパネリストの討論
冒頭発言を受けて、パネリストによる討論が行われました。
日本共産党議長 志位和夫さん
(写真)発言する志位和夫議長=5日、広島市中区
まず、私からも、海外から参加されたみなさんに連帯のエールを送ります。
ベトナムのズアン・ティ・ガーさんが、核兵器禁止条約を進めること、ASEAN(東南アジア諸国連合)を発展させる決意とともに紹介されたベトナムの安全保障の「四つのノー」――(1)軍事同盟を結ばず、(2)第三国に対抗するために他国と結託せず、(3)外国軍基地の設置を認めず、(4)武力行使・威嚇をせず――はたいへん大事な方針だと思います。
私は、昨年12月にベトナムを訪問してグエン・フー・チョン書記長(当時)と会談しました。その場で書記長は「志位同志、あなたが座っているこの席に、この1カ月の間にバイデン大統領と習近平主席の双方が座った」(どよめき)と、そして双方に対して「四つのノー」を表明した。アメリカにも、中国にもベトナムは「四つのノー」で行くと表明したことが話題になりました。大国の関与は歓迎するが、どちらの側にもつかない。自主独立の立場です。これはベトナムの立場でもあり、ASEANの精神でもあると思います。
では日本政府はどうか。「四つのイエス」になっている(笑い)。軍事同盟イエス、ブロック政治イエス、外国軍の基地イエス、武力の威嚇・行使イエス。日本の政治を変えていかないといけないと強く思います。
フィリピンのコラソンさんは、米軍のプレゼンス(存在)が戻っているとお話をされました。中国が南シナ海で乱暴な主張をやって、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の権利主張には根拠がない、力を背景にした現状変更はいけないと言ったにもかかわらず、「そんなものは紙くずだ」と言って耳を貸そうとしない。こういう横暴な態度は反対です。
(写真)各パネリストの発言に拍手を送る参加者=5日、広島市中区
同時に、中国の行為を口実にして、アメリカが軍事的な関与を強めようとしているのは重大な問題です。そして、ここに日本も関与している。この動きに反対するフィリピン人民のたたかいに連帯の気持ちを表明します。
そのうえで、フィリピンのマルコス大統領がASEANに対してどういう姿勢を示しているか。5月にアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が行われ、その場でマルコス大統領は繰り返しASEANの中心性をしっかり守り抜くと表明しました。ASEANの中心性とは、自主独立、大国の一方の側にも立たないということです。ASEAN10カ国には、アメリカの関与が強い国も、中国の関与が強い国もありますが、ASEANの中心性、自主独立を大切にするという点では10カ国は団結していると思います。そこも大事な点です。
フィリピンの歴史的たたかいへの敬意も申し上げたい。クラークとスービックの米軍基地を撤去させた。素晴らしい歴史的偉業です。そしてフィリピンは素晴らしい外交的な資産をつくったと思います。2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議の議長を務めたカバクチュランさんはフィリピンの外交官。前向きの成果を出して、核兵器禁止条約につなげました。そしてフィリピンは核兵器禁止条約の批准国になりました。そういう伝統をつくってきたのはフィリピン民衆のたたかいだと思います。連帯を重ねて申し上げたい。(拍手)
韓国の李さんは、朝鮮半島の非核化と平和プロセスの進展を一体にやるという原則が必要だと言われた。私もその通りだと思います。朝鮮半島の非核化という目標は絶対にゆるがせにしてはならない。同時に平和プロセスを進展させなければ前に進みません。つまり北朝鮮の安全保障上の懸念にもきちんと対応する平和体制をつくる必要があります。
2018年から19年の南北合意、米朝合意はそういう方向に進もうとした。しかし、うまくいかなかった。その教訓を踏まえても、まず交渉のルートを開く、そして交渉が始まったら、この原則にそくして一体的・段階的にやる。決して急がない。できるところから一歩一歩進んで、ゆっくりと信頼醸成を図りながら前に進むことが大事だと思います。
北東アジアに多国間の枠組みをつくることは私も大賛成です。この問題を解決するためには、米朝、南北とともに、日朝協議が大事です。日本が果たすべき役割は非常に大きい。南北も米朝も戦争状態にありますが、日朝は戦争状態にはないからです。日朝平壌宣言に基づいて日本が多国間の枠組みをつくる突破口を開き、6カ国協議のような多国間の枠組みを展望することが大事だと考えています。
