意思による楽観のための読書日記

昭和ー戦争と平和の日本 ジョン・ダワー ****

 「敗北を抱きしめて」「転換期の日本へ」「吉田茂とその時代」で書かれてきたことを、目次のようなテーマ別に整理し直したという内容。

1 役に立った戦争
2 日本映画、戦争へ行く
3 「ニ号研究」と「F号研究」――日本の戦時原爆研究
4 造言飛語・不穏落書・特高警察の悪夢
5 占領下の日本とアジアにおける冷戦
6 吉田茂の史的評価 
7 日本人画家と原爆
8 ふたつの文化における人種、言語、戦争
9 他者を描く/自己を描く――戦時と平時の風刺漫画
10 日米関係における恐怖と偏見
11 補論――昭和天皇の死についての二論

印象に残るのは吉田茂評価と米国側日本側双方の人種的偏見について。吉田茂は大久保利通の息子である牧野伸顕の娘と結婚した。これが吉田茂の現実主義者的側面につながるのかどうかは証明できないが、実際西園寺公望を大使としたヴェルサイユ会議に牧野のお付きとして派遣されたように、政治的理念のようなものを受け継いだことは想像できる。その後、外交官として中国各地の領事を経験、日本が欧米諸国と対抗して行く政治的傾斜にブレーキをかけようとする。太平洋戦争中にも宇垣一成や近衛文麿を担ぎ出して反戦グループを形成し投獄される。終戦時、すでに67歳だった吉田茂はこうした「経歴」がGHQからも評価され終戦後の首相を務めることになる。GHQとしては日本でやりたい改革を日本で実行する「駒」として使いやすいと考えた。しかし、そのときに吉田が考えていたことは、GHQが考えていた日本の民主化から考えると相当保守的だった。つまり、国体の護持、共産勢力弾圧、日本的伝統復活、経済の繁栄、国際地位向上などで、その後GHQが打ち出す憲法草案、マッカーサーの五大改革など、反共産主義政策以外は吉田から見れば急進的で実行は無理、であった。当初から潜在していたGHQと吉田政権の摩擦は、再軍備要求から顕在化する。そもそも、日本が戦争に傾斜し突入してしまった理由を吉田は外交的つまずきと軍部の暴走と捉えていたが、GHQは明治維新以来の政治構造的問題であると考えていた。

吉田はこのようなズレをどのようにして実装していったのだろうか。日米の良好な関係確立、古い日本と新しい日本の共存、天皇制の維持と象徴天皇受け入れ、民主主義の実行と帝国日本制度の復活、男女機会均等の実施と伝統的価値観維持、これらの実現はサーカス的だがこれがGHQから見ると「吉田の本心が見えない」と映る。マッカーサーによる強権的改革がなければ実現できなかった日本の民主化と非武装化であったが、このサーカス的実装が現在の日本に占領の遺産として残る。日米安保条約と米軍基地(地位協定)がある前提での平和憲法である。

もう一つは人種的偏見、米国側の人種的偏見については、東洋人、日本人に対する差別的意識であり、現在でも根強く残っている。部族的、集団的、儒教的家父長制、人種的知的能力という見方であり、アジア人全般に対する白色人種から見た一般的偏見につながる。日本側の人種的偏見については、対白色人種、対アメリカ人だけではなく、対黒色人種、対アジア人についても言及。戦後の「ちびくろサンボ」や日本政治家による人種的差別発言などにも触れ、こちらも根強く残ることに言及している。こうした偏見は、戦後、貿易摩擦や安保条約の議論があるたびに、両国に同時に現れることを述べ、背景として太平洋戦争で顕在化したお互いに対する恐怖感と差別、軽蔑による戦意高揚が依然として残存することを前提に、それでも双方国民による相互理解と前向きな議論を期待している。

天皇制度については、日本における天皇制度の歴史について触れ、日本に残る古墳群、特に伝応神天皇陵、大仙陵古墳などを科学的に発掘分析することにより、天皇系列の歴史的真実に日本人が真正面から向き合い、事実を受け入れた上で現在の象徴天皇制度について認識する必要があると述べている。

ジョン・ダワーの著作を読むたびに考えるのは、憲法議論を日米安保条約と合わせて議論し未来の日本についての議論を戦わせない限り根本的解決はないということである。サンフランシスコ講和条約の締結に至る経緯を見れば、日本における米軍プレゼンスと日本国憲法の存在が条約締結の前提だった。サンフランシスコ講和条約には不参加だった中国、韓国との日中、日韓関係の今後についても、こうした歴史的視点がなければ前向きな解決は有り得ないことも再認識する必要がある。「歴史認識」の出発点は明治維新以降、日清日露戦争以降の欧米諸国との各種平和会議での日本政府の振る舞いであり、日本軍部の暴走を日本政府と国民が抑止できなかった反省を現行憲法や政治的制度にどのように継続維持していくのかである。憲法改正議論を近隣諸国や欧米諸国はしっかりと見ていることを深く認識する必要があると考える。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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