先日、欧州左翼党前議長のビアバウムさんと会談し、欧州の平和勢力も、北大西洋条約機構(NATO)の拡大という同じ問題に直面していることが議論になりました。アメリカの「統合抑止」の名で、同盟国をすべて「対中国」の軍事戦略の中に組み込もうとしており、NATO、日本、韓国を結びつけ、フィリピンも誘いこもうとしている。ですから、アメリカのこの戦略に各国で連帯して対抗していこうということも申し上げたい。(拍手)
非核フィリピン連合事務局長 コラソン・ファブロスさん
(写真)発言するコラソン・ファブロス氏=5日、広島市中区
日本も「四つのイエス」になっているのは残念なことです。シャングリラ会合でのマルコス大統領の発言を知ることができて本当に良かった。ただ、残念ながらマルコス大統領の政策はそれと折り合いません。ぜひ、「東アジア平和提言」をマルコス大統領にも届けてほしい。(笑い)
ベトナムの同志のお話も意義深いものでした。1970年代、私はまだ学生でしたが、ベトナム戦争からたくさんのことを学びました。「四つのノー」は、まさにベトナム戦争の勝利の産物であると思っています。
韓国の李俊揆さんのお話について、北朝鮮と韓国に終戦をもたらすことが非常に重要だと思います。同時に、南北対話が一刻も早く再開されることが急務だと思います。人道的にも、家族が離れ離れになっている状態を一刻も早く解決することが重要です。
ベトナム平和委員会事務局長 ズアン・ティ・ガーさん
(写真)発言するズアン・ティ・ガー氏=5日、広島市中区
ベトナムの外交政策に対するポジティブな発言をいただけて大変うれしく思います。
今年はベトナムがフランスからの独立を果たしてから75周年です。それを記念して、ベトナム国内の各地でさまざまなイベントが行われました。戦争終結、独立についてのお祝いであると同時に、教育的な観点でも取り組みが行われました。主眼になったのは、未来の世代の人たちに対しての教育啓蒙(けいもう)活動でした。主権を守ることの大切さ、重要性について若者たちに教え、先人が果たしてきたさまざまなたたかい、その中での犠牲についても彼らに知ってもらうことです。
「四つのノー」に付け加えて、もう一つご紹介したいのが、「三つの柱」――誰がこの外交を担っていくかということです。一つは政党=共産党で、一つは国家で、もう一つの柱が市民社会です。人々同士の対話、交流を非常に重視しています。
韓国 韓信大学客員研究員 李俊揆さん
(写真)発言する李俊揆氏=5日、広島市中区
最近、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、韓国は共産全体主義とたたかうという表現をします。こういう現状を見てみれば暗い現状だと考えてしまいますが、この地域では人的交流、文化的接触、経済的統合のような流れは歴史的に最高の、お互いを身近に感じる、そのような時代でもあると私は思っています。そう考えれば、むしろ私たちには一つの希望もあると思います。例えば、ミャンマーのクーデターで若者たちがSNSを使ってメッセージを発信したり、封鎖された国境を越えて海外の仲間と交流をして情報交換をしたり、連帯する。そのような時代でもあるのです。
朝鮮半島の平和プロセスで、私も日本の役割は重要だと思っています。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の時代、2回も会ったこの地域の首脳は、小泉純一郎首相(当時)だけでした。その点を見ながら、今までの朝鮮半島と日本の関係をつくり直すアプローチをしてほしいと思います。
参加者との質疑応答
フォーラムは、参加者とパネリストとの質疑応答に移りました。
「中国脅威」論にどう対応していくか
■志位
この問題については、2008年の日中共同声明で、「双方は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」と合意し、今日まで引き継がれています。ですから国会でも、政府は中国を「脅威」だと決して言えません。日中両政府は「互いに脅威とならない」と認めている。そうであれば、日本は敵基地攻撃能力を保有しない、大軍拡はやらない。中国は、東シナ海での力ずくの現状変更はやらない。そのような前向きの行動による友好と協力関係への転換が求められます。
台湾問題については、平和的解決に徹する。中国による武力行使にも、日米の軍事的な関与も反対です。ましてや「台湾有事は日本有事」という議論は百害あって一利なしで、断固反対です。
若い世代にどう運動を引き継いでいくか
■ガー
平和活動の中で次世代の育成は非常に大事なことです。同時に、ネット上にさまざまな情報がとびかう中で、次世代の育成、若者に平和活動に興味を持ってもらう、関心を持ってもらう活動そのものは、大変な困難が伴うということをみんなで認めたいと思います。
ベトナムでの平和教育の取り組みで大事にしているのは、自分自身の頭で平和の大切さ、独立の大切さについて考えてもらうということです。先生たちが国連の模擬会議のようなものを開催して、特定のトピックを決めて討論してもらうというようなことです。ネットの普及で、子どもたちも自分自身で情報を得るようになりました。この模擬会議では、大人たちから解決方法を提示するのではなくて、みずから解決方法を考えて議論するという取り組みです。
■コラソン
フィリピンは若い国で、人口の6割から7割が若者という感じです。ですから、平和運動の活動家の多くはまだ学生だったりするので、大学内での活動が重要になっています。
しかし私たちにとっての課題は、若い世代にどうやって必要な情報を届けるかということです。例えば動画でいうと、なるべく短くて視覚的にカラフルで鮮やかなものが多い。そういう時代にあって、自分たちがどういうふうに情報を編集して届けるかが一つの課題だと思います。
■李
若者、若い世代を決めつけないことです。韓国でも、2012年に(かつての独裁政権の娘である)朴槿恵(パク・クネ)が大統領に当選したときに、最近の若者たちは保守化していると言われました。しかし、その朴槿恵をキャンドルデモで弾劾したのは若者たちです。ロシア大使館前で毎週末にやっている反戦デモの参加者は普通の青年たちです。
朝鮮半島の非核化と平和体制、朝鮮学校差別について
■志位
北朝鮮との関係では核・ミサイル・拉致問題を解決し、過去の清算をきちんとやらないといけない。こうした課題を包括的に解決する、日朝平壌宣言の基本精神に即した取り組みが必要です。
朝鮮学校への差別は決して許してはなりません。過去の歴史――侵略戦争と植民地支配に対する真摯(しんし)な反省があってこそ平和と信頼をつくることができます。例えばベルギーの国王がコンゴ支配について謝罪しました。過去の植民地支配や奴隷制度に対しては、いついかなるときのものであれ、過去にさかのぼって清算しなければならないというのが、2001年の国連ダーバン会議で確認されていることなのです。
■李
朝鮮学校の問題は、マイノリティーの権利の問題として認識していただきたい。つまりそれは、ただ北朝鮮につながっているとか、つながっていないとか、そういう問題だけじゃなく、日本社会が、どのようにマイノリティー民族に接していくのか、どのように包容していくのかという、そのような問題なのです。
ASEANの精神を「プラス8カ国」に広げるには何から始めたらよいか
■志位
ASEANの対話の習慣、中心性――自主独立の精神を北東アジアに広げていくためには、粘り強い努力が必要です。まずは一つ一つの国の政治を変えないといけない。日本では、対米従属の政治を根本から変えなくちゃいけない。
同時に、国際関係から変化をつくっていくことも大切だと思います。インドネシアに行ったときに、ASEANの成功の秘訣(ひけつ)を聞くと「良い対話の習慣がある。しかし北東アジアには対話の習慣が欠けている。ぜひ対話の習慣を北東アジアに広げてほしい」と言われました。ASEANは粘り強い対話で半世紀かかって平和の共同体をつくりあげました。一歩一歩、対話の習慣を北東アジアにも広げていきたい。
軍事同盟をなくすための市民社会の課題は何か
■志位
端的に三つの点をあげたいと思います。一つは軍事同盟そのものが有害で危険であることを事実に基づいて告発し、これをなくす国民の多数派をそれぞれの国の中でつくっていくことです。
二つ目に、軍事同盟への賛否はいろいろあっても、まずは緊急の課題に光をあてて外交の力で平和をつくっていく。今日お話しした「東アジア平和提言」もその一つです。外交で東アジアを平和な地域にしていく。これに軍事同盟の是非を超えて取り組んでいく。そうした努力で平和なアジアをつくることは、軍事同盟の存在基盤そのものをなくしていくことにつながります。
最後に国際連帯です。アメリカが「統合抑止」で世界中の軍事同盟を一つに束ねる動きを強めています。これに対して、まさにグローバルに国際連帯を強めていく必要があるのではないか。日本の沖縄にもぜひ連帯をいただきたいと思います。
同時に、世界のどの国であっても覇権主義を許さない。この原則が必要です。ロシア覇権主義によるウクライナ侵略を許さない。イスラエルも覇権主義です。許さない。世界のどの国であっても、覇権主義を許さない。中国による東シナ海や南シナ海での覇権主義も許さない。世界のどの国であっても国連憲章や国際法に背く覇権的な行動を許さない、「国連憲章を守る」というシングルスタンダードで世界が団結するということが大事だと思います。
■コラソン
志位さんに全面的に賛成です。軍事同盟がもたらす危険性を徹底的に知らせ、人々がどんな形で軍事同盟に苦しめられてきたのかについて共通の認識を高めることが大事だと思います。そして、暮らし・生活、命、環境にどう影響しているのかを知らせるということが重要だと思います。
国家が同盟を推し進めるならば、市民社会は個人レベルでの市民同士の同盟を推進していく必要があると思います。インターネットが普及する中で、いろんな情報にアクセスしやすくなりましたし、人々に情報を届けるのも簡単になりました。それを活用してさまざまな国の人々との団結を強める人間市民との外交努力を強めていきたい。
■李
志位さん、コラソンさんの話に大賛成です。一つ付け加えると、日本に在日米軍がいなければ、北朝鮮が日本を攻撃する理由がありません。軍事基地は攻撃目標でもあり、軍事同盟は、それに対抗する軍事同盟を呼び込むという悪循環をもたらします。
オルタナティブ(代替案)を丁寧に説明していかなければならないことも強調したい。東北アジアの多国間の枠組みや東北アジア非核地帯構想などのビジョンを丁寧に説明しながら運動を展開するこが必要だと思います。
パネリストのまとめの討論
この後、各地での運動、沖縄県での米兵による性的暴行に対する告発など参加者の発言が行われ、パネリストによるまとめの討論に入りました。
■李
朝鮮半島と東アジアの緊張が高まっており、南シナ海や台湾海峡で偶発的な衝突が全面戦争にエスカレーションしてしまう危険性があるのは事実だと思います。そういう時だから、予防外交が求められています。政府間の外交の問題ではなく民間の役割――危険な地域の住民同士が集まって、危険な地域だというメッセージを発信し警鐘をならす。そういう行動も含めて、市民の対話と連帯を拡大していくことが必要だと思います。
■コラソン
最後に励ましの言葉を。粘り強くたたかいを進めていくことが必要です。勝利を勝ち取るのは簡単ではありません。ときには、なかなか進まないことにイライラするかもしれませんが、少しずつでも小さな勝利を勝ち取りながら、たたかいを一歩ずつ積み上げていくことが必要です。
本当の平和を確立するためには長いたたかいが必要です。たたかいを若い人々に引き継ぎながら、若い人たちが光となってくれるように励まし続ける必要があると思います。
■ガー
なぜ私たちが広島に集っているのかということに思いをはせたいのですが、来年は(被爆80年という)大きな年になります。
どうやってこの運動を構築し壮大な運動をつくり上げて核兵器廃絶に向かっていくか、生きているうちに核兵器廃絶という被爆者の悲願にどうやったら達成することができるかとそうしたことを考え実践する役割を担っているのだと思います。80年にはまだ1年ありますから、この1年であらゆる努力を積み重ねていかなければなりません。
■志位
平和をつくり出す主体は何かについて申し上げたい。結論から言いますと、各国政府、市民社会、そして個人です。
核兵器禁止条約のことを考えてみますと、まず条約をリードしたいくつかの政府がありました。二つ目に、市民社会運動がなければ、この条約は絶対につくれなかった。各国の核兵器廃絶運動、日本の原水爆禁止運動といった、市民社会の役割がこんなに大きくなっているときはありません。
そして三つ目に、個人の力が、いよいよ平和をつくる上で重要になっています。被爆者の皆さんの訴え――被団協の藤森俊希さんや、カナダ在住のサーロー節子さんの訴えが議場を圧して、国際政治を揺さぶりました。
こうした経験を東アジアの平和構築でも、ぜひ生かしたい。この課題を政府まかせにするわけにいきません。市民社会と個人が頑張る必要があります。そして、国際連帯が何よりも大切です。そうした力を集めて、非核の世界と平和なアジアをぜひ実現したいと思います。
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